ホストクラブ
新連載始めました。
この小説に辿り着いて頂きありがとうございます。
基本、一話完結の連載です。よろしくお願いします。
大丈夫かなあの人・・・。
親に勧められ、市が主催する婚活パーティーに出席すべく、会場近くの地下鉄出口から地上に出た。
道路わきの街路樹にもたれかかり、少し小太りの男性が、息を切らして座り込んでいる。
額には大粒の汗、呼吸は荒く、肩で息をしている。
傍らには、赤いクロスバイクと、ヘルメットが無造作に転がっていた。
人通りが多い、地下鉄出口だけど、誰も彼に声をかけず通り過ぎていく。
私も初めは、見て見ぬふりして通り過ぎた。
でも、30歩ほど歩いて、立ち止まり、スマホを見た。
12:30分。
入場開始まで後30分ある。婚活パーティー会場はすぐそこだ。
後ろを振り返った、小太りの男性は、まだ座っている。
「ん~。声かけるてみるか」
私は戻った。
「あの、大丈夫ですか」
決してやさしくない声で、なんなら低めの声、感情を乗せてない口調で。
世の中何があるかわからない。弱弱しく、心配している声などかけて、縋られたらたまったもんじゃない。
「はぁ、はぁ、大丈夫です」
小太りの男性は、赤い顔を少し上げて、私を見て答えた。
疲れただけ?お酒を飲んでる?どこか痛いわけではなさそう。
本人が大丈夫と言っているのだから、大丈夫だろう。
「これ(緑茶のペッドボトル)ここに置きます。蓋は開けてないので、よければ使って下さい」
私は、ペットボトルだけ置いて、そそくさと立ち去った。
ペットボトルを掴んで、顔を真っ赤にした彼が私を見ていたことなど知らずに。
さて、婚活パーティーは、正直楽しかった。
男性とマッチングはしなかったが、料理は美味しかったし、仕事関係以外の人と話すのは新鮮だった。
「さあ、帰ろう」
会場近くの地下鉄入口に差し掛かった時、一台の高級車が止まり、車から出て来た執事みたいな人から声をかけられた。
「おそれいります。少々お時間よろしいでしょうか」
「いえ、間に合ってます」
「是非とも、確認したい事と、お願いしたい事がございます」
「いえ、忙しいので」
私が、足早に地下鉄階段を降りているが、ぴったり執事風の男性は着いてくる。
ツカツカツカツカ
「本日昼頃、この地下鉄出口付近で、男性にペットボトルを渡されたのは、あなたですか」
ツカツカツカツカ
「いいえ、人違いです」
ツカツカツカツカ、私は階段を勢いよく降る。
しつこい、どこまでついてくるんだ。
ガクン!
履きなれないハイヒールの踵が、勢いに耐え切れず折れた。
「あッ!」
私は、そのまま勢いよく、階段を転げ落ちる・・・と思ったら、執事風の人に支えられ、転落を免れた。
「ありがとうございます」
「いいえ、お怪我がなくてなによりです」
執事風の人は、踵が折れて、脱げたハイヒールを拾い上げ、手に持っている。
私に返してくれない。
「改めまして、私、カプセルコーポレーション代表補佐のセバスチャンと申します。
福井リザ様ですね。先ほどは、我が主を助けて下さり感謝申し上げます。
我が主がお礼をしたいと申しております。日を改めまして連絡差し上げます。
こちらが私の名刺です。何かありましたらご連絡下さい」
執事風のセバスチャンさんは、私に折れたハイヒールと、名刺を渡して立ち去った。
なぜ私の名前を知っているのか、お礼とは何なのか、気になる事は多いが、私が始めに思ったのは、やっぱり執事はセバスチャンって名前なんだ、ということだった。
それらセバスチャンさんから、私の携帯に連絡があったのが、3日後。
内容は、簡単にいうと、お礼とおもてなしがしたいという事。
日にちと、迎えに来る時間を指定され、仕事だと断れば、仕事場へはすでに連絡済み。有給扱いになっていると返事が返って来た。
母の調子が悪いと嘘を話すと、母が今日ダンススクールで踊っていたことも知っていた。
名前も、電話番号も、仕事場も、実家も、両親の事も調べ上げられている。
怖い。本気で怖い。
断りきれず押し切られ、当日となった。
一応、行く場所は、高級なレストランだと聞いていたので、婚活パーティーに着ていった、一着しか持ってないドレスと、新しく買ったハイヒール。朝、美容院で整えてもらった髪で、諭吉もとい渋沢英一が2枚ほど飛んで行った。
「よし、何をしても回避できない。女は度胸!」
緊張と恐怖の中、気合で、セバスチャンさんにエスコートされ、迎えの高級車に乗り込んだ。
高級車の中には、地下鉄出口で気分悪そうにしていた小太りの男性が座っていた。
「この前は、ありがとうございました」
「いいえ、いいえ」
「「‥‥。」」
その後、男性は何も話さない。私も緊張と何を話して良いかわからないので話さない。
車内は沈黙。
高級車の重低音と、ゆっくりしたクラシック音楽がかかる車内。花のやさいい香りがする。
男性をちらりと見る。
今日は、汗をかいていない、気分も悪そうではない、でも少し顔が赤い。
服装は、高級そうな紺のスーツに、小さい柄のネクタイ。髪をオールバックにしているので、今日は顔が見える。
まじましと見た。
緊張と恐怖は、一周回ると好奇心に変わるらしい。
年齢は私と同じか少し上、醤油顔、切れ長の目、顔立ちは悪くない、小太りでなければ男前だろう。無理して組んでいるように見える足、身長は私と同じくらいかな。
沈黙の社内。することがないので、窓の外を眺めていたら、ネオン街に入った。
看板に歌舞伎町と書いてある。高級レストランが歌舞伎町?イメージにない。歌舞伎町には行ったことがないのでよくわからない。深く考えなかった。
高級車が、ビルの前に止まった。
「え!?ここですか」
ビルにはデカデカと看板が掲げてある。顔の整った男性の看板もドドーンとある。
「そうです、ここです」
小太りの男性は初めてしゃべった。
車から降り、小太りの男性が歩き出したので、その後についていく。
「「「いらっしゃいませ」」」
店の入り口で、顔が整ったお兄さん達が、ずらりと並びお出迎え。
「え!?はい、どうも」
腰が引ける、ここはホストクラブという所ではないだろうか‥‥。
小太りの男性は、ホストさんに案内され、どんどん中へ入っ行く。
私、大丈夫?売られたりしないよね。こわごわと後を付いて行く私。
ViPルームと呼ばれる場所に案内され、席に着いた。
周りには、4人のイケメン?男性が接客。
何やら、話しかけられるが、混乱していてよくわからない。
「あ、は~あ」「そうなんですね」「すごいですね」の三段活用。
お酒を勧められたが、口を付けるだけで、何も飲まなかった。
そのうち、お酒に酔った小太りの男性が、何本もシャンパンを注文。
大勢のホストさんが集まり、大声で叫んでいるが、私は呆気にとられるだけだった。
小太りの男性が、私に「楽しいですか」と聞いてきた。
私は、曖昧に微笑んでおいた。
そのうち立たされ、シャンパンタワーの前へ、
確かシャンパンタワーて何百万もするんじゃなかったっけ?
ここでも大勢のホストさん達が、大声で何か叫んでいる。
それに合わせて、何本も注がれるシャンパン。
私はその光景を見ながら、もったいないな~。これすべて誰が飲むのかな~、全部飲んだら肝臓悪くなるよな~。などと現実逃避していた。
シャンパンタワーのイベントが終わり、帰り支度。
顔が真っ赤で、足元が少しふらつく小太りの男性。
ホストさんに支えられながら会計をせず外へ。
慌てた私。
レジにいる男性に会計は?と聞くと、すでに支払われているそう。
ほっと胸をなでおろし外へ。
小太りの男性と一緒に、高級車へ乗り込んだ。
車内ではやっぱり沈黙。
でも、真っ赤な顔の小太りの男性は私を凝視している。
視線に耐え切れなくなった私。
「な、なんですか」
「今日は、楽しめましたか?あなたに楽しんでほしくて、女性の扱いのプロに頼みました。俺では女性を楽しませる事なんてできないから‥‥。」
赤い顔をした小太りの男性は、急にしょんぼりしてしまった。
「ん~。どうでしょ。初めての体験ばかりだったのでいい経験になったな~とは思います」
「楽しめなかったですか…。ホストの中で、気に入った人はいなかったんですか?気に入った方がいるならお金は出すので通って下さい」
慌てたように付けたす男性。
「綺麗な顔の人ばかりでした。まるで作られたお人形のようで、現実味がないです。それにうるさい所は苦手です。ん~。もういいかな。次はないです」
「そうですか・・・」
男性は、しょんぼり肩を落とし、うつむいてしまった。
あっちゃー。おごられたのにまずかったかな。
「え~と、楽しくなかったとは言ってませんよ」
小太りの男性は、勢いよく顔を上げたと思ったら、涙と鼻水の顔で、私の両手を取って、
「リベンジさせて下さい。リベンジ!このままでは俺の印象が…。お礼になってません。また日を改めて誘わせて下さい」
私は顔を引きつらせながら
「いいえ、もう結構です。お礼は十分に頂きました」
小太りの男性の手に力が入る。
「いいえ、まだです。あなたにお礼がしたいのです。あの時私は救われました。お願いします」
家に到着するまで、いいえの押し問答を繰り返し、結果的に私が折れる形で、次の誘いを待つことになった。
家に帰って来た私は、ぽつりと。
「小太りの男性の名前聞いてないな~」
白河・DG・夜舟様から頂きました
ヒーローの小太り男性
これはラブコメディーでいいのか。




