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カリナ、スマホと電子メールを知る

「わかりました。しかしなぜこういうものが必要になるのですか?」

「いい質問だな」


 ルーカスは真剣な表情で語り始めた。


「君が生まれた世界は〝ソルスター〟と言うそうだな」

「はい」

「ソルスターの世界に魔法があるように、この世界〝ネクシスドメイン〟は〝情報〟で成り立っているんだ」


 その言葉にカリナは思う。

 

――ネクシスドメイン? それがこの〝鋼の世界〟の世界の名前なんだわ――


 同時に気になる言葉があった。


「情報?」


 ルーカスは頷き1つの機械を取り出した。手のひら大の板で表面に様々な画像が表示されている。


「この世界ではその情報をやりするための〝端末(ターミナル)〟が存在している。そして世界中に存在する様々な端末を繋いで情報のやり取りをするシステムを〝ネットワーク〟と言う」

「端末とネットワーク、それがこの世界の根幹をなすということなのですか?」


 ルーカスは頷きながらもう一つ端末を取り出すと、それをカリナに向けて差し出す。彼は自分の手元の端末を操作する。するとカリナ側に置かれた端末に文字が表示された。


―――――――――――――――――――

件 名:テスト送信

送信者:ルーカス・アイヴァーソン

内 容:カリナ・ウィングスへ説明のため

―――――――――――――――――――


「これはその情報のやり取りのひとつで〝メール〟と言うものだ」

手紙(メール)? 紙のない手紙ですか?」


 カリナは思わず驚愕した。戦場の巨大機械よりもこちらの方が驚きが大きい。食事に出された氷菓でも驚いたが、文明の根幹があまりに違う事が嫌でもわかる。

 かたやルーカスからすればカリナの反応はまだ望ましい方だ。文明の差異にパニックになり人事不省になられたら事だからだ。


「我々の世界には、こうした仕組みがありとあらゆる場所に存在する。そして、それを制御するために存在するのが〝電脳(コンピュータ)〟だ。人間の命令を受けて様々な作業を代行する。君が戦場で出くわした巨大な人型機械もこうしたネットや電脳と言った仕組みを前提として成り立っているんだ」

「電脳? お話から推察すると私の故郷の世界にある〝人工精霊〟に似ていますね」

「人工精霊?」

「はい、人為的に造形創出されて作られる人為的な精霊です。通常は物体や器物に宿らせて使役するんです。私の剣のエリュシオも人工精霊です」

「そうだったか。生命体として扱った判断は正しかったな」


 そこでルーカスは少し怖い事を口にした。


「実は分析に当たった調査官の一人が分解調査したいと食い下がってな。認めるかどうかで意見が分かれたんだ。しかし生命体の可能性の意見が採択され分解は却下された」

「分解――」


 思わずカリナは真っ青になった。そうなったらこの先自分を保てなかったかもしれない。


「案ずるな、傷ひとつ付けていないよ」

「よかった」


 カリナの反応にルーカスは苦笑していた。


「そもそも、この世界のありとあらゆる物に大小様々な電脳が内蔵され駆動している」

「ネットワークと端末によって繋がりを保ちながらですか?」

「そのとおり」


 落ち着いた凛とした声のあとで、ルーカスはカリナを見つめて告げた。


「カリナ・ウィングスさん、時に――この世界で戦っていく意思はありますか?」


 その時、戦場でカリナを保護して声をかけてくれたあのジェイの顔が浮かんだ。彼は言った〝この世界で生きていくなら戦え〟と。ルーカスの言葉がそれと重なった。


「その前にお聞かせください」

「何なりと」

「私は元の世界で、人間に仇なす〝魔族〟と戦ってきました。千年余りに渡る魔族との戦乱の歴史の末期に勃発した大戦に勝利し平和を掴みました。ですが、この世界がまだ戦乱の中にあるというなら戦う相手が居るはずです。それについて教えてほしいんです」


 そう問うたとき、ルーカスはそれまでにない真剣な表情で向かってきた。


「それを聞いたら後戻りはできないぞ?」


 何だそんなことかとカリナは思う。


「故郷の世界では常に戦いの矢面に立ってきました。特別扱いで安寧を貪るつもりはありません」

「そうだ。君は〝勇者〟だったな」


 ルーカスは新たに大型のタブレット端末を取り出すと、それを操作して動画を映し出す。それはこの世界での戦闘の光景だった。


「わかるか? この巨大な人型の戦闘機械が」

「これは、この世界で最初に出会った」

「これが俺たち人間の戦力だ。そして、彼らが戦っているのが俺たちの敵だ」


 カリナを戦場で保護したあの人型の戦闘に似たシルエットが戦列を組んでいた。その彼らが猛烈な砲火で戦っている。それと対峙していたのはまた別な機械のシルエット。それはもはや人の形すらしていない。


「鉄の獣?」

「獣程度ならどれほどいいか」


 それは嘆きの声だ。絶望と悲しみが伝わってくる。


「そんな生やさしい物じゃない」

「えっ?」


 映像に視線を注ぐカリナにルーカスが強い言葉で告げた。


「奴らは(はがね)の悪魔――〝アイアン・オーダー〟」


 アイアンオーダー――即ち、


「〝鋼鉄の秩序(アイアン・オーダー)〟!」


 その言葉にカリナは戦慄を覚える。

 映像の中で人間側の攻撃をものともせずに進軍する異形の機械たち。生物的な動きをしつつもそこに命の暖かさは微塵もなかった。


「鋼鉄でできた侵略者?」


 魔族とはあまりに違う異質な存在にカリナはただただ驚くだけであった。


お読みいただきありがとうございます。

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