五、董卓の野心
さて一方、閔貢は帝捜索の途上で段珪を拿捕しており、天子の居所を問い質していた。
「途中ではぐれてしまい、我々にも陛下と陳留王がいずこにおわすかはわからぬ……」
閔貢は聞くや否や段珪を手打ちとすると、その首を馬の鞍に懸け、兵を四方へと放って更に帝の捜索を継続した。
閔貢自身の兵馬は公道に沿って進み、偶然にも崔毅の邸宅へと到達した。崔毅は閔貢の馬に首がぶら下がっているのを不審に思って経緯を尋ね、事ここに至るまでの詳細が明らかとなった。閔貢が信頼に足るものと判断した崔毅はかくて帝に引見させ、君臣は揃って涙を流した。
「国に主がおらぬ事など、一日でもあってはなりませぬ。さぁ陛下、都へ戻りましょう」
とは、閔貢の弁である。崔毅の家には一頭だけ痩せ馬がおり、少帝はこれを乗馬として用いた。陳留王は閔貢の馬に同乗し、かくて一行は洛陽への復路に就いた。
三里を過ぎようかというところで、司徒の王允、太尉の楊彪、左軍校尉の淳于瓊、右軍校尉の趙萌、後軍校尉の鮑信、中軍校尉の袁紹の一団数百名が天子の車駕を以て出迎え、安堵した一同はここでも流涕した。
一行は先に段珪の首を洛陽へ送って宦官勢力を掃討した旨を告知させると、選りすぐりの良馬二頭に少帝と陳留王を乗せ、厳重なる警護のもとに洛陽へと向かった。
これより以前、都では、
「帝は帝でなくなり、王は王でなくなり、千乗萬騎が北邙へ走る」
という歌が童の間で流行していたが、果たしてこの一件を予言したものであった。
そこから数里も行かぬうち、突如として現れたのは、太陽をも覆い隠す旗指物、土埃を天まで巻き上げんほどの威容の軍団。百官は色を失い、帝もまた大いに仰天した。
袁紹が馬を躍らせて誰何すると、綾取りの旗の裏から一人の将が現れて濁声をあげた。
「天子は何処におわす」
恐れ慄いた少帝は声をあげることすら出来ない。陳留王が馬を操り前へ出でて、かの男を呵叱する。
「その方は何者だ!!」
「西涼刺史の董卓にございまする」
陳留王は怯まず、
「その方は我々を守ろうとしているのか! それとも、我々を脅かそうとしているのか! 答えよ!」
董卓応じて、
「とんでもございません。身どもは陛下をお守りするために、こうして西涼より罷り越した次第にございます」
「車駕を守ろうと抜かすか。天子はここにあらせられるのに、なぜその方は下馬せぬのだ、無礼であろう!」
陳留王の胆力に驚いた董卓はやにわに馬から下りて拝礼、その様子を見て陳留王は初めて労いの言を述べ、その立ち振る舞いは終始に渡って見事なものであった。
董卓は平伏する傍らで、震えているだけの少帝よりも、聡明な陳留王の方が主上に相応しいと考えており、心の裡では既に少帝を廃立して権勢を握らんとする算段を立てていたのである。




