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淡々三国演義  作者: ンバ
第五回 矯詔發され諸鎮曹公に応じ、関兵を破り三英呂布と戦う
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九、三英傑、呂布と戦う

 思索する間に、


「呂布が戦を挑んできました!」


 との報せが齎《もたら》され、諸侯らはそれぞれの兵馬を引き連れ、丘陵の上へと布陣した。その地点から遥かに呂布の軍勢が綾取りの旗指物を風に靡かせ、敵陣を突き崩さんと向かって来ている様子が見えた。


 上党《じょうとう》太守張楊(ちょうよう)の部将の穆順《ぼくじゅん》が槍を扱いて出馬したが、方天画戟により一撃の下に葬られ、力無く馬から崩れ落ちる。


 諸侯が絶句する中、北海《ほっかい》太守孔融(こうゆう)の部将・鉄槌使いの武安国《ぶあんこく》が躍り掛かる。呂布は赤兎に鞭を入れ画戟を振るって応戦、十合余り打ち合ったが、武安国は片腕を斬り飛ばされてしまい、鉄槌を捨てて逃走した。


 諸侯は揃って武安国を救援しようと軍馬を繰り出し、不利と見た呂布は一時撤退を選択した。


 諸侯も一旦帰陣して再びの作戦会議。


「呂布の傑出した武勇の前に敵はありませぬ。十八諸侯全てを集めて、改めて良計を協議すべきでしょうな。もし呂布さえ虜に出来たなら、董卓などは容易く誅殺出来るものを……」


 曹操の言葉に一同が頷く一方で、呂布がまたもや兵を引き連れて出陣してきた。八諸侯一斉に打って出、公孫瓚《こうそんさん》が戟を振るって自ら呂布に挑んだが、数合も持たずに敗走した。


 一日千里を行くとされる赤兎馬を風の如くに疾駆させ、呂布は透かさず追撃に出る。見る見るうちに二騎の差は詰まり、呂布があわや公孫瓚の心の臓を背後から串刺しにしようとした、その時──! 丸い目を怒らせ、虎のような髭を逆立て、一丈八尺の蛇矛《だぼう》を扱く張飛が稲妻のような声を張り上げた。


「三つの家の奴隷め、どこへ行く! ※燕人《えんぴと》張飛が相手になってやらぁ!!」


(※張飛の出身州である幽州は、かつて燕という名であった)


 新手の出現、呂布は公孫瓚から張飛に標的を変更する。張飛は精神抖擻(とそう)して応戦、十合、二十合、三十合と身の毛も弥立《よだ》つ打ち合いが続き、五十合を数えても決着が着かない。


 全くの互角に見えた勝負であったが、ほんの僅かに義弟が押されているのを見逃さない──関羽がはっと馬に鞭を入れ、八十二斤の青龍《せいりゅう》偃月刀《えんげつとう》を舞い踊らせて打ちかかってきた。


 呂布・関羽・張飛の三騎は丁の字を描く形で更に三十合余り打ち合う。が、関羽と張飛の同時攻撃ですら呂布を倒す事が出来ない。


 三者が火花を散らす背後から、黄色い鬣《たてがみ》の馬に跨り、雌雄一対の双股剣《そうこけん》を振るって現れた男が一人──言わずもがな、二弟の助太刀に躍り出た劉玄徳である。


 劉備三兄弟は呂布を囲んで走馬灯の如くに駆け、更に激しい打ち合いを展開してゆく。無名の三人が無敵の呂布と互角以上に渡り合っているという目の前の事実に、八諸侯の人馬はみな呆然として顛末を見守っていた。


 呂布は囲みを突破せんとしたが、三兄弟の連携は乱れず、なかなか隙が見当たらない。そこで呂布は劉備の顔面へ突きを入れると見せかけ、劉備が身を翻した僅かな隙に囲みを突破、方天画戟を倒伏させて赤兎を虎牢関へと走らせた。


 三英傑が馬に鞭を入れて呂布を追走すると、そこで八諸侯の軍馬が喊声とともに大挙して押し寄せた。虎牢関の上から望見できたのは、呂布の軍馬が奔走し、すぐ後方から突出した三騎──劉備・関羽・張飛が追い縋るという、俄かには信じ難き光景であった。


 古人が曾て編纂した文にはこのようにある。


 単道著(あらわ)し、玄徳・関・張の三者は呂布と戦う。


 漢朝の命数、桓《かん》・霊《れい》に当たり、

 炎炎たる紅日、将《まさ》に西へ傾かんとす。


 奸臣董卓《かんしんとうたく》、少帝《しょうてい》を廃し、

 劉協《りゅうきょう》、惰弱にして魂夢を驚かさん。


 曹操檄《そうそうげき》を伝えて天下に告げ、

 諸侯憤怒し、皆兵を興す。


 議を立て袁紹《えんしょう》盟主と作《な》され、

 王室を扶《たす》け、太平を定めんと誓う。


 温侯《おんこう》の呂布、世に比《なら》び無く、

 雄才、四海《しかい》を跨ぎて英偉ならん。


 軀《からだ》を護る銀の鎧は龍鱗の砌《みぎり》、

 髪を束ねる金の冠は雉尾の簪《かんざし》。


 參差《しんし》の宝帯、獣平呑し、

 錯落《さくらく》の錦袍《きんぽう》、鳳飛び起こる。


 龍駒《りゅうく》跳踏(ちょうとう)さば天より風起こり、

 画戟《がげき》の熒煌、秋水を射ん。


 関を出て戦いを挑むも、誰が敢えて当たれよう?

 諸侯肝を裂かれて心惶惶(こうこう)とす。


 踴り出るは燕人《えんひと》張翼徳《ちょうよくとく》、

 手に持つは蛇矛、丈八の鎗。


 虎鬚《こしゅ》倒豎《とうじゅ》し金線翻り、

 環眼、圓《まる》い睜《めつき》に電光起こらん。


 酣戦《かんせん》するも未だ勝敗分かつに能わず、

 陣前に関雲長《かんうんちょう》惱起(奮起)せん。


 青龍の宝刀に霜雪燦《そうせつきら》めき、

 鸚鵡の戦袍に蛺蝶《たてはちょう》飛ばん。


 馬蹄の到る所鬼神嚎し、

 目前にて一たび怒り、流血に応ず。


 梟雄玄徳、双《ふた》つの鋒《きっさき》を掣《ひ》き、

 天威《てんい》抖擻《とそう》して勇烈を施かん。


 三人圍繞(いじょう)し多く戦いし時、

 遮攔架隔して休歇は無。


 喊声の震動、天地を翻し、

 殺気の迷漫、牛斗を寒からしめん。


 呂布、力窮して走路を尋ね、

 遥かに望む山塞へ※拍馬して還らん。

(※阿諛追従ではなく、馬に鞭を入れて…の意か)


 倒拖し桿を画くは方天戟、

 乱れ散る銷金は五彩の旛。


 頓断絨走せし赤兎(馬)、

 身を翻して虎牢関の上へと飛ばん。


 三兄弟が直接呂布を追って虎牢関の下へ到ると、関上に西風にはためく青羅の傘が見えた。 張飛が大声で叫んで、


「ありゃ、董卓に違いねぇ! 呂布を追って来てみりゃ、敵の親玉にぶち当たったってわけだ! 先に董賊をひっ捕えれば、残りの奴らも根こそぎいただきだぜ!」


 馬に鞭入れ、目指すは虎牢関の頂に在る董卓。


 まさに、賊を平定するには当然としてその首魁から狙うべし。抜群の功績をあげし者、それすなわち傑出した才を備えし者である。


 果たして、勝負の行方は如何に。


 それでは、また次回。


 ─第五回、おわり─

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