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平和の到来と焼き立てのパン ―カリナ、街の少女に感謝される―

 カリナは隊列を率いてさらに街道筋を歩いた。ルミナリアの領土内では、各地の駐屯基地を野営地に使うので比較的快適だった。

 その途上においても、各地で大歓迎を受けた。

 そして、いよいよ王都の都市外縁の、市民階級の街角にカリナたちは差し掛かる。

 街中の中央広場に広がるのは、商人や農民たちが品物を持ち寄って屋台の店を並べている光景だった。

 

「カリナ――〝市〟よ」と、ミリアがつぶやき、

「昼市ね!」と、カリナも嬉しそうに答えた。

『戦争が終わって、経済が復活しているのです。人々が豊かに暮らせるのです』と、エリュシオ。

「素晴らしい時代だわ」と、ソフィアも頷いていた。


 そこに憂いはない。街は活気づき、戦火の気配はない。もう戦いに駆り出される事もないという安堵感が国中に広がっているのがわかる。


「もう、戦う必要はないものね」


 カリナのつぶやきに誰もが頷いていた。行軍の途上、何かに気づいたミリアにカリナは尋ねた。


「どうしたの? ミリア?」

「街の子どもたちが手を振ってるわ。こちらに呼びかけている」


 道の少し先で子どもたちが数人集まって手を振っている。その手に何かを持っているようだ。


「いいわ、お相手しましょう」


 カリナの答えに、ミリアたちは行軍に対して、一時休止の号令を出した。

 アルカナヴァンガードの隊列が足を止め、カリナは隊列から離れて子どもたちの方へと歩いていく。カリナの姿を見つけた、子どもたちが息せき切って駆け寄ってきた。

 

「勇者様!」

「聖剣の巫女様!」


 子どもたちは口々にカリナの尊称を口にする。カリナは少女たちに笑顔で応じた。

 

「ご帰還、おめでとうございます!」

「魔王討伐、本当にご苦労さでした」

「ありがとう!」


 噂というのは本当に早い。もう王都に魔王討伐成功の知らせが広がっているのだ。


「なにか御用かしら?」


 カリナはにこやかにそう問いかけるが、子どもたちは緊張している。〝あの〟勇者たるカリナに話しかけるのだ、緊張して当然だろう。

 子どもたちの中で一番の年長の少女が手にしていた籠を差し出す。

 

「これをカリナ様に」

 

 籠の中身には布を被せてあるが、カリナは籠を受け取りつつ少女に尋ね返す。


「何かしら?」

「カリナ様に、ぜひ召し上がっていただきたくて」


 布をめくれば中には焼き立てのパンが色々と詰まっていた。まだ湯気が立っているから焼き上がったばかりだろう。

 

「お父さんとお母さんがパン屋を始めるんです。私もお店を手伝い始めました」

「パン屋をご家族で?」

「はい!」


 少女は思いっきりの笑顔で答えた。

 

「戦争が終わって、お父さんが軍隊から帰ってくることになったんです。それで軍から俸禄が出たので」

「お店を始めたのね」

「はい!」


 少女は満面の笑顔で答えた。そこにはまさに〝幸せ〟があらわれていた。

 戦争は子どもたちから父親を奪う。死ぬこともある、容易には家族の元へ帰ることすらできない。家庭が引き裂かれる悲劇をカリナは知っていた。

 だが、少女が渡してくれた焼き立てのパンが、悲劇の世界は終わったのだとカリナに教えてくれる。

 それは何物にもまさる喜びであり宝物だ。


「ありがとう! 大切にいただくわ」

「はい!」


 少女が笑顔で頭を下げてくる。そして、子どもたちは丁寧に頭を下げながら家族の待つ場所へと帰っていくのだった。


「素晴らしいわ」

『はい、戦った甲斐がありましたね』

「えぇ」


 戦いの苦難を身を持って知っているだけに、少女が手渡してくれたパンを巡るドラマには、カリナも心を熱くさせられた。 

 だが、ささやかな平穏な朝にも、不穏な影は差すのである。


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