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巨人の兵団 ―傭兵独立部隊サイファーブレイクス―

 だが――

 

「あれ? なんか大きさが変だわ? 巨人?」


 今、カリナの目の前に現れたのは5つの人形のシルエットだ。それもまるでまるで魔導で作られた巨大ゴーレムか巨人の如きだ。それも5体。


「まさか? これも敵?」


 背後から追ってくる鋼の獣の同類だとしたら? その時は挟み撃ちになる。人形のシルエットが更に近づけば、2足歩行の巨大な鋼のゴーレムの如しだ。それが5体横列になり、陣形を組んで迫ってくる。それは巨大なだけでなくまるで統率の取れた兵士のごとくだ。中央の1体が隊長格で、左右に並ぶ4体が隊員だろう。そして、その手には小銃のようなものが携えられている。

 

「武器を使う? 鋼の巨人が?」


 夕暮れ時の茜色の光の中、夕日の逆光を浴びていて正体は全く見えなかった。だが、5つの影は一斉にその巨大な小銃を一列に構えた。まさに軍隊の砲列陣形のごとくに――

 

「まさか!」


 そこでカリナはとっさに脇に逃れた。攻撃の射線上で巻き添えを回避しようとしたのだ。急ぎ、物陰に駆け込めば、その背後を5条の黄金色の光が矢の如くに空を切り裂き攻撃を仕掛ける。

 

――ヴュォオオオオッ!――


 空間を震わせる振動を伴いながら、その光は確実に敵を破壊した。カリナを襲ったあの1つ目の鋼の獣をである。

 

――ドォオオオオンッ!――


 その直後に爆発と爆風が起きる。敵は確実に仕留められたようだ。

 

「爆発? 獣が? どういう事? それより――」


 生身の生き物が敵の攻撃で爆発するということがあり得るだろうか? そんな事を疑問に思いつつもカリナは意識を切り替えた。敵か、味方か――、

 

「果たしてどちらかしら」


 驚きと恐れを感じずには居られないが、それでもカリナはそれを飲み込んだ。敵か、味方か、それすらも判別できない状況下ではいたずらに敵意を示すのは命取りだからだ。不用意に怯えず、武器を抜かず、悠然として構えて相手の出方を待つ。


「落ち着いて、敵意を見せてはダメ」

『そうです。まずは人間か魔族か、そこから判断しましょう』

「えぇ」


 この極限の状況においてもエリュシオは優秀な従者だった。的確にカリナの心を支えていた。

 今、カリナに迫ってきたのは黒灰色に鈍く輝かく機体の人型の巨人だ。手足と頭が揃っていて、人間の背丈の5~6人分はあるだろう。その胸部全面の各部にランプのような装備があり、それがカリナを照らしていた。


「まるで、人間の兵士のような統率」


 隊列を組み、右手にはフリントライフルを巨大化させたような巨砲が携えられている。まるで、そのまま装衣戦士を巨大化したかのようだ。カリナは意を決して自ら彼らに近づこうとする。


「あの――」


 だが、5体のうちの中央の1体がカリナに警告した。


『止まれ』


 人間の肉声、それを巨大なホーンを通して拡大したかの様に大きく響く。素直に従いカリナは足を止める。


『現在ここは戦闘作戦地域だ。一般人は退去が命じられている。身元確認をする。姓名・所属・IDを示せ。提示できるものがない場合、口頭で答えろ。武器所持が確認されるので反応次第では拘束する』


 命令と同時に巨体が抱えた砲口がカリナに向けられている。発言や行動から推察するにこの地を警護する軍事関係の者たちだろう。そしてそれはこの巨大な人型の中に隠れているのだ。カリナにとっては理解を超えた状況だ。だが、彼女とて勇者とまで称された人物だ。理解を超える事態にどう接すればいいかは分かっていた。


「私は――姓名、カリナ・ウィングス、所属、ルミナリア国魔法剣士騎士団栄誉団長、魔法剣士です」


 凛とした声で堂々とカリナは答えた。だが、答えられないものもある。


「こちらからも聞かせてください〝ID〟とは何ですか?」


 知らないものは答えられない。当然の道理だ。

 カリナからの問いかけに5体の人型は沈黙した。その内部で何が行われているのか知る術もない。

 だが、中央の1体は右手の巨砲の砲口をカリナから反らしながら数歩進み出る。そして、その胸部が上へと開いた。まるで棺桶が開くように。


――プシュッ、シューン――


 空気が漏れる音がする。中から現れたのは――


「どうやら、仮装パーティの参加者でも、ショーパブのダンサーでも無いようだな」


 濃緑色のズボンにシャツ、ポケットが無数に付いたベスト、さらには装飾のない丸い兜をつけている。その他にも色々と身に付けているがカリナには理解不能だ。


「この世界での個人の存在証明を知らないとなると行動の自由を認めるわけにはいかねえな」


 カリナを照らす明かりの中、逆光となっているため分かりづらかったが、髪は金色で短く刈り込んでいる。一見するとカリナと同じ人間種族だ。彼はカリナを見下ろしながら自らを名乗った。


「俺は傭兵独立部隊サイファーブレイクス隊長、レオン・ストライクだ。IDとはこの世界における最も重要な個人証明だ。人間なら誰もが持っている」

「人間なら?」

「そうだ、その意味がわかるな?」

「はい、それを持たない場合、人間として市民として公権が認められないということですね?」


 つまり、人間で無いモノにはIDは存在しないのだと知った。レオンは右腰から黒光りする鉄の塊を取り出しカリナに突きつけた。それは片手用の短銃に見えた。同時に他の巨大人型の中からレオンの仲間と思しき男たちが現れ、地上に降りると、カリナに駆け寄ってくる。


「かなり、しっかりとした教育を受けているようだな。だが個人としての証明ができないなら、お前を拘束し然るべきところに引き渡す。抵抗すれば射殺する」


 一切の温情の無い声だった。カリナは一言だけ問い返した。


「なぜそうなるのですか?!」


 わずかに不満を浮かべたカリナにレオンは憮然として答えた。


「人間でないモノを認めるほどこの世界に余裕は無い」


 カリナは身柄を拘束された。腰に下げていた愛剣のレギオンブレイドは没収される。


「エリュシオ!?」


 うろたえることは極力こらえていたカリナだったが、レギオンブレイドを取り上げられエリュシオと引き離される時だけは、心根の中の寂しさ不安を抑えきれなかった。


『カリナ様、しばしの辛抱です』


 そう言葉を残してレギオンブレイドは男たちに預かられてしまった。

 一方でレオンはこの世界の情報は何も示してくれなかった。規則と規律に縛られた冷徹さが垣間見えるだけだ。カリナは思わずつぶやいた。


「――これが鋼の世界」


 その言葉を胸の奥に飲み込んで毅然としてレオンに向かい合う。一つだけ理解できた事がある。


「ここは〝戦時下〟の世界なのですね?」


 その言葉にレオンは答えてくれなかった。ただ、カリナのその冷静な言葉に、レオンがかすかに驚いたように見えたのだった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本日分の更新はここまでとなります。

第1章に入り、カリナの新たな物語が少しずつ動き出しました。


明日以降も更新を続けていきます。

ブックマーク・フォロー・評価などで応援いただけると、とても励みになります。


引き続き『聖剣機兵カリナ』をよろしくお願いいたします。


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