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カリナとジェイ ―2人は互いの戦場経験を語らい合った―

 扉が閉められカリナは諦めて中の座席に座った。それから長い時間をその中で過ごすハメとなった。食料は見たこともないブロック固形物が差し入れられた。


「パンと言うより、ラスクに近いかしら?」


 一口かじってみる。


「味は悪くないけど――」


 水がないと食えた代物ではない。口の中の水分が全部持ってかれる。なので、飲料水も提供されたのはありがたかった。

 ただ、唯一困ったのがトイレだ。


「どうしよう?」


 困っていると屋根からジェイの声が聞こえる。


『言い忘れたが、トレイは奥の簡易トイレを使ってくれ』

「中が見えてるのですか?」

『見えてない、音は聞こえる』

「え?」

『悪いが規定なんだ。ホントなら監視カメラも回すんだが隊長が「女の子だからカメラは切っておけ」ってさ』


 さすがにそれでもカリナにはちょっと辛いものがある。するとジェイが言った。


『今から5分間マイクを切る、その間に済ませてくれ』

「ありがとうございます」


 ジェイが予想以上に気遣いをしてくれる人だと分かったのは何よりも嬉しかった。

 やる事を終えたタイミングで、監視マイクが接続されジェイの声が聞こえてきた。


『君は監視対象なんだ。配慮にも限界があるんだが、そこは勘弁してくれ』


 スピーカーの向こうから軽い口調でお詫びの声が聞こえてくる。


「別にいいです」

『そうか? すまないな』


 ジェイの軽妙な語り口は心の壁を簡単に乗り越えてくる。


『戦場で長くいるとプライバシーとか恥ずかしいとかそういうのどっかに行っちまうんだよな』


 お詫びとも言い訳ともつかない言葉にカリナは思わず笑ってしまう。


「それ分かります、戦場で泥にまみれて何日も行軍を続けていると着替えとかトイレとか男の人と一緒でも気にならなくなっちゃうんですよね」

『だろ? 戦場のキャンプ地で1ヶ月ぶりにシャワー設備が用意されて、そうなると順番待ちは男女関係ない。男も女もまぜこぜで裸になってお湯を浴びてたからな』

「戦場でお風呂に入れるんですか?」

『あぁ、一応こっちの方にはそういう設備もあるからな』

「それはちょっと羨ましいかも。私の世界では数ヶ月の行軍でまともな水場がなかなか見つからなくて、水源も飲料水が優先だから、任務が終わったら垢だらけなんてこともありました」

『それは――、さすがに同情するなぁ。匂いとか、すごいことになってないか?』

「そうなんですよ、お湯を浴びても一週間は臭いが取れませんでしたから」

『まぁ、そこは生き残れただけでも儲けものだな』

「儲けもの……なのかな」

『そういう事にしとけ』


 ジェイの語り口にカリナは思わず笑みが漏れた


「でもどこの世界も同じですよね、特に戦場の末端の兵士の境遇って」

『そこは否定しないよ。割を食わされるのはいつでも下の方だからな』

「上が無能だと、下が死にますからね」

『そういうのは絶対ないと思いたいが、悲しいけど多いんだよな』

「大丈夫です。私はそういうの叩き潰してきましたから」

『マジかよ』


 そんな風に会話を重ねるとお互いの警戒心は自然にほぐれてくる。カリナはさらに尋ねた


「ジェイさんは戦歴は長いんですか?」

『俺か? 14の時に志願して、訓練は1年間、そこから10年間あちこち転戦した』

「10年――、ベテランですね」

『そうでもないさ。未だにヒラ止まりだしな。そういう君は?』

「私ですか?」


 カリナは過去を思い出しながら訥々と語る


「強制徴兵されたのが6歳です」

『はぁ?』


 いきなりに衝撃的な数字にジェイは驚いた


「6歳? 嘘だろ?」

『いいえ、本当です。私の持っていた聖剣との相性の問題で適合したと判断されてしまったんです』

「武器との相性? 武器の性能を発揮するのに個別の適正が重視されるってわけか」

『そうです。当時、聖剣に適性のある子供を無理やりさらっていた軍事国家があったんです。そこに捕まってしまって……』

「そこから無理やり……か」

『はい。3年間は強制訓練所でしごかれました。9歳で戦場に連れてこられて1年間戦場を引きずり回された、でも10歳で別の国の人たちに救い出されて、初めてまともな待遇を受けて、そこから18歳の時まで戦って戦争ようやく終わらせたんです』

「足掛け12年か」

「短いようで長いですよね12年って」

『そうだな。でも無事に平和は取り戻したんだろ?』

「ええ――。でも何の因果かまた戦争だらけの世界に連れてこられましたけど」

『そこはさすがに同情するかな――』


 2人はそんな風に何気ない会話を続けていたが、ジェイの口調が急に冷静になった。


『カリナ、1つ言っておく』

「はい」

『君は、俺たちと接触した際に変に反発したりしなかった。処遇に対しても従順だった。敵対的と判断はされなかったから比較的早く処分は決まるだろう。それまでの辛抱だ』


 それがカリナに希望を持たせるために発せられた言葉だというのはカリナ自身にもよくわかった。


「ありがとうございます」

『とりあえずもう少し走ったら安全な場所を見つけて野営する。朝までゆっくり眠っててくれ』

「うまく寝ればいいんですけど」

『そこ、シートが硬いからな』


 軽妙な言葉にカリナは思わず笑った。これから先の不安が少しだけ和らいだ気がしたのだった。


( 'ω'o[ 読者様へ ]o

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――勇者は、生まれた時から勇者だったわけではない――
これは、世界を救った勇者の物語ではない
世界を救う勇者が、生まれていくまでの物語である
少女カリナと精霊エリュシオ
二人の絆を軸に描く、本格ビルドゥングスロマン×ハイファンタジー戦記

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▼ 勇者カリナが、未来へ辿り着く直前の物語

AIと戦闘機械の未来世界へ飛ばされる、その直前――。
少女勇者カリナは、仲間たちとともに三百年の戦乱を終わらせる最後の戦いに挑んでいた。

『勇者カリナ/魔王城最終決戦録』を読む

―少女勇者カリナと仲間たちが挑んだ、魔王軍との最後の戦い―

勇者カリナ/魔王城最終決戦録 タイトル画

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