七、丁原、怒る!
全員が着座すると、然るのちに園門に兵馬の一団が至り、帯剣した董卓が悠然と現れた。
かくて宴が始められたが、諸侯にとっては針の筵。食事はまともに喉を通らず、敢えて董卓と目を合わせようとする者などは皆無であった。
酒が数巡した頃、董卓は音楽を止めさせて声を張り上げた。
「この場を借りてわしから一つ提案があるのだが、諸君静聴されたし」
百官一斉に董卓に目線を投げる。続けて董卓、
「天子とは万民の主である。威儀の無い者では、宗廟を奉じて社稷を安寧とする事などは不可能! 今のお上は惰弱であるが、弟御の陳留王は聡明にして好学、漢の大統を継承するに相応しき御方だ。わしは帝を廃立し、陳留王を新たに擁立しようと考えておるのだが、諸大臣は如何お考えか!」
臣下による皇帝の廃立など言語道断だが、異論を唱えれば誅殺される──そう悟った百官は、誰一人として声をあげられなかった。
と、その時。一人の男が沈黙を破った。机を押しのけて董卓の前へ罷り出で、大声で叫ぶ。
「ならぬ! ならぬぞ! 何の権利があってかのような大それた事を言うか。天子は先帝の嫡子にあらせられ、何の落ち度もないのにどうして妄りに廃立など議そうとする! 董卓、貴様ゆくゆくは簒奪を考えておるのであろうが!」
董卓がかの者を見れば、これぞ荊州刺史の丁原。董卓は怒りを露わにして、
「わしに従う者は生かしてやるが、逆らう者は殺す!」
言うが早いか丁原に斬りかかろうとした。
その時、李儒は見た。丁原の後ろに控えていた男、天姿傑出、意気軒昂、凛々たる威風、片手には方天画戟、目を怒らせて董卓を睨み付けているその姿。




