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暴走魔法陣 ―笑う魔族と、カリナの途切れる意識―

「何者だ! 姿を見せろ!」

「知る必要はない、お前はこのままこの世界から姿を消すのだから!」

「なに?!」


 強い口調で問いただすが、相手のほうが心理的には優勢だ。

 

「勇者であるあんたは、あんたの理屈で魔王を倒し魔王軍を滅ぼした。それがあんたたちの正義だ! でも、魔王の言葉を正義にしているやつも居るんだ!」

「戯言を! 戦いは終わった!」

「戯言でもいい! 勝った方が正義さ! あんたが消えれば、ソルスター自由連合軍は柱を失う! 戦後処理のカリスマをなくしたこの世界は、人間同士で争い合う! 新たな戦争が勃発する! そうすればまた元の世界に逆戻りさ!」


 たしかにその不安は有る。あまりにもカリナの威厳と功績に人々が頼りすぎるのだ。だが、エリュシオが言う。


『気を確かに! カリナ――貴方が歩んだ道は貴方だけのものではありません! たとえ貴方が倒れようとも、貴方の後ろを歩む者たちが、貴方の理想を継承します! 今はここからの脱出を!』

「わかった!」


 エリュシオはカリナの重要な相棒だった。そして、その心の支えでも有る。女性魔族は、エリュシオの言葉にカリナが瞬時に立ち上がったのをみて、その精神性の強さに思わず奥歯を噛み締めた。


「面倒な! こうなったら精霊ごと、ふっとばしてやる!」

「エリュシオ! 空間位相探査! 退路を!」

『すでに見つけました! これは光学結界魔法! 一定領域に〝虚像の幻〟を発生させて、対象者を囲い込み、正しい状況認識ができなようにする撹乱と幻惑の魔法罠です!』 


 カリナは脱出法に気づいた。


「そうか! 視覚に惑わされなければ!」

『空間位相を探知しました! 正しい退路を誘導します!』

「お願い!」


 あの女性魔族は驚愕していた。僅かなやり取りの間に罠を突破する術を見つけたのだ。

 

「誰が逃がすか! 勇者カリナ! 世界の果に消えせろ!」


 その女性魔族は何かを詠唱した。魔導呪文である。


――ジッ! ジジッ!――


 不気味なノイズと共に、カリナの眼前に青黒い光がほとばしった。歪んだ円が幾重にも重なっている。ノイズのような火花を発して不気味に動いている。それは魔法陣に見えた。だが、普通の魔法陣ではない。


「あれは――〝暴走魔法陣〟!」


 それは〝歪みきった不正なる魔法陣〟――

 見る者の魂を引き込むような冷たさ、

 吐き気を催すようなノイズ、

 なにより、見ているだけでも自分の身体までねじれるかのような、底なしの気持ち悪さが有る。

 臓腑を掴まれたような悪寒がカリナの体を走った。

 

「なんて気持ち悪い――」

『カリナ! 気持ちをしっかり!』


 魔法陣はあくまでも理論と法則に則った魔法理論の具現化の一つとして考えられた〝回路呪像〟の一つだ。正しく稼働していればきれいな円や幾何学模様を描くのだ。だが、未調整で理論構造に欠陥がある魔法陣は暴走する。そうなれば形は歪み、まともな形をなさないのだ。


「巻き込まれたら大変なことになる!」


 そう言いながら左腰の愛用の聖剣をしっかりと握り直した。そして、一刻も早くそこから離れようとする。


「本当ならお前だけを時の彼方に永劫に飛ばすつもりだった! そのためのこの魔法陣は調整未完了で不完全だが、この世界からお前を弾き飛ばす事はできる!」


 だが、カリナは叫ぶ。


「馬鹿な! お前も吹き飛ぶぞ!」

「望むところだ! もとより刺し違える覚悟さ!」


 そしてカリナは思い知る。

 

「これが――絶対の敵意を持つと言うこと――」


 話し合いは不可能、どちらかが倒れるまで殺し合おうとする者の姿だった。

 こうしている間にも暴走魔法陣は迫ってくる。途中背後を振り返るが暴走魔法陣はカリナから離れなかった。


「やっぱり! 狙いは私だ!」


 エリュシオが叫んだ。


『カリナ様! 防御結界を張ります!』

「お願い!」


 そして、回避策を講じようとしたその瞬間だった。

 

「消え失せろ! カリナ・ウィングス! 時空の狭間に飲み込まれろ!」


 その叫びとともに、別空間から一条の落雷が落ちた。暴走魔法陣が発動させたのは間違いなかった。


――ドオオン!――


 落雷がカリナの全身を貫く。衝撃に吹き飛ばされる。

 

「待って――、また私は――、ソルスターの未来を! 平和を――」

 

 だがそこで意識が飛び、認識が吹き飛んだ。カリナは意識を手放した。


 それが、カリナがこのネクシスドメイン世界に飛ばされてくる時の最後の事実だった――――

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