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淡々三国演義  作者: ンバ
第七回 袁紹磐河に公孫と戦い、孫堅江を跨ぎて劉表を撃つ
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五、孫堅の逆襲

 一方の黄祖《こうそ》は、弓弩部隊を長江の辺に潜伏させており、孫堅軍と思しき船団が岸の向こうから去来したと見るや、これに一斉に矢を射かけさせた。


 並の武将であれば動揺もしようが、そこは百戦錬磨の孫堅──諸軍に軽々しく動かぬように命を下し、ただ船中に伏せて往来する事で、黄祖に攻撃の手を緩めぬように誘いを掛けたのである。


 果たして黄祖軍の攻撃は三日三晩に渡って続けられたが、次々と現れる孫堅の船団の前にその効力は分散し、遂には矢が尽き果ててしまった。


 孫堅が各船上に突き刺さった矢を回収してみれば、その数およそ十数万。当日は順風が吹いており、好機と見た孫堅は反対に奪った矢を一斉に放たせた。上流の黄祖軍はこれに抵抗しきれず、たまらず敗走していった。


 孫堅軍は勢いに乗って遡る。程普《ていふ》と黄蓋《こうがい》は直接黄祖の幕営を攻め取らんと二手に分かれ、さらに韓当《かんとう》が後方を衝く形で兵を駆動させて並進。三方面から攻撃を受けた黄祖は、樊城《はんじょう》を放棄して退却、鄧城《とうじょう》へと落ち延びたのであった。


 孫堅は黄蓋に命じて船隻の保守へ赴かせ、自らは兵を統領して黄祖の追撃に向かった。黄祖も兵を率いて迎撃に出、原野にて両軍対峙の格好となる。


 陣形を整えた孫堅、古錠刀《こていとう》を携えて門旗の下より出馬すると、孫策も槍を扱いて馬を飛ばし、副将として父に追随した。孫親子の武勇のほどは凄まじく、黄祖軍の将兵は次々と斬られ、突き倒されていく。


 黄祖はその勢いを止めるため、二人の部将に出撃を命じた。一人は江夏《こうか》の張虎《ちょうこ》、もう一人は襄陽《じょうよう》の陳生《ちんせい》である。


「江東の鼠賊《そぞく》めぇえっ! なにゆえ漢室のご宗族にあらせられる我が君の境域を侵犯しおるか!」


 黄祖は鞭を振りかざして大罵すると、張虎に命じて戦いを挑ませた。孫堅の陣営からは韓当が躍り出てこれと激突、両騎の打ち合いは三十合ほど続いた。


 張虎が押されていると見て陳生が助太刀に出たが、一対一の勝負に水は差させじ──その様子を望見していた孫策が手中の槍を弓に持ち替え、一矢を射る。放たれた矢は陳生の顔面に正確に命中し、弦のしなる音とともにその躯体は馬から転げ落ちた。


 陳生が討ち取られた事を目の当たりにした張虎の動揺を韓当は見逃さず、須臾ののちには大刀の一閃が張虎の顔半分をこそぎ落としていた。


 かくして更に士気の上がった孫堅軍、今度は程普が馬を縦にして黄祖の陣前へと切り込んだ。黄祖は慌てて兜を脱ぎ捨て馬から下りると、雑兵に扮して命からがら逃げ果せたのであった。


 孫堅は残余を掩殺し、そのまま漢水まで兵を進めた。命を受けていた黄蓋も船団を指揮して合流、孫堅の軍勢は漢江《かんこう》に停泊して次なる戦いに備えた。


 黄祖は生き残った兵を纏めて逃げ帰ると、劉表に謁見して孫堅には当たるべからざる勢いがあると上申した。恐惶した劉表が再度蒯良(かいりょう)らを集めて善後策を諮ると、蒯良は述べた。


「孫堅がこれ程の力を持っていたとは……。目下、敗れたばかりで兵士たちの士気は低下しております。ここは溝を深くし、砦を高くしてやつの鋭鋒を避けるべきかと存じます。密かに人を遣って袁紹《えんしょう》に救援を求めれば、この攻囲も自ずから解かれるでございましょう」


 これに異を唱えたのは蔡瑁《さいぼう》。


「子柔《しじゅう》の計は愚策です。兵が城下に臨み、将が河の辺まで至っておりますのに、どうして手を縛ったまま死を待つような真似が最善と申せましょう? 私は非才なれど、願わくば城を出て孫堅と一戦交えとうございます」


 劉表が申し出を許可すると、蔡瑁は一万余の軍勢を以て襄陽から出撃、かくて峴山《けんざん》へ布陣した。


 戦勝の勢いに乗っていた孫堅の軍勢は長駆し、すぐさま蔡瑁の前に現れる。蔡瑁が出馬して陣頭に躍り出ると、孫堅がそれを指呼して、


「あれは確か、劉表の後妻の兄である蔡瑁。誰ぞ、やつを虜にできる者はおらぬか!」


 そこへ名乗りを上げたのは程普《ていふ》。鉄脊蛇矛《てっせきだぼう》を携えて馬を躍らせ、蔡瑁と矛を交えた。数合も打ち合わぬうちに蔡瑁は逃走し、そこで孫堅軍は堰を切ったように進撃。蔡瑁の手勢は次々に蹴散らされ、野を尸《しかばね》が覆い尽くす程の惨敗を喫した。


 蔡瑁はやっとの事で襄陽へ逃げ帰ったが、蒯良の表情は非常に険しい。


「蔡瑁は我が策を聞き入れずに先走り、大敗を喫して多くの兵を失いました。軍法に照らし合わせて、彼を処分すべきだと存じます」


 このように冷徹に申告したが、劉表は蔡瑁の妹を娶ったばかりであったため、敗戦の責任については不問とし、刑を加えなかった。

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