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カリナ、移送される ―ジャミーユ・カラユズと言う男―

 それからカリナは馬のない馬車のようなものに乗せられた。車両の後部が左右に開いて乗り込まされる際にレオンの部下と思わしき男が話しかけてきた。


「カリナちゃん、だったか?」


 笑うと、浅黒い頬にえくぼが浮かぶ。陽焼けか地肌か判別のつかないその肌に、東と西の血が同居していた。

 上下分けのパイロットスーツに革製ブーツ、襟元にはヘッドセットが引っ掛けてある。人懐っこい笑顔が印象的だった。

 漆黒の巻き毛を手ぐしでかき上げながら、彼は気軽に手を振ってきた。異国の風をまとうような男だったが、笑顔は妙に親しみやすい。


「あ――は、はい――」

「俺、レオン隊長の部隊の隊員でジャミール・カラユズっていうんだ。ジェイって呼んでくれ。あんたの面倒を見ろって言われた」

「よ、よろしく。カリナです」

「俺があんたを近くの大きい街まで送る。その後は上の連中の判断を待つ事になるが、悪く思わないでくれ、俺たちにはあんたの処遇を決定する権限がない。ただ敵意がないのはわかってるからいずれ所持品も返されるはずだ」

「――わかりました」


 無意味な抵抗をしなかったカリナを彼は好意的に見ていた。不安げな心情を隠しきれていないカリナに彼は慰める。


「俺からアドバイスだ。もしこの世界で生きていこうとするなら〝戦う意思〟を見せることだ」

「戦う? 誰と?」


 不安をにじませて訝しんで問いかければ彼はすまなそうに答えた。


「いやでもそのうちに解るさ」


 扉が閉められカリナは諦めて中の座席に座った。それから長い時間をその中で過ごすハメとなった。食料は見たこともないブロック固形物が差し入れられた。


「パンと言うより、ラスクに近いかしら?」


 一口かじってみる。


「味は悪くないけど――」


 水がないと食えた代物ではない。口の中の水分が全部持ってかれる。なので、飲料水も提供されたのはありがたかった。ただ、唯一困ったのがトイレだ。


「どうしよう?」


 困っていると屋根からジェイの声が聞こえる。


『トレイは奥の簡易トイレを使ってくれ』

「中が見えてるのですか?」

『見えてない、音は聞こえる』

「え?」

『悪いが規定なんだ。ホントなら監視カメラも回すんだが隊長が「女の子だからカメラは切っておけ」ってさ』


 カリナは我慢できずに顔を真っ赤にして隅っこにしゃがんだ。かすかに水音が流れる。するとジェイが――


『終わった?』

「ばかぁ!」


 彼にはデリカシーが無いのだった。


『悪い、気を悪くしたら勘弁してくれ』


 スピーカーの向こうから軽い口調でお詫びの声が聞こえてくる。その口調のあまりの軽さにカリナも怒る気すらなくしてしまう。


「別にいいんですけど」


 少しへそを曲げたカリナだったが、ジェイの軽妙な語り口は心の壁を簡単に乗り越えてくる。


『戦場で長くいるとプライバシーとか恥ずかしいとかそういうのどっかに行っちまうんだよな』


 お詫びとも言い訳ともつかない言葉にカリナは思わず笑ってしまう。


「それ分かります、戦場で泥にまみれて何日も行軍を続けていると着替えとかトイレとか男の人と一緒でも気にならなくなっちゃうんですよね」

『だろ? 戦場のキャンプ地で1ヶ月ぶりにシャワー設備が用意されて、そうなると順番待ちは男女関係ない。男も女もまぜこぜで裸になってお湯を浴びてたからな』

「戦場でお風呂に入れるんですか?」

『あぁ、一応こっちの方にはそういう設備もあるからな』

「それはちょっと羨ましいかも。私の世界では数ヶ月の行軍でまともな水場がなかなか見つからなくて、水源も飲料水が優先だから、任務が終わったら垢だらけなんてこともありました」

『それは――、さすがに同情するなぁ。匂いとか、すごいことになってないか?』

「そうなんですよ、お湯を浴びても一週間は臭いが取れませんでしたから」

『まぁ、そこは生き残れただけでも儲けものだな』

「儲けもの……なのかな」

『そういう事にしとけ』


 ジェイの語り口にカリナは思わず笑みが漏れた


「でもどこの世界も同じですよね、特に戦場の末端の兵士の境遇って」

『そこは否定しないよ。割を食わされるのはいつでも下の方だからな』

「上が無能だと、下が死にますからね」

『そういうのは絶対ないと思いたいが、悲しいけど多いんだよな』

「大丈夫です。私はそういうの叩き潰してきましたから」

『マジかよ』


 そんな風に会話を重ねるとお互いの警戒心は自然にほぐれてくる。カリナはさらに尋ねた


「ジェイさんは戦歴は長いんですか?」

『俺か? 14の時に志願して、訓練は1年間、そこから10年間あちこち転戦した』

「10年――、ベテランですね」

『そうでもないさ。未だにヒラ止まりだしな。そういう君は?』

「私ですか?」


 カリナは過去を思い出しながら訥々と語る


「強制徴兵されたのが6歳です」

『はぁ?』


 いきなりに衝撃的な数字にジェイは驚いた


「6歳? 嘘だろ?」

『いいえ、本当です。私の持っていた聖剣との相性の問題で適合したと判断されてしまったんです』

「武器との相性? 武器の性能を発揮するのに個別の適正が重視されるってわけか」

『そうです。当時、聖剣に適性のある子供を無理やりさらっていた軍事国家があったんです。そこに捕まってしまって……』

「そこから無理やり……か」

『はい。3年間は強制訓練所でしごかれました。9歳で戦場に連れてこられて1年間戦場を引きずり回された、でも10歳で救い出されて、初めてまともな待遇を受けて、そこから16歳の時まで戦って戦争ようやく終わらせたんです』

「足掛け10年か」

「短いようで長いですよね10年って」

『そうだな。でも無事に平和は取り戻したんだろ?』

「ええ――。でも何の因果かまた戦争だらけの世界に連れてこられましたけど」

『そこはさすがに同情するかな――』


 2人はそんな風に何気ない会話を続けていたが、ジェイの口調が急に冷静になった。


『カリナ、1つ言っておく』

「はい」

『君は、俺たちと接触した際に変に反発したりしなかった。処遇に対しても従順だった。敵対的と判断はされなかったから比較的早く処分は決まるだろう。それまでの辛抱だ』


 それがカリナに希望を持たせるために発せられた言葉だというのはカリナ自身にもよくわかった。


「ありがとうございます」

『とりあえずもう少し走ったら安全な場所を見つけて野営する。朝までゆっくり眠っててくれ』

「うまく寝ればいいんですけど」

『そこ、シートが硬いからな』


 軽妙な言葉にカリナは思わず笑った。これから先の不安が少しだけ和らいだ気がしたのだった。


新話をお読みいただき、ありがとうございます。

引き続き『聖剣機兵カリナ』をよろしくお願いいたします。

30分後に次話公開です

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