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魔王の最後 ―時空の狭間と、彼方の光景―

――見えた! ついに! 魔王に私の剣が届く!――


 カリナの間近に魔王が見える。カリナは自らが高い位置にある事を認識する。その瞬間、これまですべての光景が頭をよぎる。

 両親の死、過酷な修行、仲間との出会い、軍団の結成、諸侯との交流、そして、長い長い戦い――

 そのすべてが今、聖剣の輝きに結実していた。


「魔王ヴァルガリアス! 覚悟!」

「人間ごときがぁああ!」


 それが魔王の最後の叫びだった。無限に近い聖なる力を宿したレギオンブレイドは振り下ろされ魔王の体を真っ二つに切り裂いた。


――ザヴァアアアッ!――


 だが――

 

――ゴァッ!――


 猛烈な風が巻き起こる。それは目も開いていられないほどの嵐だ。

 

「こ、これは?」と、カリナ。

「魔王の体内の魔力の暴走だわ!」とソフィア、


 謁見の間の全体に魔力嵐が巻き起こる。その場の全員が足を踏ん張り、飛ばされないようにするだけで精一杯だった。

 

――ギュヴォアァッ!――


 その風が逆流した。吹き出しから吸い込み始めたのだ。その時、魔王の至近距離に居たのはカリナだった。渦にまともに吸い込まれたのだ。その小柄な体が宙を舞い、螺旋を描く。

 

「キャァアアアアアッ!」


 カリナ自身がつんざくような悲鳴を上げる中、魔力の渦は空中に穴を生じさせていた。

 

「あれは? 次元の穴?」と、ミリア

「まずい、吸い込まれたら別世界に飛ばされる!」と、ソフィアも焦りを浮かべた。


 魔導杖を掲げ、手持ちの魔導詠唱水晶板から空間制御魔法を展開するソフィア、


「英霊諸氏の皆さん! 魔導詠唱が出来る方は、私ソフィア・ホーリーウィンドの名前をルートとして、カリナを時空漂流から救い出すための空間制御魔法を支援詠唱してください!」


 魔道士である知恵の西風(ゼファー)、エアリスも叫んだ。

 

『みんな! 急げ! カリナが失われる前に!』

『おおおっ!』


 そして、魔王の最後のもがきから、カリナを救うべくソフィアを中心に一斉に100人近くが魔導詠唱を始めた。

 聖なる力は一つにまとまり、それがカリナの体を救う糸となる。糸は紡がれて、束ねられ、強靭なロープとなり、そして、それはカリナの体を確実に掴んだ。


――キュウウッ――


「掴んだ!」と、ミリアが視認する。

「引っ張るわよ! 収束魔法、追加詠唱!」


 カリナの体は元の空間へと確実に戻ろうとしていた――

 


§



 その時、カリナは現実世界と時空の向こう側の世界の間で揉まれていた。

 時空流離の渦の中、魔王の思考の残渣が響く。

 

――勇者カリナよ、お前の戦いはコレで終わると思うな――


「何を言うの? 魔王!」


――魔族は滅びぬぞ!魔族は人間たちに服従を強いられ、同化の道をたどるだろう――


「それが、戦いを終わらせるということ、戦闘の放棄は平和の絶対条件!」


――甘いぞ〝ワシの後を告ぐ者〟が必ず現れる――


「なんですって?」


――ククク、企みはすでに始まっている。長い、長い、年月の果てにな――


 そのとき、ソフィアたちが紡いだ聖なる力がカリナをとらえた。

 

――ほう? 歴代勇者が小細工を……、だが、ゆめゆめ忘れるな、お前は孤独と蹉跌の末に、新たな戦いに飲まれるだろう! お前は永劫に戦いの運命から逃れられぬのだ!――


「私が、永劫に?」


――そうだ! それがお前の受けるべき〝罰〟なのだ! ハハハハ! さらばだカリナ! さらばだ聖剣の勇者よ!――


 そして〝元魔王〟ヴァルガリアスの魂は、時空の向こう側へと完全に飛び去り引き裂かれていった。その瞬間、カリナの体を聖なる力が強力に引っ張り、時空流離の魔力の渦の中から救い出されようとしていた。

 

『これで助かります、カリナ』


 エリュシオの言葉にカリナは一瞬安堵する。だが――

 

「あれは?」


 時空の壁の向こう――、空間の裂目の向こう――、そこに別世界の光が見えた。そには別世界の戦場が垣間見えていた。

 

「なに? 金属の魔獣? 鋼のゴーレム?」


 その別世界では、猛烈な光が一条の光の矢となって戦場を飛び交っていた。また、火薬ではありえないほどの爆炎がほとばしり、鉄と鉄がぶつかり合い火花を散らしていた。そこに人間の姿はない。鋼の獣と、鋼のゴーレムや巨人が、隊列を組み、戦陣を従え、戦場でぶつかり合っているのだ。

 それが何だったのか、知ることもできない。ただ、エリュシオは言った。

 

『カリナ、今は帰還を目指しましょう! ここから戻る強い意志をお持ちください』

「判ったわ!」


 そして、カリナが迷いと不安を断ち切ったとき、その体は現世へと引き戻された。魔王の残骸から生まれた時空の穴は閉じ、そして、カリナは気づけば、魔王城の外の戦場の真っ只中に放り出された。

 

――ドサッ! ズザザァッ!――


 戦場の大地の上を転がりながらも無事に生還を果たした。

 

「こ、ここは?」

『ご安心を、ソルスターの大地の上です。まだ魔王城の周辺領域ですが』


 カリナは体を起こして立ち上がると、周囲を見回す。するとそこには――

  

「カリナ!」 

 

 戦いの疲れを感じさせない力強い歩みでエルリックが歩み寄ってくる


「無事か?!」

「はい!」

「ついにやったな!」


 駆け寄るとカリナの肩を叩く。魔道士のソフィアもカリナに寄り添ってその頭を撫でる。


「長年の苦労がついに報われたわね」

「はい――」


 カリナの目元が潤んでいる。泣きそうになっている彼女に斥候のミリアが支えるようにその肩に手を触れた。


「涙はまだ早いわよ。これからやっと平和が訪れるのだから」

「ええ、そうですよね」


 そして、右手に握りしめてきた聖剣のレギオンブレイドをさやに納めて顔を上げて歩き出した。


「行きましょう! この戦いを支え続けてくれた戦友たちの元へと」


 カリナは仲間たちと共に、彼女が率いる軍団に参加してくれた戦友たちのところへと歩き出した。

 そして、今こそ、300年続いた〝魔族大戦〟は終結した。

 ソルスターに平和は成就したのである。


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