19-3. 再出発
リーダー狼さんと話をした、その翌々日。
陽も昇った直後の、早朝6時半。
港町・フーリエ、西門にて。
「皆、忘れ物は無いな?」
「はい。勿論です!」
「魔導コンパスもバッチリだぞ!」
「チェバも準備オッケーかしら?」
「わんわん!」
旅の準備をしっかり整え、西門のトンネルを前にする僕達。
目指す先は、再びのフーリエ鉱床地帯……そこに居るフォレストウルフ達との合流だ。
「それじゃあ……シュッパツだよー!」
「「「「オー!」」」」
僕達5人と1頭は、パンパンのリュックを担いでフーリエの街を出発した。
僕達からすれば、フーリエ鉱床地帯はコレで2回目。
初めてだった前回は、『高難易度依頼』っていうトラスホームさんの言葉にビビっていたのもあって若干緊張感があった。
……けど、今回の僕達にはもう緊張のキの字も無かった。
「ねーねーチェバ。チェバのお友だちは皆元気だって先生が言ってたよ!」
「わん!」
「久しぶりに会いに行くの楽しみだね!」
「わんわん!」
チェバに話しかけながら、ブンブン手足を振って陽気に歩くコース。
そんな彼女の足元を、尻尾をフリフリと揺らしながらついていくチェバ。
「なぁシン! また一杯掘ってこようぜ、純ユークリド鉱石!」
「そんなに要らないですよ、ダン。ギルドに買取拒否されるほど有り余ってるんですから」
「そういえばそうだったぞ……」
「……ただし、特大な結晶を見つけたら遠慮なく頂いていきましょう」
「そうだな! 部屋に飾ろうぜ!」
今回も鉱石を採掘する気満々のシンとダン。今度は純ユークリド鉱石を置物にするとは、なんて贅沢なんだ。
……そういや関係ない話なんだけど、祖父母の家とかで謎の鉱石の置物が飾られてる事、たまにあるよな。アレ何なんだろう。
「……シン、ダン、だったらさ。今度は『純』じゃなくて『普通の』ユークリド鉱石を沢山頼むよ」
「『普通の』……蒼色じゃなくて水色の結晶のことかしら?」
「そうそう。砕いて粉にすれば、僕お気に入りの万能洗剤になるんだ」
「成程、散魔剤だな! 任せとけ先生!」
かくいう僕もちゃっかり彼らにお願いする始末。
緊張や不安なんてドコへやら、もはや怖いものなし状態。
まるで小学校の遠足のような雰囲気で、砂漠をひた歩く僕達なのでした。
「…………」
とはいえ、そんな僕も完全に気を抜いているって訳じゃない。
この旅で気掛かりな事が2つあるのだ。
まず1つ目。前回の旅で僕達の身に起こった、原因不明の怪現象たち……『謎の呪文と100倍【乗法術】』、『百発十中、現在絶不調の【確率演算】』、そして『暗闇に輝くアークの紅眼』。この3つの現象について原因を調べたいと思ってる。
特に投石が当たらなくなった【確率演算】の不調は本当に不便だ。なんとしてでも調子を戻さなきゃ。
そして、2つ目。命乞いに応じた代わりとして、僕への忠義を誓ったフォレストウルフ達だけど……フーリエに連れて帰るに際して、本当に『魔王への忠誠を捨てたのかどうか』を見極めるのだ。
奴らが仲間になるのは凄く美味しい話だけど、裏で魔王軍と繋がっていたりされちゃ困るもんな。それこそ『あの時に奴らをヤっておけばッ!』という後悔だけは避けなけきゃいけない。
……まぁ、僕はアイツらが『裏切りの裏切り』だなんてするハズないと信じてるけどね。
信じてはいるけど……そこはしっかり見極めよう。
「なぁチェバ、奴らはそんな事しないよな?」
「くぅん?」
「急にどーしたの先生?」
「……いや。何でもないよ」
……まぁ、まずは何より奴らと会うことだ。
『何の話?』とばかりに首を傾げるチェバとコースを横目に、奴らとの再会を楽しみに微笑んだ。
そんなフーリエ鉱床地帯への旅路だけど。
何の障害もなく順調に進む……なんて上手くいくハズがない。
「前方に敵はっけーん!」
「アレは……ブローリザードね」
例に依らず、僕達の前には旅の邪魔をするかのごとく魔物達が立ちはだかるのだ。
「早速1頭潜りました!」
「相変わらず喧嘩っ早い奴らだぞ!」
現れる敵はブローリザードとカースドスネーク。普通に戦えばコイツらには負けやしない……とはいえ、意外と時間と体力を持っていかれる。
コレがまた大変なんだよな……。
――――だが、今回は2回目。前回の僕達とは色々違うのだ。
僕達だって強くなっている。
「皆、チャチャっと片付けるぞ」
「「「「おう!」」」」
「わん!」
サッサと戦いを終えて、少しでも旅路を進めよう。
「行きますっ!」
そう声を掛ければ、一番に飛び出すのは……シン。
蒼色に輝く長剣を両手に握り、遠くから迫るリザードへと駆ける。
「俺も行くぜ!」
そんなシンに負けじと、同じく蒼色に輝く大盾を取り出してダンも飛び出す。
「【冪乗術Ⅱ】・All3 for ens.ALL!」
……っと、ステータス加算も忘れちゃいけない。
旅の序盤からいきなり3乗のフルパワー火力、ついでに【集合】の6人一斉強化だ。
「……フッ!」
ステータス強化が掛かり、一瞬にしてATKが60000を超えたシン。
砂をグッと蹴れば一瞬でリザードとの距離が詰まる。
シンの見せた予想外の動きにリザードも反応できない。
「足が止まってます!」
そのまま、リザードに攻撃の隙も与えず……シンが刀を振り抜く。
「【強斬Ⅸ】!!」
シュッ
切れ味の鋭さゆえに、風切り音もなく空中を走る刃。
勢いを殺すことなく刃はリザードの首に立てられ――――僅かな音を残して、ザックリと頭を斬り落とした。
「……まずは1頭です!」
「おう! こっちも任せとけ!」
シンが1頭目のリザードを仕留めた頃、ダンは2頭目のリザードを前に大盾を構えていた。
「どんな体当たりでも弾き返してやるぞ!」
そう言い、盾の裏でニヤッと笑みを浮かべるダン。
――――だが、そんな彼の足元に3頭目のリザードが迫る。
彼の体勢を崩さんと、彼の足元へと砂の中を潜行していた。
「……視えてないとでも思ってるのかしら?」
ボゥッ!
そんな作戦も僕達にはお見通し。
【見取Ⅱ】を受けたアークが燃え盛る槍を砂に突き刺す。
「【強刺Ⅷ】! ハァッ!」
ジュゥゥゥッ!
こんがり焼ける音と香ばしい匂いが砂から立ち上ると……モリで突かれた魚よろしく、身体を必死にくねらせながらリザードが這い出る。
「一丁上がりね!」
「助かるぞアーク!」
……コレで2頭。
残すはダンが対峙する1頭のみになった。
キィッ!
「来たな!」
3頭目のリザードが砂を蹴って跳び上がる。
助走の勢いと体重を武器に、大盾もろともダンを頭突きで吹き飛ばすつもりのようだ。
「……甘いぞ!」
が、ダンも迎撃。
リザードへ大盾を突き出す。
【硬叩Ⅷ】! ふんッ!」
カァンッ!
ボキボキッ……
大盾がぶつかったと同時、首の辺りから嫌な音を響かせてホームランのごとく打ち返されるリザード。
ズシンッ
「ふんっ、俺を甘く見たツケだぞ!」
「流石です、ダン!」
空中で意識を失ったようで、最後は受け身を取ることもなく3頭目のリザードは砂地に落下した。
――――そんな戦いを終えた彼らに迫る、細長い影。
「……おいシン! 足元スネーク居んぞ!」
「なにッ!」
ダンの叫び声に、油断していたシンが思わず飛び上がる。
細長い影、それは……もはや毎回恒例となったシンに迫るカースドスネークだった。
「何処ですか?!」
腰の長剣に手を掛けるも、焦ってスネークを見つけられないシン。
ソレを良いことに、カースドスネークがササッとシンの足首へと這い寄る――――
「だいじょーぶ! チェバ・ゴー!」
「わん!」
そんな中、コースが指令を飛ばす。
と同時に駆け出すチェバ。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
チェバが捉えた視線の先には……シンの足首を咬まんと牙を光らせるスネーク。
……そして。
「がうっ!」
シャァァッ!?
チェバがスネークのお腹部分をガブリ。
頭と尻尾を引き摺りながら、シンの足元を駆け抜けた。
シャアアッ!!
「ぐるっ……」
必死に刃向かおうと、スネークもチェバの身体に巻き付いて咬みつく――――
「がううっ!」
バギボギッ!
シャァァァッ……!?
……が、チェバもすかさずスネークの身体を骨ごと噛み砕いて反撃。
身体を噛み千切らんとばかりに、生きたままスネークをモグモグし始めた!
もぐもぐ
シャァァァッ…………
チェバに捕食されるスネーク。咬み付きも巻き付きも許されず……あとは、チェバにされるがままだった。
「……スゴーい! みんな一瞬でヤっちゃったねー!」
「あぁ……本当に一瞬だったな。僕達の出る幕も無かったよ」
結局、何もできずに立ち尽くしていた後衛組の僕とコース。
そんな僕達の前には、あっという間にリザードが3頭と食べかけのスネークが横たわっていたのでした。
ま、まぁ……とにかく、僕達も強くなって戦闘時間が大幅に短くなったワケだ。
これならきっと、片道に丸2日も要らない。明日の昼過ぎにはフーリエ鉱脈地帯に到着できるハズだ!




