19-11. 語呂
さて。
無事彼らと合流し、彼らの気持ちも十分伝わった。
となれば、あとは彼らをフーリエまで連れて行くだけだ。
魔王軍の情報を聞き出したりとか、その後の事はCalcuLegaに帰って落ち着いてから取り掛かろう。
「白衣の勇者殿よ! 我ら、何時でも旅立つ準備は出来ている!」
「分かった。それじゃあ出発……――――と行きたいところだが」
「「「「「……だが?」」」」」
一斉に首を傾げるウルフ達。
「今晩はココで1泊。出発は明日の朝にします」
そうそう。彼らがやる気元気いっぱいなのは大変嬉しいんだけど、現在時刻はもう夜の7時。
地上はもう既に暗くなっているし、陽が昇ってからフーリエに戻った方が賢明じゃんか。
「今から地上に出たって真夜中だし、それにコースのお眠の時間も近づいて来てる。……だよな、コース?」
「んーん! 私はまだまだ元気だよー!」
……だそうですが、ああいうヤツは疲れるとプチッと電源が切れたように眠るのだ。
僕は知ってるからな。
「……とにかくだ。今日はお休み、出発は明朝。ウルフ達もそれで良いよな?」
「「「「「ハッ!」」」」」
ってな訳で、今晩はこの最深部の広場で野宿することになりました。
地下なので風は無いけど、温度や湿度は丁度良い。
肌寒い夜の砂漠よりよっぽど快適だ。
「ふぅー。暖かい」
広場のド真ん中には野宿恒例の焚き火を用意。広場全体を明るく照らしている。
そんな火にあたっているのは、僕とリーダー狼さんだ。
「これが焚き火であるか……」
「そうそう。僕達が野宿をする時には毎回焚いてるんだ。寝てる間の魔物除けにもなるしな」
「成程。此れならば魔物共も忌避するであろう」
……とか言っときながら、魔物であられるリーダー狼さんはガッツリ火にあたってるんだけど。
「そういうお前は炎、大丈夫なのか?」
「我らは問題ない。もう慣れている故に」
「……と言いますと」
「第三軍団には【火系統魔法】を操る猫共が居た故、十分に見慣れている。……そうでなくば、今頃我らも本能的に恐怖しているであろう」
「ほぅ」
成程、そっか。
魔王軍の魔物達には炎使いの仲間が居るから怖くないっと。
良いこと聞いた。メモメモ。
「……ところで、他の奴らは何をやってんだろう?」
焚き火から視線を外し、広場中をぐるりと見回してみる。
まだ就寝時間までは2、3時間有るし、今日一杯はシン達もウルフ達も皆自由時間ってコトにしておいた。
これから仲間になるんだし、この機会にお互い仲良くなれればなーって思ってるんだけど……皆はそれぞれ何をやってんだろう?
「あっ、チェバ! お友だちさんが来たよー!」
「わん!」
……おっ。最初に発見したのはコースとチェバ。
広場の右隅の方で数頭のウルフ達とお喋りしているみたいだ。
「お友だちさん、こんにちは!」
「普段から我らの同胞が世話になっている。忝い」
「いーのいーの! ……ほらチェバも挨拶して!」
「わん!」
「ああ。久し振りだな、同胞よ」
「……そうか。チェバ、お前は良い名前を貰ったな」
「わん!」
チェバとウルフ達が久し振りの再会を喜んでいる。
「にしても我らが同胞……いや、チェバよ。随分と成長したな」
「逞しく育っているようで。我らも安心だ」
「だってチェバ、やったね! 褒められちゃったよ!」
「わんわん!」
確かに、チェバのスネーク狩りは最近どんどん上手くなっている。
体格はまだまだ豆柴サイズだけど、少なくともうちの咬まれ王・シンよりは確実にプロだと思うよ。
「先生」
「ん?」
すると、噂の咬まれ王から声が掛かった。
声の方に振り向けば……そこに居たのはピッケルを担いだシンとダン、それにウルフが2頭だ。
「どうしたシン?」
「ダンとこの子達と一緒に、純ユークリド鉱石掘りに行ってきても良いでしょうか?」
「そう遠くには行かねえし、すぐ帰ってくるつもりだぞ!」
……あんだけ余るほど掘っておいてまだ掘るのかよ。
まぁ、止めはしないけど。
「行ってらっしゃい。気を付けてな」
「はい!」
「おう! 行ってくるぞ!」
そう言うと、2人と2頭は広場の出口の方へと走って行った。
シン達を送り出すと、今度はアークの声と気持ちよさげなウルフの唸り声が聞こえてきた。
「どうかしら。気持ちいいかな?」
「グルルゥ……」
振り向いてみれば……そこでは、じっと伏せるウルフの顎をアークが優しく撫でていた。
ウルフも気持ち良さげに目を細めている。
「次は……この辺、どう?」
「ウゥぅ…………」
続いて首元をワシャワシャと撫でてあげれば、次第にウルフの目がトロンとし始める。
紅く輝くアークの目もなぜかトロンとしている。
「…………zzz」
「……あら、寝ちゃった」
そのまま、ウルフはスフィンクス座りの格好で眠りに就いてしまった。
名残惜しそうな表情を浮かべつつも、ゆっくり手を離すアーク。
そんな彼女の手が、次に伸びた先は……。
「今度はあなたかしら?」
「……おっ、お願いします!」
彼女の目の前で今か今かと眺めていたウルフだ。
……ってか、その後ろには我も我もと待ちわびるウルフ達がズラリと列をなしていた。
「いつの間にかアークが大人気になってる」
「うむ……。気持ち良さそうである…………」
リーダー狼さんまでそんな光景を羨ましそうに眺める始末。
「ひょっとして……女神様であるか?」
「違います」
でも…… 撫でられて幸せそうに眠るウルフといい、モフモフに囲まれて幸せそうなアークといい。
女神様に見えなくもなかった。
「無限にモフモフできるなんて。……最高ね」
「グルゥゥ……」
少なくとも、楽園と呼べるくらいの空間は出来上がっていた。
「まぁ、皆なんだか楽しそうにやってるな」
「同意」
まぁ……シンとダンも、コースとチェバも、アークも、皆それぞれウルフ達と仲良くやってるみたいだ。良かった良かった。
この調子でコレからも仲良くやっていけるといいな。
「……して、勇者殿」
「ん、どうしたリーダー狼さん?」
「貴殿らが引き取った、あの我らが小さき同胞……貴殿らはチェバと呼んでいたな?」
「あぁ」
そうだけど。
「その名は……貴殿らが名付けたのか?」
「おぅ」
「そうか、素晴らしき名前を頂戴したものだ。彼には名前が無かった故に、きっとチェバも喜んでいるであろう」
だといいな。僕もそう思うよ。
「……あっ、そういやリーダー狼さん達にはそれぞれ名前あるのか? 有るなら是非教えて欲しいな」
「名前、であるか?」
「そうそう。これからもずっと『ウルフ達』だの『リーダー狼さん』って呼ぶのもちょっと距離感があるし、折角だからな」
……すると、リーダー狼さんは少し俯く。
「実は……彼らには名前が無い。纏めて『ウルフ共』と呼ばれていた故に、名前など不要であった」
「……そっか」
さすがは軍団って感じだ。
仕方ないもんな。
「ただ、長を務める我のみ名を持っていた」
「おっ、本当か!」
「……ただ、余り気に入ってはいないのであるが」
そうなのか……。
「けど……教えて欲しいな。もしお前が良いのなら、信頼の意も込めてその名前で呼ばせて欲しい」
「……貴殿がそう仰るのなら、承知」
そう言うと、リーダー狼さんは若干眉を寄せつつも――――堂々と、名乗った。
「我が名は……――――『クク』。ククと申す」
クク……。
クク、か…………!
「カッコいい名前だ!」
「……左様であるか?」
「勿論! なーんだ、リーダー狼さんもちゃんとした良い名前を持ってるじゃんか!」
「そっ、そう仰って下されば……忝い」
顔を下げて恥ずかしがってはいるものの、リーダー狼さんは……いや、ククさんはそこまで満更でもなさそうだった。
「それじゃあ、今度からは『ククさん』って呼ばせてもらうからな」
「いや、さん付けは不要で――――
「良いんだよ良いんだよ、そっちの方が語呂良いし」
まぁ、とにかくコレで決定だな。
「頼んだよ。ククさん」
「……承知!」




