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19-7. 居眠りⅡ

「コレですね。53番坑道の入口です」


斜面につくられた下り坂を穴の底に向かって歩けば、見覚えのある坑口に辿り着く。


穴の一番底にあり、そして一番新しい坑道……第53番坑道の入口だ。

近くに打ち捨てられたままの『53』と彫られた看板がソレを証明している。




「ついにココまで帰ってきたんよ、チェバ!」

「ここまで来ればもう少しですからね」

「わん!」


坑口を前に立ち並び、真っ直ぐ奥へと伸びる坑道を眺める。

入口からしばらくは陽の光も入って明るいけど……ある程度奥まで行ってしまえば、もうソコから先は地下の世界。何も見えない。

吸い込まれるような真っ暗闇に視界を合わせれば、瞳孔がブワッと広がる。




……けれど、そんな暗闇に立ち向かう方法が僕達には有る。



「それじゃあ皆、ヘルメットを用意しようか」

「はい」


あの便利アイテム、魔導ランプ付きヘルメットだ。

前回管理棟から拝借したっきり借りパク状態だけど……返すつもりは無い。今回もお世話になります。



「これが無いと坑道は真っ暗だもんね」

「ああ。コレでバッチリだぞ!」

「怖いもの無しです!」


ヘルメットを被れば、それぞれの頭のランプがピカッと光る。

いくら2度目の坑道だと言っても、明かり無しじゃ無理だもんな。



「それじゃあ、行くぞ」

「はい!」


という事で、準備は完了。

再びの53番坑道へ、足を踏み出した。







――――と思った、その時。



「……何か来るわ」

「わんわん!」


何かを感じ取ったアークとチェバが、ふいに足を止める。



「何!?」

「どうしたアーク!?」

「分からない……けど、何かが近付いてくる気がするの」

「わんッ!」


真っ暗な坑道の奥を見つめて、そう呟くアーク。

チェバもどうやら何かを感じ取っているらしい。



「……何者だ?」

「魔物でしょうか……?」

「ひょっとしてトーゾク……?」


得物に手を掛け、待ち受ける僕達。

何も見逃すまいと暗闇に視線を集中し、瞳孔がブワッと広がる。



【冪乗術Ⅱ】(パワー)・all3  for ens.ALL」


今のうちに全員のステータスを3乗。

相手が誰であろうと、コレさえあれば大体の状況には対応できるハズだ。




スタッスタッ

スタッスタッ

「……どうやらアークの言った通りみたいですね」

「ああ。本当に何かが近付いてるようだぞ……」


静かだったハズの坑道の奥から軽快な足音が響いてくる。



スタッスタッ

スタッスタッ

「「「「「…………」」」」」


暗闇に意識を集中する。

口を閉ざして大きくなる音に耳を澄ます。






――――そんな臨戦態勢の僕達の前に、暗闇の中から姿を現したのは。




「白衣の勇者殿」

「我ら、出迎えに参りました」


2頭のフォレストウルフだった。











「なーんだ。チェバのお友達だったのかー」

「もう俺、無駄に緊張しちまったぞ」

「まあまあダン、杞憂に終わって良かったじゃないですか」

「驚かせてしまって申し訳ない。我らも一早く貴殿らの出迎えにと急いでいた故に」


敵じゃないと分かり、緊張が解けてホッとする僕達。



「わん!」

「おお、久し振りだな同胞。長も皆もお前に会いたがっているぞ」

「わんッ!」


チェバも久し振りの仲間に会えて喜んでいるみたいだ。




「それにしても、ウルフ達がわたし達のためにこんな所まで来てくれるなんてね」

「あぁ。出迎えなんて考えもしなかったよ」

「いえ、我らは長の命を受けて参っただけですから」

「成程。あのリーダー狼さんの」


流石はリーダー狼さん、気が利くじゃんか。



「とは言っても……最奥部にあるお前達の(ねぐら)からココまで結構掛かったんじゃないか?」

「そうね。わたし達の足でも歩いて5、6時間かかったんだけど……」

「我らが全力疾走すれば、此処まで1時間となく辿り着けるので」


……速っ!?



「この程度であれば我らは苦にしません」

「それに、見張り役の我らは度々往復しているので」

「……そっすか」


ウルフの強靭な脚、恐るべしだ。




「まぁ、わざわざありがとな。お前達」

「「ハッ」」
















という事で。



「それじゃあ、気を取り直して……行こうか」

「「「「おう!」」」」

「わんッ!」

「「ウォンッ!」」


出迎えのウルフ2頭が合流し、5人と3頭となった僕達のグループは……改めて最深部へと向かって坑道に潜入した。




どこからともなく響く音、風のない通路、普段とは異なる地下の空気。

非日常的な雰囲気……とはいえど、僕達ももう2回目。勝手が分かっているのである程度安心して坑道を進めるのだ。


頭の魔導ランプのお陰で視界は十分だし、坑道内の道のりもおおよそ覚えているし、それに何より……――――




「ウルフ達のお陰で安心感が凄いんだよな」

「ああ。本当だぞ」


先頭に立って僕達を先導してくれているウルフ達がヒョイヒョイと現れる魔物を蹴散らしてくれているんだよな。

奇襲を仕掛けようと坑道に隠れている魔物でさえ、早々に見つけては一蹴。チェバと同じくガブガブと捕食していた。



「わたし達の出番、しばらく来なさそうね」

「はい。折角ステータス強化を掛けてもらったのですが……」


そんな訳で僕達に回ってくる魔物が居ないので、シンとアークとダンに掛けた【冪乗術Ⅱ】(パワー)の意味はほとんど無くなってしまった。

僕とコースにおいては出番すら無くなってしまった。残念。



「ヒマだなー。なんかこのまま居眠りしちゃいそーだよー……」

「コースお前、歩きながら寝るのか!?」

「気を抜き過ぎです。もう少し緊張感を持ってください!」


とまぁ、そんな頼れる先導役にエスコートされているので安心感が凄すぎた。

コースが眠くなるのも仕方なかった。






「……そうだな」


僕も少し手持ち無沙汰になってしまったので……折角だから今のうちに彼らに聞いておこうと思う。

1つ尋ねておきたい事が有るんだよな。



「なぁ、ウルフ達」

「ハッ、何でしょうか?」

「この前、僕がお前達に下した初めての命令……憶えてるか?」


命令……純ユークリド鉱石の採掘依頼の帰り際に、お試し感覚で下したヤツだ。



「勿論です。貴殿が良しと言うまで坑道から出ぬこと」

「そして違えた者はマジで消すとのこと」

「うん。オッケー」


よしよし、ちゃんと憶えていたようだ。




「ちゃんと守ってたか?」

「「ハッ」」



――――ん?






「……本当かよ? 破ってないよな?」

「勿論」

「我らは仰せのままに」



――――ハハァン。成程ね。






「そうかそうか。一度だけ出ちゃったんだな」

「なっ……!?」

「なぜそんな流れに……!?」


そう言ってみれば、途端に動揺し始めるウルフ達。

彼らの被っていたポーカーフェイスがガラガラと崩れていく。



「坑口付近で見張り中、カースドスネークを偶然捕り損ねて……逃げるスネークを追いかけて捕まえて、ふと気付いたら坑道の外とな」

「「何故そこまで……」」


この反応、どうやら大当たりだったようだ。

そして足を止め、プルプルと震え出すウルフ達。……どうやら命令に背いて消されると思ってるみたいだ。



「ハァ、仕方ないな。良いよ」

「「……っ?」」

「故意じゃないんだし、見なかった事にしよう」

「「(かたじけな)いっ!」」


逃げ出した訳でも魔王軍に再び寝返った訳でも無いんだし、今回は無罪放免って事にしてやった。



「それにしても……まさか我らの長でさえ知り得ぬことを、貴殿に知られていたとは」

「これが貴殿の、数学者の力でしょうか?」

「んー、まぁそんな感じだな。コレが――――『数学者の勘』ってヤツだ」

「「数学者の勘……」」

「あぁ」


今回もそういう事にしておいた。











という事で、僕達の坑道探検は再開。

悩みが晴れて足取りが軽くなったウルフ達を先頭に、最深部を目指して歩き始めた。



「ところでなんだけど、ケースケ?」

「ん?」

「今日はやけに『数学者の勘』が冴えるわね」

「あぁ。僕でもビックリしてるよ」

「へぇ。そうなんだ」




――――とまぁ、アークにはそんな事を言っているけど……実は『数学者の勘』なんてモンは初めから存在しない。

ウルフ達のみならず、コースやアーク達にも都合が良いので隠しているけど……実は紛れもない【演算魔法】の力なのだ。


つい昨晩手に入れたばかりの新たな魔法、その名も……【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)だ!






¬¬¬¬¬¬¬¬¬¬






昨夜。数学の勉強の終盤、練習問題に入る所で僕の指にはいつもの予兆が来ていた。

人差し指を問題文に触れて魔力を流せば……――――




『(さぁ来いッ! 魔力注入!)』

ピッ



===========

アクティブスキル【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)を習得しました

===========



目の前に現れるのは、新魔法の習得を告げるメッセージウィンドウ。



『(ヨッシャァ!)』


今回の『命題』の単元で手に入れた新魔法は【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)だ。

命題の単元に相応しい、勉強した内容そのままの名前の魔法だった。


そして、この魔法だけど……中々面白い効果だったんだよな。




===【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)========

魔力を消費して、命題の真偽判定を高速かつ正確に行える。

判定能力はスキルレベルによる。



【状態操作Ⅵ】ステータス・オペレーションとの併用による効果

任意の対象への質問に対して、その返答の真偽を知ることができる。偽であった場合には反例も1つだけ示される。

この効果は、質問に対する返答直後にのみ使用できる。

===========




『(成程……)』


ちょっと効果が複雑だったので分かりづらかったけど……分かりやすく言えばウソ発見器だ。

それも、具体的なウソの内容まで詳らかになってしまうという高性能仕様。



『(……コレは使える)』


文字通りの強さとはまた違った強さを誇る、中々なチート性能の【演算魔法】。

コイツならきっと色々な場面で一役買ってくれるだろう。日常場面では勿論、あわよくばCalcuLegaの情報収集にも……?



『(【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)……最高じゃんか!)』


独り焚き火に当たりながら、【真偽判定Ⅰ】(ジャッジメント)のプレートを眺めてニヤけていた。






∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵






……なんて事があったのはコースやウルフ達を始め、シンもダンもアークも、勿論チェバだって知らない。


しばらくは『数学者の勘』って建前を良いように使って、この『ウソ発見魔法』を存分に楽しませて貰おうか。

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[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
[一言] そら命題関連やったらそこしか魔法にできるとこないやろなあ…
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