カリナ、病院に移る ―負傷兵に神の祝福を―
「――また、昔の夢だ」
時々、一番つらかった日々のことをいやでも思い出す。先の見えない不安な日々が心の奥底からあの日の記憶を呼び起こすのだろう。でも、夢に見たあの頃の日々とは明らかに違う。
「こっちの世界の人たちは尋ねればちゃんと答えてくれるし、なによりも〝大切〟にしてくれるのがわかる。もしかしたらやっていけるかも」
自分から戦う意思を示したことでカリナへの待遇は明らかに良いものになっていたのだ。
シンプルな朝食を終えて待機していれば、ルーカスがやってきた。ドアを開けて入ってくるとにこやかに説明してくれる。
「所持品をまとめてください。別な施設に移り行動の自由も改善されます」
「はい!」
カリナを寝泊まりさせる場所が治安管理施設から医療施設へと変わったのだ。ここに来るときとは違う、二人乗りの乗り物に乗って別の施設へと向かう。着いたのは純白に塗られた大きな建物だった。それを見上げながらカリナは尋ねる。
「ここは?」
「医療施設、つまりは病院だ。当面はここで暮らしてもらう」
施設の職員に案内されて指定された部屋に入る。一人用の個室でゆったりとした広さがあった。
ドアに鍵はかからず窓から外の景色も見える。当然、外出もそれなりに自由だ。今はまだ建物の外に出る勇気はないがいずれは外を歩けるだろう。個室の中では一時的に没取されていた所持品も返却された。でも――
「あの、私の剣は?」
「それはもう少し待て。まだ手続きの途中だ」
「そんな――」
愛剣の返却を楽しみにしていただけにカリナは思わずシュンとしてしまう。さすがのルーカスも気になったのかカリナを慰める様に諭す。
「威力のある武器なのはハッキリしているからな。こちらの世界の決まり事に従って所持を認める必要があるんだよ」
「わかりました」
ならば言うことに従うのが最良だ。それより――
「今日はこのまま休め。明日から〝適応トレーニング〟を初める」
「適応?」
「あぁ、このネクシスドメイン世界で暮らしていくために必要なことを身に着けてもらう。君が今まで暮らしていた世界とはあまりに多くのことが違うだろうからな」
「つまりは――練習ですね?」
「そうだ、まずは一歩づつ」
「はい!」
力強く微笑むカリナに、ルーカスは初めて笑みを返してくれたのだった。
§
医療施設で大きい窓のある部屋に移動して初日、まずは慣れることから始めた。
病院施設から与えられた、上下のトレーナーの様な衣装に着替えて自室でくつろぐ。部屋から出て施設内を歩くのも自由で、施設の中の設備や行き交う人びとそれとなく眺める。
そこで感じたのはおどろくほどの医療のレベルの違いだ。
おそらくは戦地で負傷して、入院しているのであろう若い男性と話すことが出来た。通路の脇のベンチに座り、携帯通信端末をいじっている。カリナは勇気を出して話しかけてみた。
「どこを悪くされたのですか?」
ダークブラウンの髪のその青年は、髪を短く刈り上げていたが、頭部を布製のヘッドギアのような物を被っていた。カリナの声に振り向き笑顔で答える。
「あぁ、頭部に弾丸を被弾してね」
「頭に?」
「コクピット内に敵からの弾丸が飛び込んできて、左斜め前から頭蓋骨に食い込んだんだ。駄目かと思ったよ」
男性は指で傷口のあるはずの場所を指して笑いながら言う。
「そんな――、大丈夫だったんですか?」
カリナは思わず驚くが、彼は丁寧に答えてくれた。
「ギリギリ命を拾ったよ。負傷した直後は意識がなくなって、何度も死線を彷徨った。でも、救急搬送が間に合ってここで摘出手術と脳皮質の再建術を受けた。まだ、右足に麻痺が残ってるんだが、頑張ってリハビリして戦場に復帰するよ」
「脳を――」
その言葉にカリナは驚きを感じたのも事実だが、それ以上に胸を打たれた。
「守りたいものがあるんですね」
「あぁ、故郷に家族を残している。あいつらが安心して眠れる夜を取り戻してやりたいんだ」
その言葉にカリナは安堵感を覚えた。
戦う相手が違っても、戦う手段が違っても、侵略者から故郷を守ると言う本質には違いがないのだ。彼の手を取りそっと告げる。
「あなたに――戦いの神の祝福がありますように」
「ありがとう」
彼もカリナに笑顔を向けてくれたのだった。
舞台はついに、未来世界ネクシスドメインへ。
魔法の勇者カリナが、鋼の戦場でどのように立ち上がるのか。
引き続き見守っていただけましたら嬉しいです。
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