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親父が魔王で何が悪い!〜七光り転生した俺は、実家のコネと権力をフル活用して異世界最強のスローライフを謳歌する〜  作者: 小林一咲


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8/8

ep.8

 商人ギルドの不祥事を解決したことで、人間界ではなぜか「不当な搾取を打破した経済の救世主」として、俺、ユハトの名声が神格化されていた。しかし、本人的にはただ自分の睡眠環境を脅かす存在を親父のコネで排除したに過ぎない。


「ユハト様、人間界の各都市から『感謝の親書』と『特産品のカタログ』が山のように届いております。もはや魔王城の倉庫がパンクしそうです」


 リナリアが困り果てた顔で報告してくるが、俺はそれどころではなかった。

 最近、魔王城は騒がしすぎる。天使たちが窓を磨く音、親父が「息子へのプレゼント」を生成するために魔力を暴発させる振動、そして勇者アリアが「いつか倒してやる」と呪文をブツブツ唱える声。


「……リナリア。俺、もう限界。静かなところで、何も考えずに波の音だけ聞いていたい」

「波の音……つまり、海でございますね? さっそくガラム様に進言し、魔界のプライベートビーチを確保いたします」

 こうして、俺の「バカンス」という名の現実逃避が、親父の圧倒的な権力コネによって現実のものとなった。


 親父が用意したのは、魔界の南端にある、人間が立ち入ることのできない禁足地『ヴォイド・コースト』だった。

 空は紫色の夕焼けに似たグラデーションを描き、砂浜は細かく砕かれた魔石が結晶化した純白。そして海は、底まで透き通るほど美しいコバルトブルー。

 そこには、俺を邪魔する喧騒は何一つないはずだった。

 

「ユハトォォォ! お前のために、この一帯の有害な魔物をすべて駆除しておいたぞ! ついでに、波の高さも『お前が寝返りを打っても波飛沫がかからない高さ』に固定しておいた!」

 親父――魔王ガラムが、水着の上に魔王のマントを羽織るという、前衛的すぎるファッションで叫んでいる。

 

「親父……せっかくの自然を固定しないでよ。不自然すぎて逆に落ち着かない」

 俺は、親父が魔力で作り出した「絶対に揺れないフローティング・ベッド」の上で寝そべった。

 傍らでは、勇者アリアがハイレグの水着(魔王軍の支給品だそうだ)を恥ずかしそうに隠しながら、俺のトロピカルジュースをかき混ぜている。

 

「……なんで、勇者の私が魔界の海で、あんたのストローを固定しなきゃいけないのよ」

 

「いいから、氷が溶けないように適度に聖剣で冷やしてて。それが君の今の任務(仕事)だから」

 

「……この、史上最強のコネ息子が! いつか絶対、その余裕を後悔させてやるんだから!」

 アリアの毒づきを聞き流しながら、俺は目を閉じた。

 太陽の熱も、天使セラフィムが上空で「ユハト様のサンバイザー」として翼を広げ、日光を調整してくれているおかげで完璧だ。

 だが、その平穏は、海中から立ち上がった巨大な影によって破られた。


 ズゥゥゥゥン……ッ!

 海面が大きく盛り上がり、そこから現れたのは、全身を青銀色の鱗で覆われた、超巨大な海龍リヴァイアサンだった。

 それは魔界の海を数万年にわたって支配してきた、伝説の『海皇リヴァイアス』。

 

「何奴だ……。我が微睡みの海を、これほどまでに不純な魔力で固定する無礼者は……」

 海皇の重厚な声が響き、大気が震える。

 親衛隊の魔族たちが即座に武器を構え、リナリアが冷徹な瞳で海龍を睨みつける。

「無礼なのは貴様だ。ユハト様のバカンスを邪魔する者は、神であれ魔獣であれ容赦せん」

 一触即発の事態。

 勇者アリアも「今度こそまともな敵……!」と緊張を走らせる。

 しかし、俺はフローティング・ベッドから一歩も動かず、ストローをくわえたままリヴァイアスを見上げた。

「……リヴァイアス? あんた、この海の支配者なんだってね」

「いかにも。小僧、我が姿を見ても怯えぬとは、よほどの愚者か、あるいは――」

「あんた、尻尾の下。デカいトゲが刺さって化膿してるでしょ。それが痛くて、波を荒らしてるんだよね? 静かにしてくれないと、俺が寝られないんだけど」

 リヴァイアスは絶句した。

 実は、俺の枕を通じてリンクしている創世神ルミナリスが、夢の中で「あの子、怪我してて機嫌が悪いのよ」とこっそり教えてくれたのだ。

「……な、なぜ、我が隠し続けていた傷を知っている!? この一帯に張られた、お前たちの奇妙な結界(固定された波)のせいか?」

「リナリア、親父の倉庫から『超高濃度の回復薬』持ってきて。あとセラフィム。あんた、神様の使いなんだから、その槍でサクッとトゲ抜いて、浄化してあげなよ」

「はっ! かしこまりました、ユハト様!」

 天使セラフィムが神速で空から舞い降り、神の槍でリヴァイアスの古傷を治療する。リナリアが投げ入れた回復薬が海に溶け込み、海龍の巨大な身体を光が包んだ。


 数分後。

 痛みが消え、数千年ぶりに体が軽くなったリヴァイアスは、先ほどの威圧感が嘘のように、しおらしく俺のベッドの横でこうべを垂れていた。

「……おおお。なんと素晴らしい癒やし。小僧、いや、ユハト殿。このリヴァイアス、貴公の慈悲に感謝する。我が力、今後は貴公の休息のために捧げよう」

「じゃあさ、リヴァイアス。あんた、大きな背びれあるよね? あそこで俺を乗せて、適度な揺れで海面を散歩させてよ。親父の固定された波より、あんたの揺らぎのほうが熟睡できそうだから」

「承知した! 我が背は、今日より貴公専用の『移動式最高級ベッド』である!」

 伝説の海皇が、俺専用の「ウォーターベッド」に成り下がった瞬間だった。

 

 

「……リナリア。これ、どういう状況かしら?」

 「ユハト様が、魔界の海の生態系すらも『コネ』と『利便性』の下に再編された。ただそれだけのことですよ、勇者アリア」

 アリアは、リヴァイアスの背中でスヤスヤと眠り始めた俺を見て、ついに深くため息をついた。

 

「魔王のパパ、神様のメンテナンス、天使の掃除、勇者の靴磨き、そして海龍のウォーターベッド……。ねえ、ユハト。あんた、このまま行くと、いつかこの世界そのものを『枕』にするんじゃないの?」

 俺は、心地よい海のリズムに揺られながら、夢の中で答えた。

 

「……世界を枕に……? それ、重そうだから却下……。俺はただ、静かに……寝たいだけなんだから……」

 バカンスを邪魔しに来た伝説の怪物を、即座に「自分専用の寝具」へと変えてしまう圧倒的コネの力。

 ユハトの異世界七光りライフは、ついに深海の果てまでを支配下に置いたのであった。


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