精霊の加護
レティーツィアの心の中が混乱の嵐でさらに吹き荒れていると、ハルトムートが急にレティーツィアをじぃーっと見つめ始めた。
(なに、なに? 私、今それどころじゃないのに、なんでそんなに見つめてくるの?!)
黄金竜ハルトムートに改めてまじまじと、じぃーっと見つめられて、またしてもレティーツィアは混乱した。
「む?
よく見れば其方、いつの間に精霊の加護を得たのだ?
其方の周りに大量の精霊が集まっているぞ?」
(ん? なんだって? 精霊の加護? ……まただ、さっぱりわからない。 ハルトムートから精霊魔法の話を最初にされたときと同じ感覚だ。)
「あの、精霊の加護ってなんなんですか?」
「む? 精霊の加護か?
精霊が好む人間のことだ。
精霊から精霊の加護を与えてもらえると何かと便利なのだが、精霊はプライドが高いし気難しいやつが多くてな、、。
精霊の加護を1つでも得るのは難しいはずなのだが、なぜ其方はそんなに大量の精霊の加護を得ているのだ…。
しかも、昨日其方と会ったときに精霊の加護を得ていなかったはずだが…。
むむ、、この精霊の大量の加護の数はどういうことだ……?」
ハルトムートは途中からブツブツと独り言のように考え出した。
レティーツィアは、考え込んでいるハルトムートをよそに気分が上がっていた。
(なんと! 私ってば、知らない間に精霊の加護を手に入れていたのか!)
精霊の加護なんて、名前からしてこれから教えてもらう精霊魔法と関わりが深そうだ。
(しかも大量の精霊に好まれるなんて! これから精霊魔法を使う上できっと精霊の加護は持っていた方が良いに違いない。)
「あの、精霊の加護って生まれつきの持っているものなのでしょうか?
もしかして、私がカシノニア王国の王位継承者として魔力属性も魔力量も多いことが関係しているのでしょうか?」
「む?
カシノニア王国の王位継承者なのか?
それならば、、もしや其方、守護の宝石を持っているのではないか?」
持っている。
(けど、カシノニア王国に守りの結界をはっている守護の宝石を持っているってわかったらハルトムートに悪用されないかな。)
ハルトムートを疑いたくないけど、カシノニアの悪夢を引き起こしたのも結局はこの守護の宝石を悪用されたからだから、注意深く慎重にならないといけない。
ハルトムートは私を助けてくれた。
きっと悪い人、、あ、いや悪い竜じゃないと思う。
「……あなたは守護の宝石を手に入れたいと望んでいるのですか?」
「いや? 必要ないぞ!
私は強い、守護の宝石など必要がないのだ!
………それに私は昔、大切な人との約束で守護の宝石に危害は加えないと約束したのだ…。」
どことなくハルトムートが寂しそうにしながら守護の宝石に危害を加えない、と話してくれた。
(嘘をついてるようには見えないよね…。)
レティーツィアは意を決してハルトムートに伝えることにした。
「私は守護の宝石を半分だけ持っています!」
「やはりか!
ねるほど、、おそらくだがそれで納得がいく!
私も其方と初めて会ったときに懐かしさを感じたのだが、守護の宝石で納得がいったぞ!
精霊達はおそらく守護の宝石で其方を好ましく思って、大量に精霊の加護を其方に与えたのだろう。
む? だがなぜ半分だけしか守護の宝石を持っていないのだ?」
「それは、カシノニア王国で昔に起こった悲劇、カシノニアの悪夢を防ぐためです!」
「む? カシノニアの悪夢だと?」
「はい、カシノニアの悪夢では守護の宝石が奪われて悲劇が起こりました。 それ以降、カシノニア王国では守護の宝石を2つに分けたのです。
もし1つがまたカシノニアの悪夢のように奪われたとしても、もう二度と同じような悲劇を起こさず、なんとかカシノニア王国を救えるように…。
現国王のヴァルトラーナお父様から、私が12歳になったのでカシノニア王国の伝統である次期王位継承者の女王レティーツィアの継承の儀式を行うと伝えられました。 生まれたときから私が次期王位継承者で将来女王になることはほぼ決定でした。 ですが、カシノニア王国の伝統では王位継承者が12歳になった場合に確定すると定められており、良い日にちを選んで継承の儀式を行う決まりがあるのです。
継承の儀式の前、私は12歳の誕生日にヴァルトラーナお父様からこっそりと呼び出されました。 そして直系王族の王位継承者が知るべき知識の最後の指導とこの半分の守護の宝石をいただいたのです。
ですが、私は継承の儀式の前日に叔母のハイデマリーに殺されかけました。
………幸運にも私はあなたと出会い、私だけはこうして助かっていますが…。」
レティーツィアはハルトムートに話している途中から失った家族と悪役令嬢ハイデマリーのしてきた悪行を思い出し辛くなった。
精霊魔法を使いこなせるようになって、悪役令嬢ハイデマリーに復習したい!と思っている。
だけど、レティーツィアは悪役令嬢ハイデマリーがしてきたことを思い出して辛くなってきた。
ハルトムートに話をして、今まで感じてきた悲しかったこと、辛かったことが溢れてきて感情のコントロールができなくなってきた。
レティーツィアはハルトムートに迷惑をかけないようにしなければと思った。
涙がすでに溢れてきそうになっている顔を見せないように俯いて、涙を止めようと黙り込んだ。
(!!!!!!!!?)
急にレティーツィアの身体はもふもふのものに包み込まれた。
このもふもふは昨日触ったことのあるハルトムートの魔性の毛並みだと、レティーツィアはすぐにわかった。
「其方のことは婚約者である、この黄金竜ハルトムートが守る!
もし其方に何かがあっても、この私が其方を支えて守り切ってやる!!
だから、其方が辛いときに私に隠す必要はない。」
「離してください」とレティーツィアはハルトムートに言おうと思っていたが、ハルトムートの言葉を聞いてレティーツィアは何も言えなくなった。
信じていた家族同然だった叔母の悪役令嬢ハイデマリーに裏切られ殺されそうになったレティーツィアは、今まで必死に頑張って隠して我慢していた涙が溢れて止まらなくなった。
「ううっ、うっ、うっ、うっ。」
「そうだ、泣け。
泣きたいときは、我慢せず私の腕の中で思う存分泣くがいい。」
レティーツィアはもふもふのハルトムートの腕の中で泣き続けた。
レティーツィアを抱きしめるハルトムートは優しげな表情で、レティーツィアを愛おしそうに見つめながら抱きしめ続けた。
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レティーツィアが俯いて黙り込んだとき、レティーツィアにはバレていませんがハルトムートは本当はわわわっと動揺して驚いています。そして、「私がレティーツィアを守らなければ…!」とハルトムートは不器用ながらレティーツィアを必死になってなぐさめました。
悪役令嬢ハイデマリーの名前は、バッチリとハルトムートの復讐の対象として覚えられました。