翻弄された入学式。
とある漁師町。
俺は小中一貫校に通うごく普通の中学生だった。
頭は、控えめに言ってかなりいいみたいだ。
突然変異だとか、ご先祖様の生まれ変わりだとか、周りは好きな事をいっている。
俺の名前は、九鬼嘉隆だ。
俺はなんとか水軍の長の隠し子の末裔・・・らしい。
俺の家系には、代々嘉隆が2、3人存在する。
歴史に名の残るご先祖様にあやかり、息子に嘉隆と名付ける、バカな親が定期的に現れる様だ。
・・・俺の父も・・・その一人・・・だ。
正直、恥ずかしい。
改名したい。
まぁ、そんな事をすれば、気性の荒い父は、殴りかかってくるだろう。
うんざりだ。
本当に。
そんな事を考える俺だったが、父は以外と理解があった。
ただ、先に言っておくと、父はバカだ。
そして・・・俺も。
いや、世間知らず・・・が正しいのか。
俺を含んだバカな家族はバカな情報を鵜呑みにした。
だから、高校の入学式、俺は・・・今、こんな事に。
「キャーーー!!!何?あの人!カッコいいーー!!だれ?!知ってる!?」
俺は黄色い声援に囲まれながら、この白髪の少し可哀想な女子と、与えられた先頭の席に向かい歩いている。
席に座り、俺は通路を挟んだ向こう側に座る白髪の可哀想な女をチラッと見た。
「うわ〜、めっちゃ睨んでるわ。」
この白髪の可哀想な女子は、俺と道立の首席、西園寺 零だ。
こんな感じで、俺の高校生活は始まった。
時を遡ると・・・。
俺の家は裕福とは程遠い。それでも、両親は俺に高校までは行けと言ってくれた。この島には、高校は無い。島民の男は、島を出るか、漁師になるか。そんな2択を高校生になる年に迫られる。俺は、どうしても興味のある仕事に就きたい、そう思って東京の高校の受験をした。
もちろん試験には合格、そして首席だ。
俺は満点だった・・・筈だ。
そんな俺と同じ首席がもう一人いる。
高校からはそう連絡を受けた。
その首席、西園寺零と、俺は入学式で式辞を読む事になっていた。
「零・・・名前から察するに、女か。
東京の女。やりにくそうなこと、この上ない。」
俺はそんな事を思いながら、高校からの手紙を閉じた。
「おい!嘉隆!」
こいつは、仲のいい藤原 達也だ。
「何だ?」
すごい剣幕で、うちの戸をあけ飛び込んできた達也に、俺は問いかけた。
「お前、知ってるか?!」
「何を?」
俺は達也にもう一度、問いかけた。
「恐ろしいぞ。心して聞け。」
「たがら、何だ。」
「東京はオシャレじゃないと、村八分にされるらしいぞ!」
「何っ?!」
東京の高校に行く事が決まっている俺は、達也の話に食いついた。
「本当か!!」
俺だけじゃない。
俺の両親も・・・だ。
「本当だ!東京の高校生はみんな金髪らしいぞ!しかも、ファッションセンスも問われる!」
達也は、嘉隆の着ているTシャツを見た。
「・・・お前のその・・・海人、なんか一瞬だぞ!
・・・お前はもう、村八分だ。」
あのアニメの決め台詞の様に、俺は村八分になった感覚に襲われた。
「・・・それはまずい。」
「そうだ!まずい!非常にまずい!
このままじゃ、お前の高校生活は初日に終わりだ!まずは金髪だ!それから、本土の百貨店で服を買って行け!できるだけ沢山だ!東京では、記憶のある間、同じ服を着るのはご法度だ!」
「お前・・・。達也!ありがとう!危ないところだった!」
「いいって事よ!」
達也は、意気揚々と、嘉隆の家を後にさした。
「嘉隆!!」
「父さん、すごい剣幕でどうしたんだよ?」
「今から本土に行くぞ!百貨店と、美容室だ!お前が村八分されちゃーご先祖様に申し訳がたたない!」
「父さん!ありがとう!」
すぐさま、嘉隆と両親は漁船で本土に向かった。
そう、この達也のバカな情報に俺たち家族は翻弄され、俺は王子様のように仕上がった姿で東京へと向かったんだ。
そして・・・入学式の日。
俺は親の借りてくれたアパートの洗面所にいる。
寮には空きがなく、家賃がかさみ申し訳ない気持ちだったが、高校に通うには、仕方のない事だと、両親はここを借りてくれた。
「あー!髪が、寝癖が治らん。」
寝癖なんか付けて学校に行こうものなら、俺の高校生活は今日で終わる。
なんとかしなければ!
などとしているうちに、時間は過ぎて行く。
なんとか寝癖を直した俺は、学校へ向かった。
入学式は、体育館で行われる。
入学式の開始時刻、2分前。
体育館の入り口の前にたどり着いた。
入り口の前には、白髪の長髪の女が立っていた。
「お前も生徒か?式始まるぞ?」
俺は、体育館に入る気配のない女に声をかけてみた。
「私は首席だ。ここで待つように言われてる。」
「首席はまだ入ったらダメなのか。」
(無愛想な奴だな。こいつが首席・・・西園寺零か。)
「おい、お前は入ればいい。何故そこにいるんだ?式、始まるぞ?」
「俺も首席だ。」
「お前・・・九鬼嘉隆か。」
(こんなチャラチャラした奴が首席?
気に入らない。不愉快だ。)
「そうだけど。そっちは西園寺零だよな。よろしく。」
「あ、あぁ。よろしく頼む。」
視線を合わそうとしない零を、嘉隆はマジマジと見つめ口を開く。
「・・・聞きにくいんだが・・・。」
「何だ?」
「お前、何か大病を患ってるのか?」
「何故だ?」
「いや、その・・・白髪だし。」
「こ、これは!」
ガラガラ。体育館の扉が開く。
「あー良かった!九鬼くんもちゃんときてるわね。首席の二人、入って!
先頭の席まで歩いて、紹介が済んだら座る、しばらくしたら式辞を読んでもらうから。ちゃんと練習した?
頼むわよ〜。」
「はい。」
嘉隆と零は、返事すると歩みを進める。
(おのれ、九鬼嘉隆。私のこの髪は白髪ではない!見たら分かるだろ!
私はハーフだ!この美しい銀髪と青い瞳、高身長スタイルバツグンに加え、この美しい顔立ちと、ふくよかな胸。
私に魅了されない男などいない!
何なのだこいつは!)
零は、嘉隆を睨みつけながら歩く。
体育館に入ると、嘉隆への女子生徒の黄色い声援と、零を見た男子生徒の驚きの声で体育館は騒がしい。
と、こんな感じで今に至る。
(西園寺零、俺の事ずっと睨んでるな。
失礼な奴だ。俺は心配してやってると言うのに。)
「式辞。生徒代表、九鬼嘉隆、西園寺零。」
「はい!」
嘉隆と零は、返事をして立ち上がると舞台へとあがる。
舞台の階段、二人の距離が縮まると、
「おい、九鬼嘉隆。私の髪は白髪ではない。」
小声で零が話しかけた。
「そ、そうか。すまん。」
嘉隆は、触れられたくない所に自分が触れたのだと勘違いして、ただただ申し訳なさそうに詫びた。
「だからー!」
「式辞・・・」
小声で絡んでくる零を聞き流す様に、嘉隆は式辞を読み始める。
「おぃ。」
零は苛立っている。
(私を無視?この男はいったい何者なんだ!悔しい。悔しい。悔しーい!)
式辞を聞いていた生徒達がざわつき出した。
「おぃ、おぃ!」
嘉隆は、読む番がきても黙って俯いている零に声をかけている。
「しまった!」
零は我に返った様に式辞を読み進めた。
零が読み終えると、二人は校長、舞台下の教員、生徒と保護者へ礼をして、舞台をおり、席に着いた。
(あいつ、緊張してたのか?まぁ、なんとか終わったな。)
嘉隆は、零に礼を尽くす如く、笑いかけた。
(九鬼嘉隆。お前のせいで!恥をかいたー!調子が狂う。・・・まぁいい。首席といってもどうせ文系の方だろう。理系で満点など、私くらいにしかできない芸当だ。クラスも違うだろうし、もう関わる事もない。ここは適当にあしらっておこう。)
零はそんな事を考えながら、嘉隆に微笑みかけた。
(笑うと可愛いな〜。人を睨むなって教えてやるか。・・・待て、さっきの事を学習するべきか?もしかすると、急いでいてメガネを忘れたのかもしれない。
目が悪い事もコンプレックスだったとしたら?・・・そうか!式辞もメガネを忘れたから字がボヤケてたのかも!
俺を睨んでいたように見えたのも・・・。
でも、笑っていた方がいい!
うまく伝えてやらないとな!
いや〜、東京は気を使うなー。
島なら包み隠す事無かったからなー。)
そんな事を考えながら、嘉隆は高校生活を無事に過ごしていける様に頑張ろうと、心に誓ったのだった。




