表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
64/94

Wall Of Commandment ―カリナ、壁の向こうへ―

 トレーラートラックの車内、カリナはマイクに声をかけた。聞いてみたいことがあったのだ。


「ねぇ、マイク君」

「なに?」

「この仕事親父さんから引き継いだんですって?」

「うん、6歳からずっと手伝ってたから。8歳から親父に運転を教えてもらって11の頃には1人で仕事を任されてた。仕事のいろはは親父に叩き込まれたよ」

「へぇ、いいお父さんだったんですね」

「教え方は荒っぽかったけどね。ミスするとすぐゲンコツが飛んだし」


 マイクは屈託なく笑った。


「でも、親父にはかなわない。親父の最後の仕事の時、本当にそう思った」


 カリナはあえて尋ねた。


「なぜ?」

「戒厳令が出た状態での城外都市への緊急物資搬送。誰もが断る中で親父は2つ返事で引き受けた。『飢えてる奴にしっかり食わせてやるのが運び屋の仕事だ』って言ってね。それが親父の姿を見た最後だった」


 そう語るマイクは真剣だった。


「3日後、回収されたトラックと一緒に親父は傷跡だらけの亡骸になって帰ってきた。その時前線で戦っていた傭兵が教えてくれた。『親父さんの運んだ食い物が、城外都市で籠城する市民と傭兵たちを助けたんだ』って」


 思い出を口にするマイクにカリナは問う。


「マイク君、お父さんの事、今でも好き?」

「もちろんさ。俺はああいう人になりたい。だからこの仕事をやってるんだ」


 そう語るマイクは自信に満ちた表情をしていた。

 そうしている間にも防衛都市の外殻を成す巨大な〝壁〟はカリナの目の前にそびえ建ち迫ってきた。


「で、デカい――」

「防衛都市の一番外を守るように建っている壁だよ。高さは約70m地下の基礎構造体は深度30mまで食い込んでる。厚さは最大で30m、一番薄いところでも12mある。核兵器の直撃食らっても壊れないよ」


 高いだけでない、大きいだけでない。天を衝くようにそびえているそれは世界を分断する【戒め】そのものだった。近づくに連れて独特の風の渦巻きが生じているのが解るほどだ。


「都市外殻絶対防壁が正式名称で、軍事作戦上の略称コードは〝W.O.C.〟っていうんだ」

「WOC?」

Wall Of(戒めの) |Commandment《壁》の意味さ。壁の外は人間がボロ負けした忌まわしい記憶その物だからね。絶対に負けない、負けることは許されない。ここからは下がる事は許されない。そう戒める壁だからさ」

「戒めの壁――」


 壁の周囲は独特の冷気が漂っている。太陽の光を遮ってしまうため、日照が足りないからだ。

 その巨大な威容を眺めながらも、トラックは巨大防壁のゲートを通過する。ゲートの周囲には多種多様な形状のヴァンガードが待機していた。

 係員のチェックを受けてゲートを通過して外に出る。意外とあっさりと通過できたことにカリナは驚いた。


「簡単に通過できるんですね」

「うん、軍事作戦の関係者ならね。でも、一般人は特別な許可がないと無理」


 そこから緑と荒れ地がまだらに広がる世界をひたすら走る。防衛都市から離れれば離れるほど人間の生息している気配は薄れ荒れ果てた戦場に変わっていく。その光景にカリナが抱いた感情はひとつだ。


「懐かしい」

「え?」

「本当は秘密なんだけど、私、この世界の人間じゃないの」

「どういうこと?」

「実は別の世界から飛ばされてきた人間、ルーカスさん達に保護されたのよ」

「じゃ、向こうでは何をしていたの?」


 その問いかけに迷うことなく答えた。


「人間の世界を救う勇者」

「え、勇者ってマジ? 本当に」


 さすがにマイクもなんかの冗談だと思ったのだろう。だがカリナは続けた。


「6歳の頃に軍隊に拉致されて、ずっと戦場に関わってきたの。聖剣の担い手として鍛えられて、各地を転戦してきた。こう言う戦場はイヤというほど見てきたわ」


 その時、マイクは呟いた。


「6歳か――、俺もこの仕事に関わったのはそのころだけど、カリナ姉ちゃんと一緒だとは言えないかな」


 マイクは謙遜する。だが、カリナはその謙遜を否定した。

 

「でも、戦場に関わって生きて、生き残るだけでも立派だと思うわ」

「そう? なんか照れるな」


 そう答えてマイクは笑った。その笑顔がカリナには微笑ましいと思うのだった。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ