19-1. 共有
対魔王軍作戦基地・CalcuLega、完成初日。
昼食も食べ終わった、午後1時30分。
コースとチェバが自室に戻ってお昼寝を始め、ダンも同じく自室に戻って防具の手入れをしていた頃。
カルキュリーガ部屋の大机を囲んで座る、僕・アーク・シンの3人は。
「……困った」
「……困ったわ」
「……困りましたね」
カルキュリーガが完成して早々、『最初の難関』に頭を悩ませていた。
「……どうするかな」
「……どうしよっか」
「……どうしましょう」
両肘を机につき、頭を抱えるシン。
顎に手を当て、考え込むアーク。
椅子の背にもたれかかり、腕を組む僕。
「……まずは情報収集、ってのは分かってるんだが」
「何から手を付ければいいのかな……?」
「なかなかの難題ですね……」
――――そう。
最初の難関、『何から手を付ければ良いのか分からない』案件に直面していたのだ。
「『魔王軍の情報を集める』と言ってもなー……」
「私達にはコレといった伝手も無いですし」
「今頼れるのはトラスホームさんからの横流し情報くらいだけど……それじゃ足りないもんね」
「あぁ」
トラスホームさんが『情報をリークしてくれる』と協力を申し出てくれたのは幸いだけど、勿論ソレに頼るだけじゃダメだ。……ってか、そんな程度の情報で魔王軍と渡り合えるのなら僕達勇者なんて要らない。
僕達が独自で情報を取ってくる位じゃなきゃ、折角立ち上げたカルキュリーガが無意味だ。
「「「うーん…………」」」
という事で、僕達は魔王軍の情報収集を始めようと思ったんだが……いざそうするとなれば、一体何から始めれば良いのかサッパリだ。
『何事も初めの一歩が肝心』とは良く言ったモンです。
……とまぁ、そんな状態でしばらく黙々と考えていると。
「んんー、そうね……」
ふとアークが口を開いた。
「……わたしが今持ってる情報といえば、この前の戦いに巻き込まれた時の記憶くらいかな?」
「『フーリエ包囲事件』の事ですね?」
「ええ」
あー、成程な。
アレは魔王軍の第三軍団との戦いだ。あの赤鬼が『軍団長』とか名乗ってたもんな。
「……そういや、僕達は『王都南門事件』『テイラー迷宮事件』にも遭ったよな、シン?」
「はい。アークと出会う前の事ですが、今でもしっかり憶えてますよ」
「それなら、まずは手始めにそれぞれの事件の記録を纏めておかない? ……わたしがケースケ達と出会う前の情報も、色々共有したいし」
「おお、良いですね!」
「そうだな!」
そっか。僕達が実際に戦線に立った記録、ソレは良い情報だ!
この先また魔王軍の襲撃を受けた時にも参考に出来るかもしれないもんな。
「それなら、後でコースとダンも呼んであの時の事を書き出そうか」
「私達の記憶を引っ張り出しましょう!」
という事で、大机の上にはノートが3冊用意された。
「アークの字、キレイだな」
「ありがと。子どもの頃に散々習わされたからね」
それぞれの表紙には、アークの綺麗な字で『王都襲撃事件』『テイラー迷宮事件』『フーリエ包囲事件』のタイトル。
今はまだ中身は白紙だけど、コースが目覚めた後に5人全員の記憶を纏めて記録する予定だ。
……よし、コレで1つステップが進んだぞ!
「それじゃあ、次何をしようか?」
「「うーん……」」
そう2人に尋ねれば、揃って黙り込んでしまった。
……あ、あれ? この流れってまさか…………?
「どうするかな……」
「どうしましょう……」
「どうしよっか……」
案の定、机を囲んでうんうんと唸る僕達。
……結局、振り出しに戻ってしまったのでした。
…………って、いやいやいや!
このままじゃダメだダメだ!
いつまで経ってもさっきの繰り返しになるだけじゃんか……!
「よし。……こういう時は」
考えに行き詰った時は……脳みそのリフレッシュ。何か別の行動をとってみれば良いのだ。
「……どうするの、ケースケ?」
「んー、そうだなー」
日本に居た頃であれば、某狩りゲームかスマホの二択。だが今はどちらも無い。
……となれば。
「とりあえず【演算魔法】でも眺めてみるか。【状態確認】」
ピッ
確信は無いけど、コイツらを眺めていれば何か閃くかもしれない。
そう考えつつ、ステータスプレートを呼び出してみる。
「先生、見せて頂いても良いですか?」
「……わたしもお邪魔していい?」
「おぅ。勿論」
シンとアークが僕の背後に回ってきたところで、【演算魔法】一覧のページを開いてみた。
「……ほいっと」
ピッ
===【演算魔法】========
【加法術Ⅴ】 【減法術Ⅳ】
【乗法術Ⅶ】 【除法術Ⅳ】
【冪乗術Ⅱ】 【冪根術Ⅱ】
【合同Ⅱ】 【相似Ⅰ】
【代入Ⅰ】 【消去Ⅰ】
【一次直線Ⅴ】 【二次曲線Ⅱ】
【定義域Ⅵ】 【確率演算Ⅳ】
【判別Ⅲ】 【因数分解Ⅲ】
【展開Ⅲ】 【共有Ⅲ】
【見取Ⅰ】 【乱数Ⅱ】
【集合】 【解析】
【求解】 【状態操作Ⅵ】
===========
「「「多っ」」」
一目見て思わず呟く。
その数、しめて24個(【乗法術Ⅶ】利用:12×2=24)。
まーたこんなに増えちゃったか……。いい事だ。
とまぁ、そう感じつつも上から魔法一覧表を眺めていく。
「……懐かしい」
最初の方はステータス加算・減算系の魔法がズラリ。累乗とルートを取り扱うまでになった今じゃ、【加法術Ⅴ】や【減法術Ⅳ】を習得したのが懐かしく感じるよ。
その下には分身魔法や巨大化魔法が並び、そしてレーザー魔法の【一次直線Ⅴ】。コイツは砂漠での使い勝手が良いから意外とお気に入りだ。
続いて度々お世話になっている【定義域Ⅵ】バリア、最近なんだか調子の悪い【確率演算Ⅳ】、索敵にはモッテコイの探知魔法【判別Ⅲ】、僕達の荷物事情に革命を起こした【因数分解Ⅲ】・【展開Ⅲ】コンビ、そして……――――
「【共有Ⅲ】か…………」
感覚共有魔法、【共有Ⅲ】が目に留まった。
「【共有Ⅲ】っていう魔法、すごく便利よね」
「はい。まるで『魔力通信機』のように便利な魔法、とても羨ましいです……」
「おぅ」
そうそう。
目を閉じたり口を閉じたりしなきゃいけないっていう面倒臭さはあるけど、ソレさえ我慢すれば携帯電話のテレビ通話並みに使い勝手が良い。僕も重宝してるんだよね。
…………あぁ、そうか。
携帯電話、ね……。
「……うん。良い手を思いついた」
「本当ですか!?」
「おぅ。コレならきっと良い情報が得られるかもしれない。……いや、得られる」
コレは悪くない。閃いちゃったよ。
「ずいぶん確信があるのね、ケースケ」
「あぁ。……ちょっと試してみるか」
善は急げとも言うしな。
という事で僕はステータスプレートを閉じ、早速『ソレ』を実行した。
――――実は前に、この【共有Ⅲ】についてある『発見』をしていたんだ。
どんなに遠くに居ようと、目を瞑れば他人の視覚を共有でき、耳を塞げば他人の聴覚を共有でき、口を閉じて念じれば他人にテレパシーを送れる。
その上、両者がどれだけ離れていても可能という……【共有Ⅲ】。
そんな便利魔法なんだけど、今まで僕と感覚を繋いだことのある人はたった5人だけ。
シン、コース、ダン、アーク、そして【合同Ⅱ】で作った僕自身の合同体だけだ。
そういった近しい関係の相手としか、今までコレを使った事は無かった。
だけど……どうやら実は、もっと多くの人とも繋げられるらしい。
ある条件さえクリアした相手ならば、何時でも何処でもどれだけ離れていようと繋げられるらしいなのだ。
その条件とは――――『同じ時刻に同じ場所で出会った事のある、知り合い以上の関係』であること。
赤の他人同士じゃダメ。すれ違いや片想い状態でもダメ。写真を見ただけのお見合い状態でもダメ。
まるで2本のグラフが1点で交差するように、両者がその場で出会い、知り合った時……はじめて両者を【共有Ⅲ】で繋げられるのだ。
だから例えば、今ここでアキと【共有Ⅲ】を繋ごうと思えば難なく出来るだろう。
彼が今どこで何をしてるかは分からないけど、僕と彼の人生をグラフに描けば小学1年から三つ編みのごとく共有点が並んでいるハズだからな。
……だけど、今は一旦お預け。
アキとはまた今度試します。
その代わり、僕が今【共有Ⅲ】を繋ごうと思っているのは……――――
コイツだ。
「【共有Ⅲ】・リーダー狼さん!」




