11 新たな能力
「改めてお礼を申し上げさせていただきますぞ。我々の村の娘たちを救ってくださり、誠にありがとうございます」
盗賊団を壊滅させ攫われた少女たちを救出したその日の夜、バルヒルドの村では宴が催されていた。豪華な料理がたくさん並んでおり、そのどれもが頬が落ちそうなほど美味だった。
攫われた少女の親や恋人、婚約者からは物凄く感謝され、報酬を渡そうとしてきたが悠一とシルヴィアはそれを断った。二人はただ助けたいという思いが強く働き、盗賊団を壊滅させたのだ。報酬が欲しくてやった訳ではない。
しかし村人たちはせめて何かお礼がしたいと必死に食い下がり、結局しばらくはそれほど贅沢しない限り、そうそう無くなりそうにないほどのお金を受け取った。
「あの時盗賊団のアジトに乗り込むと言い出して、更にそれを潰すと言い出した時は驚きましたぞ」
「本当に潰して、その頭を連れてきた時はもっと驚きましたけど」
今現在盗賊団の頭のレックスは、即席で作った檻の中に身動きを封じされて、閉じ込められてる。魔法を使うことが出来るので、魔法を使われて逃げられたら堪ったものではないので村にある魔法を封じる魔導具を、身に着けられているが。
「もしかしてですけど、ユウイチさんとシルヴィアさんは凄腕の冒険者さんですか?」
悠一が席に着きその右側にシルヴィアが座ったそのすぐ後に左側に座った少女が、目を輝かせてそう訊いてくる。
「いや、俺は凄腕ではないよ。つい最近冒険者登録したばかりの人間だ。隣にいるシルヴィアもそうだよ」
そう言いながら冒険者カードを取り出して、Eランク冒険者であることを証明する。Eランクは中堅冒険者まであと一歩というところであり、強い人もいるが中にはそれ相応の実力しかない者もいる。
だが悠一とシルヴィアはEランク冒険者の域から既に逸脱しており、BランクかAランクの上級冒険者かと思われていた。なので、思っていたよりもランクが低いということに、その場にいる村人全員は驚愕の表情を浮かべた。
「あれだけの強さを持っているというのに、まだEランク冒険者だなんて……」
「信じられないですぅ……」
ざわざわとし出したその場を見て、悠一はやれやれと溜め息を吐いた。悠一本人も、確かにEランク冒険者の域から既に逸脱しているというのは、理解している。だがランクが冒険者の実力その物を示している訳ではないので、そのことは特に気にはしていなかった。
だが冒険者という存在から守られている立場の人々からすれば、それは少し変に思うところがあるのである。特に、その戦いを間近で見たものは、より変に思ってしまう。
「ところで、その不思議な形をした武器は何ですか?」
料理を楽しんでいると、一人の初老の男性が話し掛けて来た。
「これは俺のオリジナルの武器です。両刃のよりも片刃の方が扱いやすいので、自分の武器を作り上げたんです」
本当は前世からの知識を使って、丸々複製しただけなのだが、そのことは伏せておく。
「これほどの武器を、その若さで作り上げてしまうとは……。……冒険者を止めて、鍛冶屋になりませんか?」
「嫌です」
真顔で即答する。元より自分の前世の知識を曝け出すようなことはしなくないのだ。
「そうですか。まあ、確かに鍛冶屋にはあまり向いてい無さそうですね」
「俺は剣士ですからね。自分に合った武器を作るならまだしも、他人に会った武器を作るのは苦手なんです」
もちろん嘘八百だ。その気になれば、誰にでも合う武器を作り上げることは出来る。
だがそれはあくまで、誰かを守るために作り上げる武器だ。誰かを殺す為の武器にはなって欲しくないのだ。武器は自分の命を預ける者であると同時に、大切な存在を守る物にもなる。
悠一の剣は誰かを守るために磨かれてきたものなので、使う武器も必然的に守るための物になる。なので、その為に作った武器で、誰かが悲しい思いをしてほしくは無いのだ。
そんな会話をしてからしばらくして大分眠くなってきたのか、うつらうつらとシルヴィアが舟を漕ぎ始めたので、悠一とシルヴィアは先に部屋に戻ることにした。明日の予定を伝えてから二人は、それぞれの部屋に入る。残念ながら風呂は無いが、一応温かいお湯に浸した濡れたタオルがあるので、それで身体を拭いて最低限清潔にする。
それからローブとその下に着ているシャツとズボンを脱ぎ、寝間着に着替えてからベッドの上に横になる。それからステータスを確認してみようと、ステータスウィンドウを開く。
ユウイチ・イガラシ
LV 39
HP 470/470
MP 846/1020
EXP 7230
NEXT 624
ATK 278
DEF 230
AGI 396
INT 378
魔法:分解・再構築
スキル:魔力遠隔操作
人を倒すとモンスターを倒すよりも莫大な経験値が入るのを知っている為、あれだけの盗賊を倒したので今のレベルの高さにはさほど驚かなかった。それより注目したのは、新しく追加されている項目だ。どんなものなのだろうと気にはなったが、きっと言葉通り離れた場所に魔力を飛ばすことが出来るようになったのだろうと推測する。
試しに右手に魔力を集中させて壁に立て掛けてある、まだちゃんと修復をしていない刀に向かって、魔力が放たれるイメージをする。だが、特に何も起こらなかった。
ならばと思い、大気中にも魔力があると仮定して、それが刀に纏わり付くようにイメージする。すると、今度は成功したのか刀に仄かな青白い光が灯った。
「こいつはまた、反則的だな……」
しかし視認出来る場所であれば恐らくではあるが、操れるのであろう。そうなると、今まで直接魔力を流し込むという面倒な工程を飛ばして、離れた場所から魔法を発動させることが出来るようになる。
しかも今までは魔力を集中させてある程度離れた場所に物質を作り出すことは出来たが、それは短い距離限定だ。この魔力遠隔操作のスキルがあれば、もっと離れた場所からでも新しい物質を作り出すことが出来る。それはつまり、より敵の不意を突いて魔法を発動させることが出来るということだ。
折角なので、新たに手に入れたスキルという物を使い、刀を修復することにしてみる。イメージすればちゃんと魔法が発動し、刀が一度鉄と鋼に分解される。それからまた新品同然だった頃の刀をイメージして、再構築する。
少しだけ凝ったデザインにしてみようかと考えたりもしたが、ずっと使い続けて来たものの方がしっくりくると思ったので、そのままにすることにした。この魔法にもだいぶ慣れて来たので、ものの十数秒で元通りになった。もちろん、新品同然である。
本当にこの魔法は、止まることを知らないようだと悠一は苦笑した。
♢
翌朝、日が完全に登り切る前悠一は起き上がって身支度を済ませていた。それは隣の部屋にいるシルヴィアも同じことだ。
身支度を終え部屋の外に出ると、予想通り人はいない。なるべく足音を立てないように一階に降りて、待ち合わせ場所にしている中央広場に向かう。もちろん日が昇り切る前の早朝なので、人は誰もいない。
数分待っていると、いつも通りの白いローブに青のミニスカート、そして黒のニーソックスを履いたシルヴィアがやって来た。まだ少し眠そうな顔をしてはいるが、あとしばらくすれば大丈夫だ。彼女は朝の弱いにだ。
「おはようございます~……」
「おはようシルヴィア。さあ、早速出発するよ」
「本当にいいんですか~……?」
「あぁ。じゃないと、物凄くめんどくさいことになりそうだし」
悠一とシルヴィアがまだ誰も起きない時間に村を出ていこうとしている理由は、朝村の人たちが起きた後のことが容易に想像出来てしまうからだ。一泊だけするつもりであるということは既に知られているので、せめて村を出る前に礼を言おうとするだろう。
それは別にいいのだが、既に王都に連絡を取っており朝食を食べ始める時間には、王国軍の人々が村に着くとのことなのだ。既に前いた街で目立ってはいたが、それはあくまで期待の新人程度で済んでいた。
しかし盗賊団一つを壊滅させたとなると、話は別になってくる。別に国の軍に使えるつもりはないので、そんな面倒くさい状況になる前に、村からさっさと出ることにしたのだ。
「ふわぁ……。眠いですぅ……」
シルヴィアは眠そうに瞼の半分が閉じられており、少しだけふらふらしている。だがそんなに長くはいられないので、彼女の左手を握ってゆっくりと歩き始める。
シルヴィアの手はとても柔らかく暖かいので妙に意識してしまうが、なるべく気にしないように努力する。やがて村の大きな門を潜り、外に出る。周辺が森に囲まれているだけあって、早速森の中だ。
ただでさえ少し薄暗い時間帯なのに、高い木々の枝の葉で更に暗くなっている。視界はまだ確保出来ているが、それでも急な襲撃には少し対処しにくそうだ。松明でも作ろうかと思ったが、その灯りを狙ってモンスターに襲撃されたら堪ったものではないので、止めておくことにした。
森に入り込んでから十数分が経過したところで、大分目が覚めたのかシルヴィアは悠一に手を引かれずに一人で歩いている。少しだけ頬を赤く染めてはいるが。
「朝に弱いのは何とかした方がいいと思うぞ」
「こればかりは体質なので、どうしようもありませんよ……」
「普段から早く起きる習慣が付けば、多分大丈夫だとは思うんだけどな」
そう言いながら右側から襲撃してきたモンスターを、高速で鞘から抜いた刀で切り伏せる。思っている以上に速くなっていることに驚きつつも、満足げに頷く。
ちなみにシルヴィアも悠一のパーティーメンバーなので、悠一ほどではないがレベルが上がっていた。魔法使いなのでMPの上昇が一番著しく、中級魔法を十数回は連続して使用することが出来るほどになっていた。
またしばらく歩いていると、無駄に図体がデカいサルのようなモンスターと遭遇した。しかもばっちりと目が合っており、二人は同時にその場で停止する。特に悠一は、汚物を見るような目をしている。
遭遇したモンスターは全身が赤い毛で覆われており、身長は二メートルを超えている。そんなモンスターは、悠一の姿を視界に映した途端に息が荒くなり、体毛に隠れていた危険物を肥大化させた。このモンスターこそが、今現在悠一が一番会いたくないモンスター、エキセントリックエイプである。
「ウキッ♡」
エキセントリックエイプは早速悠一に向かって飛び掛かって行ったが、途中で姿そのものが消滅した。遠隔操作を利用して、離れた場所にいたエキセントリックエイプを分解したのだ。刀で倒してもいいのだが、恐ろしいことにドMという謎の特性もあるので、痛みを与える前に消滅させた方がいいと判断したのだ。
それ以前に、接近して戦いたくないという気持ちもある。朝早くからあんなモンスターと遭遇してしまったと、少しだけ気分を落ち込ませながら数歩進むと、ガサガサと草が揺れる音がした。刀の柄に手を掛けて構えると、五体のエキセントリックエイプが現れた。
途端に悠一は真顔になり、自然体になる。その後ろで、シルヴィアは、顔を赤くしてなるべく見ないようにしていた。何故なら、既にその五体は股間の危険物を肥大化させていたからだ。
「もうヤダこいつら……」
悠一はぼそっと小さな声でそう呟き、周囲に水素と酸素を発生させてそれを自身の魔力で圧縮し、結合させて水素爆発を引き起こす。その直後に分厚い壁を構築し、身を守る。
爆発が収まったのを確認すると、壁を分解する。そこにあったのは、守られている箇所だけ不自然に自然が残り、そうでないところは綺麗に跡形もなく消し飛んでいる景色であった。それを見た悠一は、無意味な自然破壊をしてしまったと、深く反省した。




