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淡々三国演義  作者: ンバ
第十三回 李傕と郭汜大いに兵を交え、楊奉と董承双で駕を救う
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四、忠臣対逆臣

 さて、李傕。彼は平素より妖術の類を好むたちであり、常に巫女に太鼓を撃たせ、軍中に神を下ろす──所謂、降霊術を行わせていた。賈詡はたびたびこの件について諌めていたが、李傕は聞く耳を持たなかったのである。


 そこで、侍中の楊琦《ようき》が密かに帝へ上奏した。


「私が賈詡を観察いたしますに、彼は李傕の腹心として扱われてはおりますものの、実際の所は君への忠義を忘れてはおりませぬ。対策を諮問なされてはいかがしょう」


 折も折、ちょうど賈詡がやって来たので、帝はお付きの者を下がらせて、泣きながら賈詡へと訴えた。


「賈詡よ、漢王朝を憐れまれ、朕の命を救ってはくれぬか」


 賈詡が拝礼し、地に伏して述べるよう、


「それこそ、臣の兼ねてよりの願いにございます。陛下におかれましてはしばし御他言をお控えいただきますよう。この危急、不肖賈詡が取り計らいまする」


 帝の喜びよう、いかばかりか。涙を収めて賈詡に拝謝した。


 ややあって李傕が会見に現れ、無礼にも剣を帯びたまま入室してきたので、帝の顔色は土くれの如くとなった。


 李傕が帝に言うよう、


「郭汜は不忠にも公卿を監禁し、あまつさえ陛下を手中にしようと考えております。もし私がおらねば、すなわち車駕は虜となる所でしたなぁ?」


 帝が供手して形ばかりの謝意を表すると、李傕はかくて出て行った。


 この時、李傕と同郷の出身である皇甫酈《こうほれき》が居合わせており、帝は詔勅により彼を和睦の使者として遣わした。


 詔書を奉じた皇甫酈が郭汜の陣営へ赴きてその旨を説いた所、郭汜は言った。


「郭汜が天子を送り出したなら、私もすぐに公卿を解放しようではないか」


 皇甫酈は続いて李傕のもとへ向かい、述べた。


「今、天子は某が西涼の出身で、そなたと同郷である事を鑑みられ、特別に二公の講和に遣わされたものである。郭汜は既に詔勅を奉じたが、ご尊意は如何か」


 李傕、


「俺にはあの呂布を破ったという大功があり、四年間も朝政を輔弼してきた。勲功既に顕著で、天下は共和しておる。だが郭亞多の奴めは逆賊に過ぎぬ癖に、生意気にも公卿を監禁し、俺に対抗しようとしているからには、俺は誓って奴をぶち殺すつもりだ。君よ、試しに我が方の志士による謀略を見てみるがよい。郭亞多ごときが及ぶ所ではあるまいて」


 皇甫酈答えて、


「待たれよ。かつて有窮《ゆうきゅう》の后羿《こうげい》は、弓術の才能を恃みにして、患難を考慮する事がなかったために滅亡に至った。直近では、董太師があれほどの強盛を誇った事を足下も目の当たりにしていた筈。だが呂布が恩を受けておきながら反逆し、あれよあれよという間に国門に晒し首になってしまったではないか。これはすなわち、強固である事は恃むに値しないという事だ。将軍よ、御身は上将となりて鉞や節を持ち、子孫宗族は皆顕位にのぼっている。国家から受けた恩が厚くないとは言わせぬぞ。今確かに郭亞多は公卿を脅かしているが、足下は至尊を奪った。果たして、誰がそなたらの軽重を問えよう」


 郭汜は抜剣して皇甫酈に怒号を浴びせた。


「天子は、俺を侮辱させる為にきさまを遣わしたのか!! 上等だ、まずはきさまの素っ首を叩き落としてくれるぞ!!」


 騎都尉《きとい》の楊奉《ようほう》が諌めて、


「まだ郭汜が除かれておらぬのに天子の使いを殺してしまっては、郭汜に大義の兵を興す名分を与えてしまいます! 諸侯が皆、あちらに味方してしまいますぞ!!」


 賈詡もまた懸命に諌め、李傕の怒りは僅かなりと収まった。賈詡がかくて皇甫酈を外へと連れ出すと、皇甫酈は声を荒げた。


「李傕め! 詔を奉じず、君を弑して自立しようなどと考えておるとは!!」

 

 侍中の胡邈《こばく》が慌てて諌め、


「言葉を慎みたまえ、その身に災いが降り掛かるぞ!」


 皇甫酈は反対に怒鳴り返した。


「胡敬才よ、君も朝廷の臣ではないのか! なぜ逆賊に味方しようとする! 『主君が辱められたならば臣下死す』、李傕に殺される事になろうと、私は恐れはしない!」


 皇甫酈の罵倒の声は止まず、この事を知った帝は、急ぎ彼を西涼へ帰還させた。


 さて、李傕の軍、その大半は西涼の人士から成り、更には羌族の加勢を恃みとしていた。


 皇甫酈がそこで、西涼の人々に、


「李傕は反逆を企てているからには、奴に従う者も則ち賊の仲間と見做される。後難は浅からぬぞ!」


 と触れ回り、その多くは皇甫酈の言葉を受け、李傕軍の士気はようように低下していった。


 李傕は皇甫酈の言を聞いて大いに怒り、虎賁の王昌《おうしょう》を追っ手に差し向けた。が、王昌は皇甫酈が忠義の士であると察して追わず、戻ってきて「皇甫酈がどこに行ったかわかりませぬ」とだけ報告した。


 賈詡もまた、密かに羌族を諭していた。


「天子は汝らの忠義をわかっておいでだ。長らく戦ってきた苦労を労わんと、密詔を下されて汝らを郷里へ帰そうとしておられる。後に重賞の沙汰があるであろう」


 羌族は、ちょうど李傕から爵位の賞与がない事に不満を抱いている所であったので、遂には賈詡の言葉を聞き入れ、挙って引き上げてしまった。


 賈詡は一方で、帝にも上奏文を認めていた。


「李傕は貪欲にして無謀の徒。今兵が散った事で動揺しておりますから、重き爵位を与えて、撒き餌とすべきです」


 帝はそこで詔勅を下し、李傕は大司馬に封じられた。李傕は、


「これも巫女の祈祷の力よ! 神は降臨したのだ!!」


 と喜び、かくて巫女に重い賞賜を加えたが、将士たちには何の褒美も与えられなかった。


 この沙汰には騎都尉の楊奉も激怒し、宋果《そうか》に対してこのように述べた。


「我々は死を賭して戦い、その身を矢石に晒してきたのに、功績は巫女にすら及ばんというのか!?」


 宋果も同調して、


「おのれ、もう我慢ならん。あの賊を殺して、天子をお救いいたそう」


 楊奉、


「よし。君は軍中に火を放って号令を掛けてくれ。私は兵を引き連れ、外から応じる」


 二人は当夜の二更の時分に計画を実行に移すと約束したが、思いがけずも事が漏洩してしまい、李傕へ報告した者があった。


 忿恚した李傕は人を遣って宋果を捕え、先んじて彼を殺してしまった。楊奉は当初の計画の通り、兵を連れて外部から様子を窺っていたが、合図の狼煙や号令が一向に掛からない。


 李傕自ら兵を率いて出陣した所、ばったりと楊奉に出くわす形となり、四更まで続く大混戦が砦の内部に展開された。


 楊奉は勝利する事が出来ず、手勢を連れて西安へと引き去った。李傕軍の勢いがようように窮した所へ、新たに郭汜軍が攻め寄せてきたため、またもや夥しい死傷者が出た。


 そこへ、急報が齎される。


「陝西《ちんせい》から張済《ちょうせい》の大軍が! 二公を和睦させる為に至ったとの事ですが、従わねば攻撃すると申しております」


 李傕はすぐ様個人的な誼を通じ、先に使者を張済軍へ遣わして、講和の承知を申し入れた。郭汜もまた許諾する他なく、張済は天子に「どうか弘農《こうのう》へ御幸されたし」との上奏文を奉った。


 帝はいたく喜び、


「朕は洛陽を久しく思慕しておったが、今、張済の提案に乗れば、帰る事ができる! 万事幸いであるぞ」


 こうして、詔勅により張済は驃騎《ひょうき》将軍に封じられた。


 張済は米食や酒肉を進呈し、百官へ供給した。郭汜は自陣から公卿を解放し、李傕は車駕を整えて東へ向かい、旧来の御林軍数百に戟を持たせて護送に当てた。

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