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第十節 識の光芒 ④

「──……予言の詳細を教えてくれないか」


 当時の件の奇妙な言動にユリアが違和感を抱えながら黙り込んでいると、アイオーンがそう言い、フドウは了承した。


「『来るべき未来のため、ヒノワ国の宝刀はユリア・ジークリンデと縁を結ぶ。やがて、彼女はヒノワ国を訪れ、仲間たちとともに星の欠片たちの残滓に触れる』──というものだった」


 『来るべき未来』、『星の欠片たち』──これらは、いったいどういう意味なのだろう。予言というには何を指しているのかがぼんやりとしすぎている。しかし、『仲間たちとともに』という言葉から、それは今の自分を指しているようにユリアは思った。前半と後半の内容の時間軸が、約千年も離れていることになるが──。それに、語尾が言い切りだ。可能性を示す言葉ではない。


「星の欠片たちの残滓とは、なんでしょうか……。後半の予言は、なんとなく『今の時代を生きている私』を指しているような気がするのですが──。でも、それだと……(くだん)は、私が現代で生きることになる未来を予知できていた、ということなのでしょうか……?」


「それは余にもわからぬ……。件の予言は、直接的な表現もあれば比喩的な表現のときもあるらしいのだ。いつだったか──ある研究者が、歴史に残されている(くだん)の予言から推測したところ、自然災害は直接的な表現。人間や星霊が起こす出来事なら比喩的な表現をする傾向があるのではないかとの説を唱えていた」


 自然災害は、誰がどう頑張っても災害が来るという未来は変わらない。しかし、人が関わっている場合は未来が変わるかもしれない。だから比喩的な表現になるのだろうか。その説がもしも正しければ、人が関わっていても直接的な表現であれば、その未来は確定しているという意味なのだろうか──。


「……星の欠片たち……」


 すると、アイオーンがその言葉が気になったようで、思案しはじめる。


「この言葉はただの比喩表現なのか……。それとも、俺たちがいる『この星そのもの』の『何か』を指しているのか……──痛っ」


 次の瞬間、アイオーンの頭に痛みが走った。驚いたユリアはアイオーンの腕に手を添えて、顔を覗き込んで案じる。


「アイオーン……また頭痛が起こったの?」


「ああ……」


「……アイオーン殿に頭痛とは──しかし、そなたには強力な治癒能力があったはず。何が起こったのだ?」


 と、フドウは不思議そうに問う。


「確かに、俺には治癒力がある。……だが、時々、それがまったく効かない頭痛が昔から起きていたんだ。頭痛が起きるのは、失った記憶に関係しているからではないかと思っている。光陰や〈黒きもの〉、怪異の異変と同じく、この頭痛のことはなにひとつはっきりとしていないがな……」


「ふむ……。しかし、話を聞くかぎりでは、そなたが抱える多くの謎は光陰や〈黒きもの〉に関係していることは確かなのだろうな」


 アイオーンは頷く。それでも、わかっていることはそれだけだ。それらを追っていても新たにわかったことはなにもない。すると、ユリアは何かを思い出し、「──あ……そうだわ……」と声を出す。


「すみません、フドウさん。もうひとつ教えてほしいことがあるんです。実は、光陰から力を与えられた現代の人間たちは皆、ナナオさんの孫にあたる人たちで、光陰はその人たちのことを『縁ある者』と感じているみたいなんです」


「ほう……。ナナオ殿の孫に──ということは光陰は、スエガミ家の末裔に(えにし)を感じているというのか……」


 と、フドウは何かを知っているかのように言葉をこぼす。


「フドウさんは、スエガミ家がどのような歴史を持った一族なのか知っていますか? ナナオさん曰く、スエガミ家は祖父の代で資産家になったということ以外は知らないとのことでした」


「そうだろうな……。スエガミ家はある時を境に、由緒ある家系だったというのにその証をすべて捨てたのだから」


「え……。す、捨てた……?」


 大胆な行動に、ユリアは思わず言葉を失った。


「余が知っていることは、スエガミ家とは、古くは常世山を管理していた一族だったということくらいだ。その者たちは、魔力生成力も平均的な人間たちであったが、常世山を所有地としていたのだ」


 常世山を管理していたから、光陰はスエガミ家の末裔である四人を『縁ある者たち』と称していたのだろうか。

 しかし、腑に落ちないことがある。たしかに縁はあるが、あの四人が受け取った光陰の力は、アイオーンの力に近いものだ。ユリアとテオドルスは、アイオーンの力を貰った際、身体に馴染むまで苦しんだ。しかし、あの四人は苦しむことなく身体に馴染ませていたという。この差は、いったいなんだ。


「霊峰を管理する一族など、ヒノワ国にとっては神聖なる一族だ。……しかし、光陰がそなたのもとへ渡った頃に、突如として当時の当主はその役目を降りた。その当主に理由を聞くと、『光陰が真の持ち主へと渡ったのであれば、もう山を管理する必要はない。一族の約束は果たした。だから我々は、未来で生まれる子らのために、市井の人に紛れて生活したほうが良いのだ』と言っていた」


(その時代のスエガミ家の当主──なんだか……私に光陰を渡す機会を待っていたかのような口振りだと思ってしまう……)


 ふと、ユリアはそんなことを思った。深読みのしすぎかもしれない。今は、ただでさえ白黒はっきりしないことが多いため、強引に結論づけたくなってしまう。


「……スエガミ家は、霊峰そのものを管理していたようで、光陰を管理していたのか?」


 アイオーンはフドウに聞く。


「あのような行動を見れば、そうとも読み取れるな。しかし、あの当主は、それ以上なにも言わなかった。ゆえに申し訳ないが、それ以外のことは判らぬ」


「……また不明瞭なことが増えたな」


 と、アイオーンは息をつき、ふたたび口を開く。


「──しかし、一通りの情報は共有できたか……。クリカラ。何かが起こったら、些細なことでも連絡してほしい。俺達も、新たにわかったことがあれば連絡する」


「それはありがたい。……頼ってきてくれたというのに、さほど役に立てなくてすまないな」


『──フドウ・トシヒロよ。常世山は、我が主たちでも登れないほどに危険な場所のだろうか?』


 すると、光陰はまた言葉を発した。


「光陰──あなた、まさか常世山の山頂に行きたいの?」


『不思議と、行かねばならぬ気がするのだ。この感覚は、『縁ある者たち』に力を与えようと思った感覚と似ている』


 ラウレンティウス、アシュリー、クレイグ、イヴェットの四人に力を与えようと思った時──〈黒きもの〉に精神を操られたテオドルスとの戦いは、光陰がその四人に力を与えようと思わなければ勝つことは難しかった。その感覚が、またやってきた。ならば──。


「……フドウさん。その……私たちが常世山を登るというのは──?」


「やめよ、と言いたいところだが……本当に行かなければならないのであれば、止めはしない。ふたりは知っているだろうが──あの山は、天候だけでなく四季もよく変わる。ゆえに、頂上に近づけば気温が下がるというわけでもない。『この世の(ことわり)が通用しない山』と言われるほどの場所だ」


 そのため、常世山は神々が作った山という言い伝えあるという。


「ただし、何が起こるかはわからぬぞ。余がこの体に入ってから十年が経つ。それ以降は、誰も常世山に近づいてはいない」


「……わかりました」


 ユリアはそう答え、アイオーンを見る。


「アイオーン──私は、常世山に行きたいと思っているわ。あなたはどう思う?」


 アイオーンは黙り込み、ややあって光陰を見た。


「……光陰。俺は過去に、記憶を求めて常世山の山頂まで登ったことがある。だが、その時は何も思い出せなかった。危険を冒しても、何も得られないかもしれない。それでも行きたいのか?」


『無理にとは言わぬ。そなたたちが行きたいというのであれば──。しかし、過去と今は状況が違うと主張したい。我らが目覚めており、そなたも過去とは違う。何かが起きる可能性も否定できぬ。強く求めているのであれば、行ってみる価値はあるはずだ』


 光陰の意思を聞き、アイオーンはまたユリアを見た。


「……いいだろう」


「──決まりね」

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