少年兵マイク ―カリナ、戦場のある大地へ―
「私も手伝います」
「そうかい? それじゃ食器を並べとくれ」
「はい!」
食事の用意ということでカリナも自ら手伝いを申し出た。カリナとエレナ、2人並ぶとまるで本当の家族のように雰囲気はしっくりしていた。ジェイもルーカスも交えての4人での昼食が始まった。
パンが焼かれ、出来合いのパックトレーの肉料理やサラダが並ぶ。スープももちろんつく。それをカリナとエレナがジェイたちに渡す。
「どうぞ」
「おぅ。サンキュ」
「ルーカスさんも」
「ありがとう」
何気なく食事を始めながら、4人は話し合う。
「カリナ、時間が惜しいから明日から早速、ヴァンガードのレクチャーを始める」とジェイ、
「はい」
するとルーカスは冷静に問うた。
「できるのか? 彼女に?」
「できないとは言わせない。この世界で生きていくにはヴァンガードは必須なんだ。別世界とは言え、戦争経験者ならなおさらだ」
ジェイの掛け値なしのその言葉にカリナはぐっと手を握りしめた。
「はい、覚悟できています」
だが、ルーカスは言う。
「酷なことを言うが、時間的余裕はない。適性がないとわかれば上層部の対応が代わることも有り得る」
トーストを食べ終えて、ルーカスは立ち上がって言った。
「ここが勝負どころだ。自分の存在価値と示せるか? それが君に求められているんだ」
その言葉は辛辣だったが、かつて訓練所でカリナを叱咤した教官のように信頼も感じられた。
「やります、だって――戦争では人が死ぬという現実を嫌と言うほど知っているから。目を逸らして生きるのは嫌なんです」
「カリナ――」
彼女の覚悟をジェイは受け止めていた。そして無論、ルーカスも。
「エージェントとして時々キミを見に来る。成長を期待している」
「はい」
そして、ジェイにも告げた。
「彼女を頼んだぞ」
「おう」
ルーカスはジェイの肩を叩きながら、エレナのガレージをあとにしたのだった。
§
その日の昼過ぎ、ふらりと現れた人物が居た。店の前に大型のトレーラーが停車する。その迫力にカリナは圧倒される。
「すごい――なにこれ?」
「輸送用トレーラーだ。物資の輸送やヴァンガードの搬送に使うんだ」とジェイ、
トレーラーの運転席のドアが開くが中から下りてきたのは14歳くらいの少年だった。
「こんちわー、エレナ婆ちゃん居るー?」
カーゴパンツにTシャツに革ジャン、頭には布の帽子、それに革靴といかにも現場なれした雰囲気があった。カリナは眼の前の少年が、素人でないと即座に理解した。
「エレナさんは奥に居るよ。呼んでくるかい?」
「うん、頼まれたパーツ持ってきたんだ」
「判った」
ジェイが歩いていき、あとにはカリナと少年が残される。
「初めて見る顔だね。俺マイク」
物怖じしない素直な少年にカリナも笑顔で右手を差し出した。
「カリナ・ウイングスです。よろしく」
「よろしく!」
2人は握手を交わす。
「ここに来たってことはもしかしてコマンド志願?」
聞き慣れない言葉を耳にして問い返す。
「コマンドって?」
「あれ? 知らないの? アーセナルコマンドの事だよ」
カリナはジェイ達の言葉を思い出した。
「えぇ、まだこれから覚えることがありますが」
「大丈夫だよ、エレナ婆さんは凄腕だからさ。なんでも教えてくれるよ」
すると奥からエレナが現れた。
「誰かと思ったらマイクじゃないか」
「サントス商会からエンジンユニットを持ってきたよ」
「それじゃ、工場に置いてくれ」
「わかった」
そう言うとすぐにトレーラーに戻ると作業を始める。トラックの後部荷台の上に載せられている荷物を折りたたみ収納されていたクレーンアームで持ち上げるとやすやすと荷下ろしする。マイクが手慣れて作業する姿に呆気にとられていた。
「すごい。あの歳であんな巨大な物を動かしているんですか?」
「少年兵だよ。兵站部隊で物資運搬をやってるのさ。亡くなった親父さんが凄腕のドライバーでその親父さんの形見のトラックを継いだのさ」
エレナは咥えタバコのまま打ち明けた。
「まだ14だけど立派なプロだよ」
「戦場では年齢は意味をなしませんからね」
「ああ、〝戦場では星の数より飯の数〟って言ってね、経験こそが意味を持つのは常識さね」
エレナのその価値観をカリナは否定しなかった。そんなカリナに作業を終えたマイクが話しかけてきた。
「カリナさん今日、暇?」
「はい、まだ仕事や任務は決まってません」
「なら、手を貸してくれない? 糧食配送で手を借りたいんだ」
「私でよければ」
「ありがとう!」
喜ぶマイクにエレナが尋ねる。
「いつも一緒の兄さんはどうした?」
「死んだ。金稼ぎで単独の遠距離配送をやったんだけど流れ弾に当たった」
マイクの言葉にカリナは驚くが他の2人は眉一つ動かさない。この世界ではよくある事なのだ。その時、ジェイが忠告する。
「彼女はまだこっちに来てから長くない、遠くへは行くなよ」
「大丈夫! ゲートの外の近郊駐屯基地に食料置いてくるだけさ」
「それならいい」
――ゲート――
その言葉がカリナの耳に妙にこびりついた。
エレナは新しいタバコに火をつけながら言った。
「いい機会だ、この世界で戦っている連中の生の姿を見せてもらいな。あんたの迷いを消すヒントになるだろうよ」
「はい」
その言葉にカリナははっきりと頷いた。
ジェイは時計を見ながら告げる。
「カリナ、俺は一旦戻る。また明日な」
「はい。いろいろとありがとうございました」
「困ったことがあれば何でも言ってくれ」
「はい!」
その後、事務所で待機しているとマイクが現れた。マイクが駆るロングボディトラックは多目的用の平荷台で。その上に正方形の貨物コンテナを複数並べている。すでに荷物は乗せられ準備はできていた。
「カリナさん行くよ」
「わかりました」
カリナはマイクのトラックに乗り込みながら見送るエレナとジェイに告げた。
「それでは行ってきます」
「しっかりと見てきな。この世界を」とエレナ
「気をつけろよ、くれぐれも無理はするな」とジェイ
「はい!」
大容量のプラズマバッテリーに支えられた電気動力式の大型トラックはゆっくりと走り出す。よく晴れた空の下、トラックは一路北西を目指す。




