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不穏なる人影 ―繁栄の街角の悪意―

 喜びを噛み締めながら、少女たちの後ろ姿を見送っていた時だった――

 

『マスター!』

「エリュシオ? どうしたの?」


 精霊のエリュシオの切迫したような声が聞こえた。


『魔族の反応があります。感情色彩は〝敵意〟――数は複数――』

「遠隔視します」

『かしこまりました』


 カリナは聖剣を抜いて、地面に片膝をつくと、剣の鞘を額に当てた。エリュシオは遠隔で遠くのものを見極める力を持つ。これを共有する形でカリナ自身も遠隔視能力を得るのだ。

 もはや数え切れぬほど繰り返した御業だ、アルカナヴァンガードの隊員も、エルリックたちも、即座に緊張を感じた。


「全軍、その場で待機、行動準備」

「はっ!」


 エルリックの言葉にアルカナヴァンガードの隊員たちは即座に戦闘準備に入る。

 ソフィアもミリアも神妙な表情で見守る中、カリナは脳裏にヴィジョンを見た。

 

「居る! 人間の市民に偽装しているけど3人――一塊になって何かを運んでいる!」


 冒険者風のマントを頭まで目深に被った男たちが3人見える。だが、あまりに異様なので周囲から浮いている。あまりにも怪しい。

 場所も把握した。カリナはアルカナヴァンガードへと命じた。


「放浪の冒険者風の男性3人、ただし、3人固まって歩いており、奇妙な荷物を運んでいるわ」


 同時に、聖剣の力でカリナが見た光景をアルカナヴァンガード全体で瞬時に共有する。それを受けてエルリックが問い返す。


「コイツラを危険と判断した理由は?」

「周囲への警戒の仕方が度がすぎるんです。あまりに不自然です」

「よし、すぐに探索させよう」と、エルリック、

「私も動きます」と、ミリア――、特に斥候兵のミリアはこう言うときに欠くべからざる存在だ。

「私は、魔導でさらに周囲を調べるわ」と、ソフィア、


 カリナは号令をかけた。


「只今、共有した光景の3人を探索、即座に拘束してください。敵意を感知しているので、くれぐれも攻撃には警戒するように」

「はっ!」

「行動開始!」


 アルカナヴァンガードが一斉に動く。その動き、まさに神業である。カリナはソフィアにも命じた。


「王国正規軍に連絡を願います」

「分かったわ、すぐに通信魔導を詠唱するわ」

「頼みます」


 そう、指示を出し終えて速やかにカリナは走り出した。攻撃すべき相手はすでに見極めている。栄えあるアルカナヴァンガードの隊員たちは、にわかに沸き起こった危機の予感に、即座に走り出したのである。



§



 一方で、カリナはエルリックたちとともに街の中を駆け巡った。遠隔視の能力で存在を把握したが、その位置は相手が動いているから判断を要求される。同行する隊員たちも懸命に視線を巡らせた。


「団長、このあたりにはすでに居ないようです」

「移動したのね」

「ここから東の領域には居ない模様。中央広場の西のエリアかと思われます」

「分かったわ、そちらに移動しましょう」


 敵意を持った不審者がいる。それだけで彼らが動く理由となる。だが、敵は市民の群れの中に紛れ込んでいるつもりだが、カリナを甘く見ていた。

 カリナは歴戦の勇者だ。修羅場を何度もくぐり抜けている。諸々の人物の振る舞いや仕草から、違和感を察知するのは手慣れたものである。


「エルリック――あの3人、おかしいわ」

「どれだ?」


 カリナが視線で指し示す先には、頭からフード付きマントを被った男らしきものたちが3人佇んでいる。その彼らを見てカリナは言った。

 

「3人のうち2人の視線が――一点に集中している。市場の中央広場の真っ只中よ」

「残る一人は?」

「時折、後ろを振り向いてる」


 3人は一塊になったまま、市場の広がる中央広場を歩いている。だが、彼らが歩く先には特段何もない。エリュシオも疑問を持った。

 

『屋台も、時計塔も、休憩のベンチもない――、そんな場所に何を真剣な顔で向っているのでしょう?』


 エリュシオの言葉にカリナは気づいた。

 

「何かを――置きに行く、あるいは回収――」

『この市場で?』

「そうね――、そもそも人は、何かを目的にしていると周囲に目を配る余裕はなくなるものだわ」


 カリナは確信を得ていた。悪意が行われるという確信を――


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