閑話 ハイデマリーの過去
悪役令嬢ハイデマリーの過去についての話です。
レティーツィアは知らないし気づいてすらいない、ハイデマリーの宿願は、ハイデマリーの過去の出来事が関係しています。
わたくし、ハイデマリーには好きな人がいました。
その人を一目見た時から、「あぁ、これが恋なんだ」と感じたのです。
ただその人を思い、わたくしもその人から愛してもらえることを期待しました。
幸いわたくしはその人から大切にされていましたし、わたくしが愛したのと同じようにあの人からも愛してもらえると確信していたのです。
ーーーわたくしが愛した人の名前はヴァルトラーナ。
そうです、カシノニア王国の次期国王と言われているわたくしの異母兄です。
わたくしは生まれながらの王族で、今まで生まれてから欲しいと言ったものは全て手に入りました。
わたくしが欲しいと望んで手に入らなかったものなど、この世にはないのですから。
わたくしはヴァルトラーナお兄様へのわたくしの思いが届くと思っていました。
ヴァルトラーナお兄様がわたくしのことを子供の冗談だと本気にしてもらえないなど、微塵も考えたことはありませんでした。
ですが、ヴァルトラーナお兄様はわたくしの愛の告白を子供の冗談だと本気にしてくれなかったのです。
ハイデマリーはヴァルトラーナお兄様に告白をして失敗してしまった日のことを思い出した。
「……ヴァルトラーナお兄様。
わたくしは、ヴァルトラーナお兄様をお慕いしております。」
ハイデマリーはほっぺをほんのりと赤くさせながら、ヴァルトラーナお兄様の目を見て告白をした。
「え? あぁ。 ありがとう、ハイデマリー。
私もハイデマリーを大切な妹と思っているよ。」
ヴァルトラーナお兄様はハイデマリーの言葉に驚いたようだが、嬉しそうに異母妹へ向けて感謝の気持ちを口にした。
だが、ハイデマリーはヴァルトラーナお兄様に自分の告白が告白としてまともに受け取られていないことに気がついた。
「い、いえ。
わたくしは、ヴァルトラーナお兄様をお兄様として以上にお慕いしているのです。」
すぐにハイデマリーは異母兄として、家族としてではなく、ヴァルトラーナお兄様を愛しているのだと伝えた。
「……」
驚いたような表情をして固まるヴァルトラーナお兄様。
ハイデマリーは、やっとわたくしのヴァルトラーナお兄様への思いが伝わったのだと確信した。
ーーーこれで、ヴァルトラーナお兄様はわたくしのものになる。
ハイデマリーの中で、ヴァルトラーナお兄様が告白を拒否することなんて全く想定していない。
ただヴァルトラーナお兄様がハイデマリーに「私もハイデマリーが好きだから婚約しよう」と言ってくれると、根拠のない自信に溢れているのだから。
「ハイデマリー、それは子供の頃にはよくあることなんだよ?
ハイデマリーのような年頃の子供は、私のように年上の者に憧れを持つことがあるんだ。
もちろん、私もハイデマリーに好いてもらえてうれしいが、その気持ちは恋心ではないんだよ。
いつかハイデマリーも大人になれば、本当に人を愛することがわかるだろう。」
ヴァルトラーナお兄様は幼い異母妹のハイデマリーを諭すように優しく話してきた。
そうじゃない、そうじゃないのよっ!
わたくしのこの思いはっ! ヴァルトラーナお兄様へのこの恋心はただの子供の憧れなんかじゃないのよっ!
ハイデマリーは、ヴァルトラーナお兄様の目を見つめて決意のこもった目でもう一度伝えた。
「違うのです!
わたくしのヴァルトラーナお兄様へのこの思いは、子供の憧れなんかではなく、本当にヴァルトラーナお兄様をお慕いしているのです。
ヴァルトラーナお兄様、どうかわたくしを婚約者としていただけませんか?」
ハイデマリーは、これでヴァルトラーナお兄様もわたくしの思いに気がついて告白の了承をくれるだろうと自信満々だった。
だが、ヴァルトラーナお兄様はなぜかさっきよりも驚いたというか困ったような表情をしていた。
……どうしてそんな表情をするのですか?
「ハイデマリー、すまないが私は君を可愛い妹としてしか見てはいないんだ。
おそらくこれからも私がハイデマリーのことを好きになることはないだろう。
すまないが、ハイデマリーの気持ちには応えられないよ……」
ヴァルトラーナお兄様はすまなさそうに、ハイデマリーの告白を拒否した。
ハイデマリーの顔は驚愕の表情になった。
「なぜですか。
ヴァルトラーナお兄様は誰よりもわたくしを愛してくれていました。
それは、わたくしのことをヴァルトラーナお兄様が好いているということではないのですか!」
ハイデマリーは信じられないと、ヴァルトラーナお兄様に再度問いかけた。
「……!
すまない、ハイデマリー。
私はただ可愛い妹を愛しているだけなんだ。
それ以上の感情を君に持つことはできないだろう。」
ヴァルトラーナお兄様はきっぱりとハイデマリーの告白を振って、今後もハイデマリーを愛することがないと伝えてきた。
「そんな……っ。」
ハイデマリーは現実が受け止められなくて、口を開けたままヴァルトラーナお兄様を見つめた。
「……それに言いにくいのだが、私は隣の国の姫と婚約することになったんだよ。
だからハイデマリー、君との婚約は不可能なんだ。」
ヴァルトラーナお兄様は言いにくそうに、だが幸せそうに話した。
だが、ハイデマリーには理解不能だ。
「……ヴァルトラーナお兄様は、その、隣の国の姫を愛しているのですか?」
ハイデマリーは、ヴァルトラーナお兄様が否定して欲しいと思いながら問いかけた。
「あぁ、もちろんさ!
祝福してくれるだろう、ハイデマリー?」
嬉しそうに話すヴァルトラーナお兄様。
「え、えぇ……」
不満だが、ヴァルトラーナお兄様に嫌われたくないハイデマリーはなんとか返事を返した。
「ありがとう、ハイデマリー!
さすが私の可愛い妹だ。
私も大きくなった君の恋を応援するから、ハイデマリーも私達を祝福して欲しい。」
「……えぇ……」
ヴァルトラーナお兄様はハイデマリーがあまりの衝撃で呟いた言葉を了承だと捉えて、笑顔で微笑んでいる。
「あ、もう婚約の打ち合わせの時間だ!
ハイデマリー、悪いが私は行かせてもらうよ。」
ハイデマリーはただ颯爽と去っていくヴァルトラーナお兄様を見つめ続けた。
そして、ハイデマリーは思った。
ヴァルトラーナお兄様がわたくしを好いていないなんて嘘だわ。
きっと隣の国との関係を考えて、素直にお認めにならなれないだけなんだわ!
ヴァルトラーナお兄様が愛してるのは、このわたくし、ハイデマリーだけなんだから……!
その後、隣の国からヴァルトラーナお兄様の婚約者で、レティーツィアの母親が嫁いでくる間、ハイデマリーはヴァルトラーナお兄様に嫌われないように大人しく様子を伺っていた。
ヴァルトラーナお兄様と憎いレティーツィアの母親が愛し合う姿を見ても我慢していつか復習してやろうと思って息を潜めて日々を過ごした。
ただハイデマリーは自分とヴァルトラーナお兄様との愛が実るように、苦痛を我慢してじっと大人しく良い王族になりきって日々を過ごすことに決めたのだった。




