【書籍化記念】推し香水を作ります
そうだ、香水を作ろう。
セルディは突然閃いた。
レオネルに隠れてレオぬいの衣装を増やすのも楽しかったが、レオネルの夜勤が続き、会えない日々が続いていた事もあって、何か新しい別のグッズが欲しくなった。
前世の記憶で、セルディの作れる範囲のグッズのヒントは何かないかと考え込み、思い出したのは推し香水の事。
レオネルも以前は香水を嗜んでいたようなのだが、シャンプーに使われているレモンの香りが好きなようで、今では夜会などのマナーとして必要な時以外は積極的に使う事がなくなったらしい。
これはレオネルの侍従をしているジャーノンの情報なので間違いない。
そして、香水ならば精油を作っているキャンベル商会でなんとかなるのではないかと閃いた。
(新しい香水を作るなら今!)
セルディはさっそくチエリーに相談し、キャンベル商会へと先触れを出して貰った。
***
一時間後。
近日中にキャンベル商会の商会長である伯父ガルドに会えればと思っていたが、伯父は先触れと共にダムド家のタウンハウスへとやってきてくれた。
応接室で待っているという話を使用人から聞き、セルディは速足でそこに向かう。
ノックもそこそこに部屋へと入れば、珍しく正装をした伯父がソファに座って紅茶を飲んでいた。
「ガルド伯父様!」
「おお、セルディ!」
立ち上がった伯父が両手を広げて待ってくれる。
しかし、背後にはチエリーの目……。
セルディは以前のように飛びついたりせず、スカートの裾を持って小さくカーテシーをした。
「ガルド伯父様、来て下さってありがとう」
「丁度こっちに用事があったからな。しかし、セルディにそんな挨拶をされるのは、なんか違和感があるなぁ……」
いつものように飛びついてこないセルディに寂しそうに笑って伯父は手を下ろす。
セルディも出来る事なら飛びついて歓迎したいくらいの気持ちはあったが、貴族令嬢になると決めたなら我慢しなければならない。
それは貴族の身内となった伯父もそれは一緒だ。
「まぁ伯父様ったら、そんな事を仰っているとまたお母様に叱られますよ」
「身内の間でくらいは勘弁してくれ……」
「あははっ、伯父様はしょうがないなぁ」
習った貴族らしい口調で返せば、伯父は嫌そうな顔をする。
セルディは以前のように笑ってから、さっそく今日呼んだ目的について話出した。
「は? 香水?」
「そう! 香水を作りたいの! 精油があるから作れるでしょ?」
「……駄目だ」
「えっ!!」
まさか断られるとは思っていなかったセルディは口を開ける。
「香水は別の貴族の事業とぶつかるぞ、ダムド公爵家の威光を傘にすればいいかもしれんが……。後ろ盾になってくれているだけでも有難い話なんだ。今も他の貴族には睨まれてんだから、これ以上はやめとけ」
「ぐぬぬ……」
新商品なら許されても、既存の商品と勝負するのは権利関係で問題が起きるかもしれない。
確かにその通りで、セルディは唸る事しか出来なかった。
「じゃ、じゃあ精油だけでも分けて!」
「なんだと?」
「自分で調合するから!」
「はぁああ?」
まさかのセルディの言葉に、今度は伯父の方が驚いた。
しかし、セルディがつい最近まで商品開発として様々な実験を行っていた事も知っている伯父は、渋々だが精油を少し譲ると約束してくれ、更にはシャンプーを作っている作業場を貸してくれる事になった。
***
香水を作り始めて一か月。
セルディはほぼ毎日、キャンベル商会王都支店の作業場に通った。
匂いの嗅ぎすぎで気持ち悪くなる事も多々あったが、なんとか作り上げた。
キャンベル商会の作業員が面白がって手伝ってくれたことも大きい。
香水を作った事のある人が、魔石を使った時間短縮方法を知っていた事で、大幅な時間の節約に成功した。
熟成期間で香りが変わる事もあると聞いていたため、完成品の香りを嗅ぐ今日は緊張したが、嗅いでみれば柑橘系の爽やかな香りと清涼感が広がる。
「で、出来たーっ!!」
「おおー!」
セルディの歓声に、他の作業をしていた作業員達が喜びの声を上げ、拍手までしてくれる。
セルディはそのみんなの様子に照れ笑いを浮かべながら、感謝の言葉を皆に伝えた。
「みんな、ありがとう!」
「無事完成してよかったです。さ、お嬢様、香りが飛ぶ前にこちらの瓶に……」
「あ、そうね!」
この日のために特注したセルディの掌サイズの透明な瓶に、作業員の手を借りて香水が注がれる。
しっかりと蓋を閉めれば、世界でただ一つの推し香水の完成だ。
「これが、私の推し香水……」
セルディは香水を照明の光にかざす。
香水は淡いレモンゴールド色をしていて、光にかざせばそれはレオネルのアースアイの金色にも見えて、セルディはとても満足した。
「はー、頑張ったかいがあったわ……」
しみじみと呟き、胸元に香水瓶を抱きしめるセルディに、チエリーが問いかけた。
「お嬢様、レオネル様へはいつお渡しになるのですか?」
「え? 渡さないよ?」
「はい?」
固まったチエリーに、セルディは真顔で言い切った。
「これは、私がレオネル様を勝手にイメージして作っただけなの」
「は、はぁ……」
「だから、この香水は私のレオぬいに使うわ!」
「……なるほど?」
困惑しているチエリーを横目に、セルディは再度香水を光にかざす。
歓びに目をキラキラさせているセルディは、知らない香水の香りを纏っている事をレオネルに問い詰められ、壁際で尋問される未来をまだ知らなかった。
ハッピーホワイトデー!
とうとう二巻の発売日まで一週間を切りましたので、こちらの番外編を投稿させて頂きます。
こちらは二巻の表紙にある「推し香水」を拝見して出来上がったお話です。
楽しんで頂けたのなら幸いです!




