19-6. 居眠りⅠ
そんなこんなで夜の見張り番ローテーションは1週し。
広大なフーリエ砂漠に朝陽が昇れば、目を覚ましてテントから出てくる僕達。
朝食をとり、焚き火とテントを片付け、荷物をリュックに纏めて背負えば――――
「それじゃあ、出発しようか」
「「「「おー!」」」」
6筋の足跡が、フーリエ鉱床地帯へと再び伸び始めた。
フォレストウルフ達を迎えに行く旅・2日目の始まりだ!
「皆、昨晩の見張りでは何か有ったか?」
コンパスを持つダンを先頭に砂漠を歩きつつ、昨夜の見張りについて聞いてみる。
一応の確認だ。
「特に何もありませんでしたよ」
「わたしはずっと考え事してたかな」
「俺はヒマと眠気で辛かったぞ」
「そっか」
まぁそうだよな。
炎を焚いてるから魔物も近寄らないし。
「えっ、えーっと……私たちも特に無かったよねー? チェバ?」
「わん!」
……なんだかコースだけ様子がおかしい。
チェバをじっと見つつも、なんだかチラチラと目が泳ぐような……。
「どうしたコース?」
「えっ! ん、んーん! 居眠りしてないよー!」
居眠り?
「「「「「…………」」」」」
「……あっ」
トンチンカンな答えに察した僕達、苦笑。
それに気づいたコースも思わず声が零れる。
……が。
それでも彼女は、どうやら嘘を貫き通そうとしているようで。
「居眠りしちゃったんだな、コース?」
「してないよー!」
「怒りませんから正直に答えてください。居眠りしちゃったんですね?」
「してないしてないー!」
「分かるぜコース、夜は眠みいよな?」
「んーん! 私はおめめパッチリだったもん!」
バレバレの嘘の割には案外しぶとかった。
「……なかなか諦めないのね、コース」
「はい。別に私達、怒ってる訳でもないんですが」
……そう。シンの言う通り、僕達は居眠りを咎めるつもりはサラサラ無い。
僕だって眠気覚ましついでに数学を勉強している訳だし、ましてや漫画もスマホもゲームもテレビも無いんじゃ夜の1時間半なんて苦痛でしかないだろ。居眠りしない方がおかしいよ。
それはコースも分かっているハズだけど……プライドが邪魔しているのか、それとも何かやましい事でもあるのか、どうも彼女は頑なに居眠りを認めない。
一体何がコースをそんなに駆り立てているんだ?
――――となりゃ、面白い。
ソッチがその気なら僕もぶつかってやろうじゃんか。
切り崩してやるよ、コースの嘘を。
僕の攻撃に耐えられるモンなら耐えてみな。
「じゃあ……最後に聞くぞ、コース。居眠りしたのか?」
「んーん、してないよ!」
――――ほぅほぅ。
「居眠りしてないんだな?」
「うん!」
――――成程な。そういう事だったのか。
「……分かった」
「さっすが先生! やっと分かってくれたんだねー!」
「あぁ。コースが意地でも『居眠りしてない』って言い張る理由がな」
「ゲゲッ!?」
嘘をつき通したと安堵の表情を浮かべたコースが一転、目を丸くする。
……そう。コースが嘘を貫き続けてた理由、それはコレを隠すためだったんだ。
「お前、チェバに見張りをやらせて居眠りしてたようだな」
「「「「えっ」」」」
「いや、居眠りというよりはガッツリ寝てたのか」
「なっ……なんでーッ!? なんで先生がソレ知ってんの!?」
ひた隠していたハズのサボりが暴かれ、愕然のコース。
衝撃の事実を知ったシン達も呆気にとられていた。
「私とチェバだけの秘密だったのにー……」
「それを隠すために嘘をついてたのね」
「やけに居眠りを認めねえなと思いきや。そういう事か」
「先生の仰った事は本当ですか、コース?」
「…………うん」
そして陥落。
僕の攻撃をモロを受けたコース、シンの問いに一発でコロリと認めてしまったのでした。
案外脆い壁だったな……。
「ごめんなさいッ! 眠気に耐えられなくて……ついつい居眠りしちゃって」
「そんな謝らないでよね、コース」
「私達は怒ってませんし、気にしないで下さい」
「俺だって昨日はずっとコックリコックリだったからな。同じようなモンだぞ」
その後……コースも一度居眠りを認めてしまえば、さっきまでの粘りはドコへやら。
いつも通りの純粋さを取り戻していた。
「……ダンもそうなの?」
「おう!」
「なーんだ! そーだったんだ!」
「ぶっちゃけ焚き火の薪足しさえ忘れなきゃ大丈夫だよな!」
「うん!」
まぁ居眠りは仕方ないけど、2人とも油断はするなよ……。
とまぁ、ソレは置いといてだ。
「それよりコース、問題は『チェバに見張りをやらせてた事』だよ」
「あっ、えーっと……やっぱそうだよね……」
「まだチェバは子どもですし、戦えるといってもタカが知れてます」
「それに何より、コースのサボりに使われたチェバが可哀そうでならねえぞ」
「うん……」
まだ豆柴サイズのチェバじゃ、見張り番をさせるには幼過ぎるし……それにチェバお前、まさかコースに良いように使われていたとは。
「可哀そうじゃねえか、チェバ」
「昨晩は大丈夫だったかしら?」
「わん!」
そんな使われていた側のチェバ、なぜか尻尾を振って答えていた。
なんだか嬉しそうなんだけど……果たしてコースのパシリにされてるの気付いてるんだろうか。
色々心配だ。
「まぁそういう事だ。気を付けろよコース」
「チェバもね。あんまりコースのズルに加担しちゃだめよ」
「はーい……」
「くぅん……」
「ねーねー先生、1つだけ聞いていい?」
「ん、どうした?」
「チェバに見張りしてもらってたの、私とチェバの2人だけの秘密だったのに……なんで先生も知ってたの?」
「あー」
あぁ、ソレの件か。
「僕にとっちゃ、コースのつく嘘や隠し事なんて大体お見通しなんだよ」
「うそーッ! なんで!?」
「そうだな。……数学者の勘、ってヤツか」
「数学者のカン……なんかカッコいー!」
「だろ? 数学者舐めんな」
「うん!」
数学者の勘……まぁ、そういう事にしておくか。
とまぁ、そんな話をしながらも僕達の旅は進む。
時々現れるリザードやスネークとの戦闘をチャチャっと片付け、昼食休憩もとりつつ、コンパスの指し示す方へとひた歩けば――――
フォレストウルフ達を迎えに行く旅・2日目。
14:30。
「……おっ、アレは!」
一面薄黄色の砂しかないハズのフーリエ砂漠に現れた、横に広がる黒の帯。
フーリエ鉱床地帯をぐるりと囲む鉄柵が見えてきた。
「チェバ、もーすぐだよ!」
「わん!」
2度目とはいえど、やっとゴールが見えてくれば嬉しくなっちゃうモンだよね。
「まさか、本当に1日半で着いちゃうなんてね」
「私もビックリです」
「カジさんの対魔物用武器のお陰だぞ!」
「あぁ。今度加冶くんにお礼を言わなきゃな」
そんな興奮も冷めやらぬうちに、もう鉄柵は目の前。
片道2日の前回記録を大幅に更新してフーリエ鉱床地帯に到着した。
「あっ、この前の抜け穴みーっけ!」
前回と同じく鉄柵に空いた穴を這って抜け、鉱床地帯に入る。
膝やお腹に付いた砂をサッサッと払い、立ち上がれば――――そこには。
「……デカい」
「何度見ても壮大ですね」
砂漠が逆円錐型にくり抜かれたような巨大な穴。鉱床地帯が広がっていた。
穴の縁に立って底を覗き込めば、斜面には無数の坑道やボロボロに風化した建物。この前と変わりは無かった。
「全員穴を抜けたな。それじゃあ、行こうか」
「……そういえば、わたし達がこの前潜った坑道って何番だったかしら?」
「53番だよー!」
「あっ、正解です。よく憶えてましたねコース」
即答したコースにシンも感心している。
「うん! なんたって53番のゴミ坑道だからねー!」
「「「「…………」」」」
「なんつー語呂合わせだよ……」
ま、まぁ……どれだけ酷かろうと語呂合わせなんだから仕方ない。
思い出せればコッチのモンなのだ。
「とりあえず行きましょうか。ココからは私が先導しますので」
「おぅ。シンよろしく」
そう言い、リュックから鉱床地帯の地図を取り出したシンを先頭に。
僕達は53番坑道の入口目指して穴の斜面を下って行った。




