アードルフ達側近の決戦前夜
カシノニア王国にレティーツィアが戻ってくる前夜、レティーツィアの側近達の状況です。
筆頭護衛騎士のアードルフと、筆頭側仕えのギーゼラの視点です。
次の話からレティーツィアがカシノニア王国に戻ってきます。
カシノニア王国は飢えていた。
レティーツィア王女が消えたあの騒動以降、国土は乾いていった。
豊かだった土地は砂漠のようになり、国の民は毎日食べるものにも困るようになった。
特に荒廃が酷かったのは、国の中心から離れた国境付近だった。
地面を見ても、以前のような大きな木は見当たらない。あるのは、砂とまばらに生えている草だけである。
―――ジークの店。
国境付近で商売をやってる移動商店だ。
「………いつものものを頼む。」
「はいよ。けどよー、あんた達も本来ならこんな所にいるような御身分の方じゃねぇんだろ〜?
お偉いお貴族様ならさー、早く実家に帰りゃいいのに。そしたら、こんな食べ物に困る暮らしなんてしなくてすむのにな〜。
……ほらよ、おまちどーさん。」
「…………また来る」
「毎度あり〜」
目深くフードを深く被った男は、お金を渡して商品を受け取ると、言葉少なげにそう言って立ち去った。
「ジーク、無駄口ばっか叩いてると、お得意様が逃げちまうぜ〜」
「あぁ、へいへい。わかってるって。
けどさー、あいつらは俺が何を言ったってここから帰らねぇんだろうけどな〜」
「へっ、ちげぇねぇや。
俺なら、あいつらみたいに使えてた主に義理立てなんかしねぇな!
聞いた話じゃ、その王女、なんだっけな、レティーツィア様だっか? そいつだって、先にあいつらのこと裏切ったって話なのにな〜」
「あぁ。そうだな。それに、レティーツィア王女はすでに亡くなったという話だ。主に裏切られたのに、まだ主に忠誠を誓っているなんて、泣ける話だぜ。」
「たしかにな〜。でも、俺はやだね!
そこまでして裏切った主に忠誠を誓っても、意味ねぇじゃねぇか。なーんにも、報われねぇよ。」
「そうだな。だが、あいつらは俺たちが何を言っても聞かないんだろうな。
最後まで、『次期女王予定者で、女神の生まれ変わり』と言われていたレティーツィア王女を信じて忠誠を尽くすんだろうな。」
「だろうな!」
ジークは話しかけてきた顔馴染みの商人と話を終える。
次のお客様がくるからだ。
ここじゃ、働かなきゃ食べていけない。
ジーク達がアードルフに思うところがあっても、所詮は他人でしかない。
自分たちが食べていく分を稼ぐだけで精一杯なのだ。
お金を出して世話をするわけでもないのに、相手に干渉しすぎることもできない。
レティーツィアの筆頭護衛騎士、アードルフをが立ち去っていくのを、ジークは忙しなく働きながら見送った。
――――
ギーゼラは夕食の準備をしていた。
もはやレティーツィアに仕えていた側仕えはギーゼラだけになってしまったが、護衛騎士は違う。
彼らはアードルフの指揮の元、被害に遭いつつも命は奪われなかったのだ。
戦場に行くこともある護衛騎士にも簡易な食事の準備は可能だが、やはり側仕えであるギーゼラの料理の腕には敵わない。
ここが国境の辺境で、ロクな材料が揃わなくても、やはり護衛騎士よりやり慣れている側仕えが料理した方がおいしくなるものなのだ。
そういうことで、毎食の食事はギーゼラが担当することになっている。
「んー……、これぐらい煮込んだら十分かな?」
ギーゼラは独り言を呟きながら、夕食を作る。
一口味見ということで、ギーゼラは出来立てのスープを飲んでみる。
「うん。まぁ、合格点かな。」
満足そうにスープの味見をするギーゼラは呟いた。
―――レティーツィア様がいなくなってから、すでに3ヶ月は過ぎている。
ここにいるギーゼラやアードルフ達は、貴族だがレティーツィア様への忠誠を果たすために実家とは縁を切っている。
いや、厳密には実家から絶縁宣言をされたわけではないのだが、実際は絶縁されているようなものなのだ。
ハイデマリーが王国を支配する中、ハイデマリーが嫌っているレティーツィア王女に忠誠を誓い続けている以上、由緒正しい貴族とはいえ実家には帰れない。
もし、ギーゼラやアードルフ達がレティーツィア様に忠誠を誓いながら実家に帰ってしまったら、実家の家族達にも迷惑がかかってしまうのだ。
この場所で自分たちでやっていくしかないのだ。
まぁ、レティーツィア様に忠誠を誓う彼らに帰る意思など全くないのだが……
とはいっても、この寂れた地域での楽しみは少ない。
せめて食事くらいは美味しくないとやってられない。なので、ここに来た初めの日になるべくギーゼラは美味しい料理をみんなで食べようと提案した。
それからは、食事は基本的にみんなで食べることになっている。
「で、アードルフ? そんなに険しい顔をしてどうしたの?」
ギーゼラは、買い物から帰ってきてから表情の固いアードルフに声をかけた。
アードルフはレティーツィア様の筆頭護衛騎士の中でも、極めて堅物である。
口数も少ない方で、考えていることもわかりにくいと言われやすい男だ。
だが、ギーゼラにはアードルフの表情がなんとなくわかる。それは、同じレティーツィア様に仕えていたもの同士の絆の成せることでもある。
レティーツィア様は優しい主だったので、仕えている側仕えや護衛騎士同士の仲も良いのだ。
レティーツィア様の側近同士は、他の側近より信頼関係が深く、お互いを理解しあっている。
なにより、レティーツィア様という絶対的な主の元に個性的な側近達は団結していて、心は繋がっている。
アードルフだけじゃなく、他の護衛騎士達の様子もおかしい。
……きっと、何かある。
ギーゼラの直感がそう告げていた。
「……レティーツィア様の無念を晴らしたい。」
「え?」
「カシノニア王国の城に戻ろうと思っている。」
「……」
スープを見つめたまま、アードルフが呟いた。
他の護衛騎士達も頷いている。
「……それは。ハイデマリーが、ヴァルトラーナ国王と結婚するから?」
「そうだ。……反対するか?」
空気が緊迫する。
「いいえ!私は大賛成よ!」
「……! いいか? 僕達はハイデマリーを倒しに行くんだぞ? ただ、城に行くだけじゃないんだ。 失敗したら、命だってなくなるかもしれない。俺たち護衛騎士はともかく、側仕えのお前は生き延びても良いんじゃないか……?」
アードルフが戸惑うように尋ねてくる。
「そうだよ、ギーゼラ。君は側仕えで、護衛騎士じゃないんだ。俺たちが行くのは危険な場所なんだよ?裏切ったエイバルのように、ハイデマリーの傘下に入って貴族に戻ることだって可能なんだよ?」
オーブリーも心配そうに尋ねてくる。
冗談じゃない!!
裏切り者のエイバルみたいになんかなりたくないわ!
「命なんて、気にしないわ!それに、エイバルみたいにハイデマリーの傘下に入るなんて嫌よ!
私も、側仕えだけどレティーツィア様の側近なの。ハイデマリーの結婚は許せないし、城に戻らなくちゃって思ってたのよ。 ……それに、私を助けて殺されたパウラやリタもここに居たら、同じようにハイデマリーの結婚は阻止するって言うと思うわ。
私は、レティーツィア様や他のパウラやリタの仇もとりたいのよ!」
「…………あぁ、そうだな。」
私の強い決意を見たアードルフとオーブリーは、ギーゼラも城へ一緒に連れて行ってくれることになった。
詳しくは、明日の早朝にハイデマリーの結婚を阻止することになった。




