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英雄記  作者: つー
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凡夫

生まれた時からそうだった。


兄はいつだって俺の前を進んでいた。

何をしても越すことができず、何をしても周りは兄を褒めた。


兄は完璧な人間だった。

俺が何かしでかしても怒ることもなければ殴ることもない。

優しく諌めて反省を促す。


俺はいつだって兄の下位互換だった。

これを兄に言った日だけ唯一1度だけ叩かれたけども。


父は無口で厳格な人だった。

いつも仕事をしていて家にいることは殆どない。

愛情のない人だった。

若くして亡くなった母はいつも父は不器用なだけだと言っていたが俺はそれが理解できなかった。


俺は兄に追いつこうと必死だった。

皆それが何故か問いただす。


しかし皆わかっていない。


名家に生まれたくせに代々受け継がれたきた【灸尾】という能力を持たない凡夫は必要とされないのだ。


加えて俺の能力【重力】は自身と自身の触れているもの…しかも触れている間しか重力を操れない。

さらに自分以外に重さを加えようとしたら俺にも重さが加わるおまけつきだ。


なんの役にも立たない。


唯一勝てた剣術も普段は能力を用いて戦うので意味を為さない。


一体俺にはなんの価値があるのだろうか。


俺は悔しくてたまらなかった。

何もない自分が只々情けなく思えて腹が立った。


そして今日、俺は家出をする。



「家を出るのか」


俺が靴を履き終えて()を出ようとしている時だった。


「…兄上。」


「わかっているのか。この国から出ると殆ど知らないものだらけだ。この国は変わっているからな。外の国では刀ではなく剣が主流であるし最近は鉄砲というものも出回っている。それでもいく勇気があるのか。」


「…止めたいのですか?」


「いや、止めはしない。」


「そうですか。なら関係ないですね。」


父は現在出張でいない。

ならばもう、邪魔するものはいない。


「お世話になりましたと父上に伝えておいてください。」


「自分で言いなさい。」


「それでは。」


一瞬手を伸ばしかけた兄だったが、すぐに引っ込めて優しい笑顔になった。

ああ、いっそ引き止めてくれたらよかったのに。


「ああ、立派になるんだぞ。」


俺にはその言葉が酷く残酷に聞こえた。



シューーーーーと汽車の音が鳴る。


この時代遅れな国にも通る汽車は他の国と繋がる唯一の交通路だ。

俺は予め予約しておいた席に着き、地図を広げて目的地を確認する。


(霜月狼の森…)


俺の住んでいた大和の隣国であるポール王国への道中にある大きな森林だ。

霜月狼というこの世に2体しかいない大聖霊の1体が住み、エルフの住み着く森林。


俺がそこに向かっている理由は2つある。

1つは単純に近いからだ。

汽車で行ける距離(汽車で行けると言っても途中からはだいぶ徒歩。)であることを考えると大和から出る最短の方法だ。

2つ目の理由として、最近話題のテロ組織…オルディナの事件がポール王国で頻発している。そこに向かうために通る道だからだ。


俺の旅の目的はなにも家族から逃げてきただけじゃない。

俺自身が手柄を立てて父上から認めてもらうことだ。


金は一応名家からの出身だからな。

腐るほどある。


この日の為の用意もしてきた。


俺は地図を閉じ、目も閉じた。

目的地に着いたらまた考えよう。



「はあ…。」


口から白い吐息が漏れ出た。

ここらの地域は霜月狼の影響で気温が低くなっている。

大和ではまだ木の葉が紅みがかり始めたばかりだったというのにここでは雪が降っている。


エルフの住み着いているこの地はあまり人口の多いところとは言えない。

というか、無断での立ち入りが禁止されている。

ここに入れる権利を持つ証明書が必要だ。

一定ランクを超えた冒険者証や俺がもつ国の上の立場のものとしての証明書。

まあ他にも色々とあるが一般人が入れる場所ではない。

ただ…エルフの住む地帯は気温が低いさながら緑に満ちていると聞いていたが…。


「ふむ…これは…。」


あちらこちらに爪痕のようなものがある。

俺はしゃがんでその傷跡に触れる。


(俺が魔力を扱えたら何の影響かもわかるんだが…。)


「おい!そこの人間!何をしている!」


「!」


振り返り上を見ると木の上に3人のエルフがこちらに弓を構えている。


「怪しい真似をしたらうつ!何故ここにきた!」


「ポール王国に向かう道中です。証明書もあります。食料調達のためにここに来ました。」


「証明書をこちらに見せろ!」


かなり警戒してるな…。

俺はゆっくりと荷物から証明書を取り出す。


「こちらです。」


「ふむ…。」


かなり距離があるが見えているのか。

エルフは5感に優れた種族だと聞いていたがこれほどとは。


「疑ってすまなかった。村まで案内しよう。」


「助かります。」


エルフの三人衆のリーダーらしき人が他2人に指示を出し、ばらけさせてから木から降りてきた。


「こっちだ。」


そう言われて数分ほどついていくと村が見えてきた。


「あれが俺たちの村だ。案内はここまででいいな?」


「はい、ありがとうございました。」


こうして俺はエルフの村に入って行った。

もうお分かりかもしれませんが大和の舞台は江戸時代くらいの街並みの日本です。

しかし他の国々の技術が大和よりも先進的な為大和にも一本だけ汽車が通っています。

あと主人公の名前は九条凪です。

ちゃんも本編でも出します。多分。

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