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3章ー1:サービス終了の日

 正直、1日2時間ログインしばりがなかったらどうなっていたか分からない。

 十中八九、仕事もやめて廃人になっていた自信しかない。


 それくらい「マギアムジカ・オフライン」にのめりこんでから早1年──


 βテストも今日で終わり。


 ついに来たるべきときが来てしまった。

 一週間ほど前からやたら増えていたため息がさらに増えて、自分でもどうしようもない。


 あんまりにも俺の仕事が激務すぎて、同じアパートに住んでいながらほぼ接点もなくなっている家族にすらなんだか様子がおかしいって感づかれているっぽいし……。

 

 例によって徹夜仕事で朝方帰宅してみれば、俺の大好物の目玉焼きのせミートパスタがラップをかけて置かれていたり。

 

 普段、ツンツンかつ無視がデフォルトの妹からも珍しく上から目線なおねがいならぬ命令メッセージが届いていたり。


 ってか、入手困難なコンビニ限定スイーツを買ってこいとか……相変わらず絡み方がいちいち捻くれている。


 それにしても、いい大人になってからもゲームで家族に心配かけるとか……いろんな意味で終わってるだろうとは思うけど、自分ではどうしようもできない。


 思った以上の喪失感に驚くやらへこむやら。


 ちなみに、別に「マギアムジカ・オフライン」ロスのせいじゃないが、罰金および部長からの罵声を浴びせられること覚悟の上で今日は会社を休んだ。仮病を使ったわけじゃない。つか、そもそも仮病を使えるような会社じゃない……。


 今までの無理がたたったのかなんなのか、いきなり高熱が出て久々に病院を受診したら、インフルエンザにかかってしまったっていう。


 これじゃさすがのブラック企業も休みを認めざるを得ない。


 もちろん仮病じゃないか?って、当然のように疑われて医師の証明書をきちんとスキャナして送らされたけど……。


 社員を信用する気ゼロ。心配とかするはずもなく──仕事が遅れる心配だけはすげーしてたけど……。


 いやー、元々期待はしていなかったが、もはやここまでくれば逆に清々しい。

 もう乾いた笑いしか出てこない。


 とりあえずtwitterの裏アカでガッツリ愚痴っておいた。「いいね!」がついて「全然よくねーっ!」って毒づくまでがワンセットだ……。


「しかし、インフルエンザとか。よりによってこんなときに……」


 いや、こんなときだからこそかえってよかったのかもしれない。


 最後くらいあいつらと心置きなくゆっくり過ごせたら──

 なんて思うのは、きっと40度近くある高熱のせいだろう。


 さっきからスマホが振動しまくっていて、あいつらがチャットで盛り上がっている様子が伝わってくる。


 だけど、俺はそのチャットに混じるのは躊躇われてスマホを見れずにいる。


 大抵何を話しているかは想像がつく。

 きっとβサービス終了についてあれこれ話しているんだろう。


 チャットに加わりたくないと思うのは、もうゲームが終わってしまうという現実を直視したくないからだろうか?


 「マギアムジカ・オフライン」のβサービスが終わるっていうことは、あいつらとつるむのも今日で終わりってこと。


 仕事の激修羅場中にボス討伐のヘルプ要請とかもなくなるわけで──ただでさえ貴重な睡眠時間を魂ごと削られることもなくなる。


 肩の荷が下りて、ホッとすべきところだと思うのに──これまでになく憂鬱になっている自分が面倒くさい。


「……これこそ腐れ縁……ってやつか」


 「腐った縁」とはよく言ったものだなあと思いながら、さすがにいつまでも現実から目を背けてはいられない。


 時計をちらりと見る。

 みんなと約束した「打ち上げ」の時間までいよいよあと30分をきってしまった。


 のろのろとウェアラブルモニターを装着して、スマホのキーを解除後、ゲームアプリを立ち上げる。チャットのほうは敢えてチェックせずに置く。


 こんなにも気が重いログインは初めてだ。


 だが、「打ち上げ」会場は俺の家だし、それなりに部屋を片付けたり、準備をしておかないと──そう自分に言い聞かせてログインを完了する。


 ちなみに、「打ち上げやろう!」って言いだしたのは、いつものようにサンギータ。

 なのに、その場所は、俺の家っていうのもいつものこと……。

 

 「マギアムジカ・オフライン」では、リアル同様、住居を持つこともできる。

 賃貸で毎月家賃を納めるタイプと、一括かローンを組んで購入できるタイプ。

 

 ローンって……ほんとこういう細かいトコまでリアルなんだよな……利率もリアルと同じっていう。

 ちなみにもちろん俺は前者だ。 


 でも、せっかくだし住む場所にはこだわりたかったからそれなりに高い家賃を支払って、でっかい港町、シーヴルの一等地にバルコニーつきの邸宅を借りている。


 ゲーム内の通貨、MGCマギアコインで月200kかかる。


 MGCと円は、同レートとされているので分かりやすい。


 リアルで言えば月20万の家賃。母親と妹と自分の3人で住んでいるリアルボロアパートの2倍以上っていう……。


 広さも余裕の200平米超の4LDK.

 内装も中世の城っぽい感じっぽい贅沢な造りにしている。

 タペストリーがかけられた暖炉やシャンデリア。家具もアンティークっぽいものを中心に少しずつそろえてきた。

 自分で言うのもなんだがかなりこだわっている。

 

 なのに……立地がいいことに加えて居心地がいいだのなんだのという理由をつけまくって、あいつらが居つくようになるまでにそう時間はかからなかった。


 気が付けば、かってに「アジト」呼ばわりされてたまり場にされていたっていう。


 それどころか、他の空き部屋を私物化して……ほぼルームシェア状態に。

 もっとも、シェアされているのは空き部屋だけで家賃はシェアされていないっていうオチまでもれなくついてくる……。


 こだわりのインテリアで統一した居間にも、いつの間にかサンギータがハマっているっぽいキモキャラのフィギュアがずらりと並べられたり、ハルルの好みだろう無駄にゴシックっぽいカーテンに取り換えられていたり……ヒロのトレーニング器具が勝手に持ち込まれていたりして邪魔なことこの上ない。


 つくづくやられたい放題の自分に呆れる。


「……あいつら、ほんとにやりたい放題だったよな」


 一人ごちた言葉が過去形だと気が付くや否や、冷や水を浴びせられたかのような気がして固まる。


 じきに「マギアムジカ・オフライン」漬けな日々は終わってしまう。

 あと2時間程度で──


 終わりの時がじりじりと差し迫っていることをどうしても意識せずにはいられない。

 どれだけこのまま続いてほしいと願っても、すべては運営次第。


 ちなみに本サービスの案内はいまだにない。


 通常、MMOのβテストっていうのは本サービス前の試運転みたいなもので、期間が過ぎればそのまま本サービスに移行するもの。


 サービス終了の当日になっても本サービスへの移行に関する案内がないなんてありえない。


 きっと運営には怒涛の問い合わせが押し寄せているに違いない。

 かくいう自分もその一人だったり。


 でも、返信は通常問い合わせの際に送られる自動返信のテンプレのみ。


 何度も確認したが、運営のホームページのトップにも、今日でβサービスが終了するとしか書かれていなかった。


 さぞかし2chのスレも荒れているだろう。

 怖いものみたさでのぞいてみたい気もするが、さすがにインフルと鬱のダブルパンチにその気力までは残っていない。


「……明日からどうするかなー」


 またあのクソ会社と自宅とを往復するだけの生活に戻るのかと思うだけで、さらに鬱になる。


 サービスの終了予定時刻は0時。日付が変わる瞬間。


 アジト(仮)でその瞬間を一緒に迎えるための「打ち上げ」。

 めいめいリアルでもツマミやジュースや酒を準備して、盛り上がろうって話になっている。

 

 あまりアルコールは強いほうじゃないが、今日は珍しく飲みたい気分だ。


 できるだけ考えまいとしていたきたけれど──

 ゲームが終われば、もうあいつらとは会えなくなる。


 アリアとも会えなくなってしまう。


 卒業式のときとよく似た感傷が溢れ出てきそうになって、慌てて頭を左右に振る。


 その次の瞬間、ログインが完了して、たちまちボロアパートの一室が、こだわりの邸宅の一室へと変化していった。

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