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10 盗賊団壊滅

「あ゛? アルフォンスがやられただぁ?」


「はい。バルヒルドを監視していた部下からの報告ですので、間違いありません」


 バルヒルドから少し離れた森の中にある洞窟。その中にいる男が、捕まえて檻の中に閉じ込めてある若い少女を厭らしい眼で眺めている時に、部下の一人がそんな報告をしてきた。


 少女を物色していた男はレックス・マクアーデルといい、元冒険者で今は盗賊団の頭をしている。そしてアルフォンスとは、村に在住していた冒険者の名前である。レックスとアルフォンスは裏で繋がりがあり、村の周辺に生息していた大型魔物を倒して油断させるようにと、指示を出していた。


 それがびっくりするくらい上手く行き、簡単に村を襲撃することが出来た。しかも村の英雄にもなっていたアルフォンスが盗賊側に着き、村人たちには裏切ったかのように見えていた。あの時の表情は正に傑作だったと、今でも思う。


「アルフォンスがを倒したのは、今日バルヒルドに到着した二人の冒険者とのことです。一人は見たことのない武器を持った男ですが、実に奇妙な魔法を使うそうです。もう一人は見目麗しい、魔法使いの少女だそうです」


「女の特徴は?」


「遠くからだったので細かいのは分かりませんでしたが、白髪で左右色の違う瞳、そして中々いい体をしている美少女とのことです」


「ほぅ……」


 いい体をしている美少女であるという話を聞き、レックスは反応して興味を持つ。男の方は武器にはそこそこ興味はあるが、それは別にどうでもいい。一番興味があるのは、報告にあった少女のことだ。


 白髪も珍しいが、左右で色の違う目をしているというのはもっと珍しい。奴隷にして売り払ったら、かなり高い値が付くであろう。真っ先にそんな考えに至ったレックスは、すぐにでもその少女を捕まえてくるように指示を飛ばすと、若い少女たちが捕らえられている檻から離れて、近くにある豪華な装飾のあるソファに腰をドカッと下ろして、その少女を捉えた後のことを妄想して厭らしい笑みを浮かべる。


 指示を受けた部下はすぐに他の盗賊団の団員を集めて、また村を襲撃するということを伝える。たった一人の冒険者を攫うのに対して盗賊団全員となると過剰過ぎだと思うが、アルフォンスを下した冒険者がいるので、多いに越したことは無い。


「あーあ、折角楽しんでいたのに邪魔されたよ……」


 そんな中、一人の男だけそれ程やる気が無さそうだった。その男はバン・アルヤグトといい、盗賊団随一のドSである。


 招集が掛けられるまで彼は、十代半ばの若い少女に対して死なない程度の拷問を行っていた。しかもなまじ強力な回復魔法を持っているので、傷付いては回復させ傷付いては回復させをひたすら繰り返して恐怖を叩き込んでいた。


 彼は拷問している時に叫ばれる女性の悲鳴をこよなく愛し、ほぼ毎日拷問している。後々奴隷として売りさばく商品なので控えるようにと言われてはいるが、そんなのを聞くわけがない。傷付いても傷跡が残らないように回復させればいいだけだと考えているからだ。


 そして更に、頭の中は話の中にあった見目麗しい白髪の美少女のことでいっぱいになっていた。とっとと捕まえて、一日中拷問したいと考えている。


「それじゃあ今からその村に行って―――」


「話し合い中失礼するぞ」


 出発の指示を出そうとした時、場違いな声が間に割って入ってくる。集められた盗賊全員がそちらに顔を向けると、青いズボンに騎士が着るかのような少し派手な白いローブ、そして剣より細くそして反りのある見たことのない武器を携えた一人の黒髪黒目の少年と、その後ろに話にあった白髪オッドアイの少女がいた。


「ここが最近バルヒルドを襲撃しているっていう、盗賊団のアジトで間違いないんだよな?」


「それがどうした?」


「否定はしないとなると、当たりだな。俺はなるべく、人とは戦いたくはない。こっちからの要求は二つ。捕らえた女性を全員解放することと、解放後すぐにここから立ち去ることだ」


 黒髪黒目の少年は右手の人差し指と中指を立てて、そんな要求をしてくる。が、


「へっ! そんな要求、俺らが聞くと思うか!?」


 盗賊たちが一斉にそれぞれに武器を構えて、殺気を放つ。


「だよな。それじゃあ―――――――ここで消えろ」


 少年がそう呟くと同時に、その場から姿が消えた。直後、三人が地面に倒れ伏した。見ると、三人とも頭と心臓と喉を突かれて絶命している。


 ―――一瞬だった。姿が消えたと思った瞬間には、仲間が三人とも殺された。少年は手に持った謎の武器を振るい血を払い落とし、両手で柄を持って構える。


「五十嵐真鳴流、五十嵐悠一。一切の加減なく、全力で推して参る!」


 そう言って地面を強く蹴り、また姿が消えた。



 ♢



 バルヒルドの村長から聞いた情報通りの場所に行き、そこで戦闘が開始して僅か五分。数十は集まっていたであろう盗賊らは全て、切り伏せられ、貫かれ、焼け爛れて絶命していた。


 悠一はいくら盗賊でも何かしらの感情が出るのではないかと思ってはいたが、全くそうではなかった。むしろ、殺されそうになると命乞いを始める盗賊に対して激しい怒りしか湧いてこなかった。


 この盗賊らは殺されそうになっている人が必死で命乞いをしているのに、笑いながら殺していったのだろうと思うと、それしか湧いてこなかったのだ。故に一切の手心を加えず、無情に切り伏せ魔法で貫き、吹き飛ばしたのだ。


「ユウイチさん……」


「すまない、大分取り乱した。シルヴィアにはこれはきつかったかな?」


 悠一は刀に付いている血を振るって落とし、鞘に納める。辺りに広がるのは、もう動かなくなった盗賊たちの亡骸と、大量の血。むせかえるような臭いに、シルヴィアは吐き気を覚えて顔を歪める。


「だい、じょうぶです……。少しきついですけど、まだ……」


「そうか。けど、無理だと思ったらすぐに言ってくれ」


「分かりました」


 シルヴィアは地面に転がっている死体を踏まないように悠一の隣まで移動し、ローブの裾を摘んで離れないようにする。それを見た悠一は、気付かれない程度に小さく微笑んだ。


 盗賊の下っ端らしきものたちを片付けた後、二人は洞窟の奥に向かって歩き出す。盗賊のリーダーに逃げられないように、防音仕様の特殊な障壁を構築してあったので、戦闘の音は奥までは届いていないはずだ。


 現に奥の方からは、あの場にいなかったであろう盗賊たちの話声が聞こえてくる。そこに足を踏み入れると、暢気に酒を飲んでいたりカードゲームなどをしていた。中には嫌がる少女を拘束して、体を触っているのもいる。


「んあ? 誰だてめぇは?」


 悠一とシルヴィアに気付いた一人の盗賊が、のらりくらりと歩み寄ってくる。


「お? おほ~! お前、中々いい女を連れているじゃねぇか! どうだ? 金払うから、俺に―――」


「黙れ」


 右手に構築したガントレットを着けて鳩尾を殴り、すぐ隣の壁に叩き付ける。壁に叩き付けられた男はあっさりと気絶し、地面に倒れる。


 それを見ていた他の盗賊たちは、それぞれの武器を構えて取り囲もうとする。が、その前に武器が消滅した。


「なっ!?」


「俺の武器が!」


 武器が突然消滅して狼狽えている内に悠一は抜刀して、次々と盗賊たちを斬り付けていく。どれも手加減がされていない。魔法を放ってきたのもいたが、当たる前に分解魔法で分解して逆に魔法で吹き飛ばされる。


 拘束されていた少女の体を弄り回していた男は一度蹴り飛ばされてから、構築された水の檻の中に捕らえられ、内部で発生させた熱エネルギーで一気に熱せられることによって起こる水蒸気爆発で、跡形もなく消し飛ぶ。


 そこに矢が放たれてきたが全て刀で叩き落とし、地面から針状に伸ばした土で心臓と頭を穿つ。剣を振るって攻撃してくるも、付与されている属性を一瞬だけ開放して剣ごと両断する。その場にいた盗賊は数が少なく、ものの十数秒で殲滅される。


 刀を鞘に納めた後、悠一は拘束されている少女の下に行き、ナイフで縄を切って噛まされている猿轡を解く。それからボロボロになってしまっている服の代わりになる物を作り、それを手渡す。幸い怪我は負っていない。


「あ、あなたたちは……?」


「俺たちは攫われた人たちを助けに来た冒険者だ。安心してく、君はもう大丈夫だ」


 やっと解放されたということを理解した少女は、喜びのあまり大粒の涙を零し始める。一瞬どうすればいいのかと困惑したが、シルヴィアが優しく抱き締めてあげたので、そこは彼女に任せることにした。


 悠一は先に進もうと一歩踏み出そうとした時、奥の方からロングソードを持った一人の男が現れた。その男を見た時に、直感的に盗賊団のリーダーであると確信した。


「お前がここのリーダーだな?」


「あぁ、そうだ。それより、俺の部下が随分と世話になったみたいだな」


 ゆっくりとした足取りで、歩み寄ってくる。


「俺の名前はレックス・マクアーデルだ。お前は?」


「悠一だ。ユウイチ・イガラシ」


 互いに名乗り、悠一は抜刀して構える。レックスも途中で歩み寄るのを止め、剣をしっかりと握り直して刺すような殺気を放つ。その殺気の中でも悠一は顔色一つ変えず、一呼吸で間合いに入り込んだ。


 レックスはそれに合わせて剣を振り下ろすが、それよりも先に悠一が反応し横に跳ぶ。追い掛けるように剣が薙ぎ払われるが、悠一は上に跳び空中にいくつかの足場を作り出して、それを蹴って高速立体機動で翻弄する。


 だがレックスは動きを予測して、そこに剣を振るう。驚いた悠一は、しかし冷静に対処する。剣を刀で受け流してそのまま反撃をするが、切っ先が軽く服を着るだけで傷を与えることは出来なかった。レックスの反撃を構築した足場を蹴って躱し、すれ違いざまに刀で斬り付けるが、金属音によって防がれる。


「服の下に鎖帷子でも仕込んであるのか?」


「一応な! こんな軽装で、戦いに臨むバカはいねぇだろ!」


 レックスの剣には技などは無く、ただ力任せに振るっている。力は強く動きを予測するのは厄介だが、ちゃんとした剣を振るっていないが故に太刀筋が粗い。故に悠一にも躱しやすく、力任せ故に隙がそれなりに大きく反撃がしやすい。


 幾度となく剣を交えている中、先に悲鳴を上げたのは悠一の刀だった。刀は切れ味が高く攻撃力は高いが、少々脆いところがある。こうして何度も強く剣を合わせていると、刃毀れがしやすいのだ。


 それを好機と見たレックスは、大きく攻めに出た。技など無く、ただ力任せに剣を振るう。だが悠一は全て最小限の動きだけで躱し、刃毀れしてしまっている刀で左の小手先を狙う。レックスは左手を離してそれを躱すが、急に変わった刀の軌道を見て目を見開く。


 狙いが顔であると分かった途端に顔を逸らすが、僅かに間に合わず右目を斬られてしまう。


「ぐぁ……!」


 奔った痛みに顔を歪め、動きが一瞬鈍る。悠一はその隙を逃す訳がなく、刀に付与されている属性を再度開放し、剣を根元から斬り落とし鎖帷子ごと斬る。


 炎が纏わりついているので血は出なかったが、焼けるような臭いがその場に充満する。更に奔った激痛に顔を歪め、体勢が崩れる。


 悠一は左手をレックスの体に押し当てると、分解魔法を発動させて下にあるであろう鎖帷子を分解する。そして分解したそれを再構築して、即興ではあるがそれを利用して刀を修復する。


「これで攻撃するための武器と、身を防ぐ防具も無くなった。これで終わりチェックメイトだ」


 そう言うと刀を上に振り上げ、頭目掛けて振り下ろそうとする。が、刀が当たる前にレックスから魔力が放出され、無数の炎の弾丸が生成される。


 生成されたそれは、一斉に悠一目掛けて襲い掛かって行く。バックステップで躱し、刀で切り払い魔法で分解する。だがその炎の弾丸の雨は止むことは無い。このままでは埒が明かないので、地面の一部を分解して壁を再構築する。


 再構築した壁に炎の弾丸が当たって行き、数秒しか持たなかったがそれだけでも十分だ。素早さを活かして背後に回り込んだ悠一は、鋭い突きを放つ。ギリギリのところで反応するが、躱し切れず右腕を貫かれる。


 一度刀を引いて引き抜き、両腕両脚の健を断ち斬り動きを封じる。健を着られて立てなくなったレックスは、地面に平伏ひれふしてしまう。


「何故……!」


「だから言っただろ。終わりチェックメイトだって」


 レックスは悠一の言っていることの意味を理解することは出来なかったが、腕も足も動かすことの出来ない状況なので、自分が負けたということだけは理解出来た。自分よりも若く、まだ少年と呼ぶに相応しい者が、自分よりも圧倒的に強い。


 ずっと戦いに身を置いてきたはずなのに、その少年から放たれる殺気はまるで抜身の剣のようであり、その瞳の奥には獰猛な気配があり、見られているだけで体が動かなくなってしまう。


「お前はここの盗賊団のリーダーだ。ここで始末した方が後々面倒にはならずに済むが、念のため国に突き出すことにする」


 悠一は縄を構築し、それでレックスの体を縛って行く。それから引き車も作り出し、その中に放り込む。


 その後、レックスがやって来た奥の方に進んでいくと、大きな檻がありその中に十数人もの若い少女がいた。その全員が首輪を付けられており、目を虚ろにしていたり涙を流したりしていた。


 先程助けた少女によると首に着けられているのは【隷属化の首輪】という物で、それを着けられたら絶対に逆らえなくなるという物だ。一度命令したら強制力が働き、それに逆らおうとしたら凄まじい激痛が走るんだそうだ。


 それは外そうとしても同じように激痛が走り出してしまうので、持ち主以外では外すことが出来ない。しかも武器による破壊も魔法による破壊も不可能なのだ。何故なら、その首輪には外部からの攻撃を完全に遮断する魔法が組み込まれているからである。尤も、悠一にはそんな魔法は関係ないが。


 刀で檻を破壊して中に入ると、少女たちは目に見えて恐怖を顔に張り付ける。中には声を上げて泣き叫ぶ少女もいる。そのことに若干傷付きながらも、一番近くにいる少女に近付き、右手を首輪に伸ばす。


 そして魔力を流し込み、まず魔法を破壊する。それは上手く行き、続いて首輪を分解する。


「え……?」


 首にあったはずの冷たく硬い感触が消えたので、少女は困惑した表情を浮かべる。周囲にいる他の少女たちも、同じ表情をしている。


「俺は君たちを助けに来た冒険者だ。ここにいる盗賊たちは、全員制圧した。もう大丈夫だよ」


 悠一がそう言うと、まず首輪の外れた少女が大粒の涙を流し、そして声を上げて泣き始める。どうすればいいのか分からないので、そこはシルヴィアに任せることにする。


 シルヴィアに任せた後続けて他の首輪を全て外していき、数分後には全員が解放された。体には目立った外傷は無く、幸いかどうかは分からないが体を触られる程度しか手を出されていないらしい。どうやら盗賊に依頼した人物が、手を出さないように命令してあるらしい。


 朝から一人が盗賊団随一のドSに連れ去られて行ったという話を聞き、洞窟全体に魔力を流して大きな穴を開ける。そこから歩き回ってもう一人を探し出したが、その少女は全身がボロボロで生きてはいるが意識が無いという危険な状況だった。


 すぐに再構築魔法で傷を治し、雑貨屋で買い込んであった効果が高いポーションを流し込む。それから十数秒待ったら意識を取り戻したようで、助けられたことに安堵した。これで全員を救出し終えたのを確認して、悠一とシルヴィアは全員分の衣服を作ってそれを手渡した。


 着替えている間先に念のため気絶させておいたレックスの乗っている引き車を引いて行って、転がっている盗賊の死体を全て分解していった。流石にあんな惨劇を見せる訳にはいかないからだ。


 数分後に渡したい服に着替えた少女たちがやって来て、全員で村に戻って行く。洞窟は森の中にあるのでもちろんモンスターと遭遇するが、刀は使わず魔法で跡形もなく消し飛ばしていった。

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