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第六話『タイム・イズ・マーシー』 2

「おはようございます、セツナさん」

「ああ……おはようございます」


 私は伸びをしながら毛布から抜け出した。窓の氷に乱反射した太陽の光が目に刺さる。

 いつもは私がトワを起こすのが普通なので、こうして彼女に起こされるのは新鮮な気分だった。


「ランタンは……大丈夫ですね。ありがとうございました、トワさん」

「構いません。今までは、……セツナに任せきりでしたから」


 呟いた少女の目には、今まで見たことのなかった類の決意が浮かんでいるように見えた。

 私は普段通りの朝が来たことに安堵し……しかしその目覚めの光景に、小さな違和感を覚えた。

 ほんの小さなその違和感は、その時は浮かぶと同時に消えて無くなってしまった。



「今回の依頼は、これで終わりなのでしょうか?」

「多分……大丈夫だと思います」


 二人で朝食を食べながら、私は頭を抱えた。


「いかんせん、依頼者が本人ではないので……確証は持てないんですよね」

「しかし、昨日見つけた『手紙』にも」

「それは、そうなんですけど……シュユさん自身が本当に欲していることは、どうすることなのか分からなくなって」


 普段は気にもならないような懸念に、思考が持って行かれてしまう。私はため息をつきながら、味の薄い乾パンを齧った。

 人の思い出が、良い物だけだとは限らない。楽しい記憶と同じくらいの思い出したくない記憶を、人は抱え込んで生きているのだ。自分自身も、そうだ。

 そう思ってからふと顔を上げると、トワは例の『記録ノート』を凄い速さで捲って何かを確認しているようだった。


「あの、トワさん?」

「……あなたは[水無月セツナ]ではないのですか」

「私が……?」

「私が記してきたあなたは、信念を簡単に曲げる人間では無かった筈です。そう書いてあります」


 少女は視線を上げ、こちらに向けた。

 青みがかった瞳に見つめられて、私は自分の心が彼女に全て見透かされているかのような錯覚に陥る。


「氷を砕いて、思い出の品を持ち主に渡す。それがあなたのしてきたことでしょう?」

「そう……ですね」


 思えば、始めたきっかけは殆どエゴでしかなかったのだ。“永遠”とそれを受け入れる人々に対する、子供じみた反抗心。

 それが、《箱舟》の人々との交流の中で、良くも悪くも変化していたのかもしれない。“思い”を受け取ってからどうするかには、一切関与しない……乱暴な言い方に聞こえるかもしれないが、そういう姿勢でやっていた筈だったのだ。

 純粋に、記してきた事実だけを元に語る少女の言葉に、私はそれを思い出した。


「そう、ですね。私はシュユさんにとって思い入れのあるものを届ける……それだけです」

「そうですか。セツナが自分でそう決めたのなら、それで良いです」

「はい。ありがとうございます、トワさん」


 そうして朝食を食べ終えた私たちは、火の不始末がないか確認し、今回の収穫を専用のバッグに詰め込む。今回の依頼に関する品だけは、傷がつきやすいということ、それからその価値を考慮して別の袋に入れた。私の中にあった迷いは、もはや無くなっていた。

 しかしそんな帰りの道中でも、私は朝感じた謎の違和感に悩まされることになったのだが……

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