【書籍化記念】レオネルぬいを作る話
ダムド家で行儀見習いをし始めてから、二週間。
セルディは行儀見習いとして出来る事が少ないことにようやく気付いた。
セルディの毎日の予定は、礼儀作法の授業の他には、サーニア夫人との夕食会くらいしかない。
本来ならば子爵令嬢なのだし、小間使いとして使われてもいいはずなのだが、年齢のこともあってか免除されているようで、あっという間に毎日何をするかを探すようになってしまった。
最初の一週間は読書を楽しんでいたが、ダムド家の屋敷の本は戦術関連や歴史に関してのものが多く、子供向けや女性向けは少ない。
ダムド家が関わる本は公式ガイドブックを読んでいるような気がして楽しいのだが、行儀見習いとしてやってきている身で、さすがにずっと読書というのもどうなのだろう。
一度そう思ってしまえば、何か別の事もした方がいいのでは、という気持ちが強くなり、セルディはチエリーに問いかけた。
「ねぇチエリー、礼儀作法の他に行儀見習いとしてした方がいい事ってある?」
「……刺繍をしましょう」
「ししゅう……」
思わず眉間に皺を寄せた。
元々手先が不器用だと言うのに、文字ならばともかく、花とか、鳥とか、刺繍出来る訳がない。
何より刺繍に関して情熱がなかった。
「やる気が……」
「お嬢様のお好きなものを刺繍してはいかがですか?」
「好きなもの?」
「はい、レオネル様の……」
「なるほどっ!」
チエリーが言い終わる前に、セルディは閃いた。
「チエリー! 布を売っているお店に行こう!」
「布から選ぶのですか?」
「そうよ! やるからには自分の目で探さないと!」
「……わかりました。少々お待ち下さい」
チエリーはやや不思議そうな顔をしていたが、ダムド家御用達の商人に使いを送り、屋敷に呼んでくれた。
どうやら市井では貴族が使うような布を店頭に並べている店はないらしい。
とは言っても、呼びつけた商人が大量の布を持ってくるのか、と言われるとそれも違う。
商人が持ってきたのは大量の本。
中にはたくさんの布の見本が貼り付けられており、ここから選んで持ってきてもらう事になっているらしい。
「この布の肌ざわりいい……。胴体はこれにします!」
「胴体?」
「ハッ、この布の色、レオネル様の髪にいいかも……。こっちの布を近衛服に使おう!」
「髪……? 近衛服……?」
チエリーが首を傾げながら、セルディの指示した布を商人に頼んでいく。
すべてを決める頃には、夕方になっていた。
「お嬢様は何を作ろうとしているのですか?」
「え? レオネル様のぬいぐるみ……」
「レオネル様の、ぬいぐるみ……?」
何を言っているのかわからない、と言わんばかりのチエリーを見て、セルディはようやく気付いた。
この世界で、人を模した人形と言えば陶器や木で作られたものばかりで、ぬいぐるみは存在しない事に。
セルディはレオネルのぬいぐるみがどういうものかを紙に書いて説明した。
なんとセルディは前世で推しぬいを作った事があったのだ。
とはいっても、オタク友達の手伝いをしたにすぎず、すべてを一人で作るのはこれが初めて。
脳内でのイメージは出来ているが、それが出来るかどうかは未知数だ。
セルディはチエリーにもわかりやすく、絵心がないなりに描き出したのは全体的に丸いフォルム。
あまり大きなものは作るのも大変なので、等身は二頭身くらいで、セルディの手でも包み込めるくらいの大きさに……。
(例え不格好なものが出来たとしても、愛が大事よね!)
レオネル本人に見せる訳でもない。
しかし、閃いてしまった創作意欲は止められなかった。
「こういうのが作りたくて……」
「……なるほど?」
じっと紙を見つめたチエリーが、ぬいぐるみの細部に関して質問をしてくる。
ここはどう縫い合わせるのか、どうくっつけるのか、とか。
布用接着剤などはないため、すべてを縫い合わせるしかない。
その中でチエリーと二人、レオネルのぬいぐるみを作るために試行錯誤を繰り返した。
驚いたのは、チエリーの手先の器用さだった。
セルディが悩んだ部分や、一番大事な顔の刺繍がズレて泣きそうになっている時など、すかさず手助けしてくれた。
そして、毎日数時間。コツコツと作業を進めた結果――。
「で、出来た! 出来たよチエリー!!」
「おめでとうございます」
「チエリーのお陰! ほんっとーにありがとう!」
ようやくレオネルぬいが完成した。
レオネルのぬいぐるみを作るだなんて言い出したセルディを、引いた顔も見せず手伝ってくれたチエリーには本当に感謝しかない。
(ああ、これが私のレオぬい……)
完成したレオネルぬいを両手でぎゅっと抱きしめると、小さい命がその中に宿った気がして、セルディはこのぬいを大事にしようと心に決めた。
「あ、チエリー! レオネル様には内緒だからね?」
「はい、わかりました」
そうしてこそこそと隠し続けた結果、このぬいぐるみの存在がレオネルにバレるのは、数年後の事になる。
ハッピーバレンタイン!
日付が変わる前に投稿出来てよかったです。
発売一週間前になりましたので、番外編を書いてみました。
こちら、書籍一巻の表紙に登場している「ぬい」のお話になります。
楽しんで頂けたら幸いです。




