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12/12

「愛するって、どういうことなんだろう。」

金曜日。

一年も、もう半分が過ぎようとしている。

俺は中庭のベンチに座り、木陰の中でぼんやりとしていた。

誕生日まで、あと一週間。

この半年――特別なことなんて、ほとんど何もなかった。

けれど……

一つだけ、少しずつ変わっていることがある。

アジアとクンゼの距離が、前よりも確実に近くなっている。

休み時間になると、二人が話しているのをよく見かける。

時々――手を繋いでいることもある。

……なのに、まだ正式に付き合っているわけじゃないらしい。

クンゼに、まだその覚悟がないのか。

それとも、アジアが少しずつ慣れている途中なのか。

……たぶん、その両方だ。

無理もない。

二人が出会ったのは、ほんの今年のことなんだから。

アジアは、俺が知っている中でも数少ない――

静かで、あまり自分を表に出さないタイプの子だ。

そして何より……

真っ直ぐに、人を愛する。

――あいつは。

一年前、こう言っていた。

「たとえ、あなたの心が誰かのものになっても……それでも、私はあなたを愛し続ける」って。

……

失ったことが、今でも痛い。

けど同時に――

少しだけ、救われている自分もいる。

親友を支える、っていう目的は……果たせたから。

本気で俺を想ってくれていた人と、

一緒にいることだってできたはずなのに。

……それでも、別の誰かに囚われていた俺は、

その選択を間違えた。

けど――

きっと、全部に意味がある。

……そう思うしかない。

綾恵は、相変わらず俺と話そうとしない。

何をしたのかも、分からないまま。

それが――思っていた以上に、きつい。

……たぶん、原因は彼氏のことだろう。

「私のせいで、面倒なことに巻き込みたくない」

あいつは、そう言っていた。

前みたいに、また普通に話せたら――

そう思うこともある。

けど……

最近は、夏希と過ごす時間のほうが増えている。

一緒にいると、不思議と落ち着く。

……いや、正確には。

落ち着く瞬間が、ある。

その静けさは、何の前触れもなく消えることもあるけど。

それでも――

綾恵と一緒にいたときみたいな感覚とは、どこか違う。

それに、もっと厄介なのは――

あの時の気持ちを、

もう、はっきりと思い出せないことだ。

少しずつ、薄れていく。

まるで、内側から何かが消えていくみたいに。

……たぶん。

綾恵に抱いていた感情のほうが、

ずっと強かったはずなのに。

なのに、どうして――

こんなにも遠く感じるんだろう。

どうして、俺は――こんなふうなんだ。

そのとき、

見覚えのある男子が、女子と一緒に歩いているのが目に入った。

二人は、手を繋いでいた。

それを見た瞬間――

胸の奥が、ざわついた。

言葉にできない、不快感。

――キーンコーンカーンコーン。

チャイムの音が、思考を遮った。

俺は教室へ戻った。

しばらくして。

授業中、クンゼが紙を投げてきた。

開いてみると、こう書かれていた。

「放課後、買い物行くけど来るか?」

顔を上げると、クンゼと目が合った。

俺は、軽く頷いた。

それからは――特に何も起こらなかった。

授業が終わるまでは。

綾恵が荷物をまとめて、教室を出ていくのが見えた。

あの、どこか遠くを見ているような――

寂しげな表情。

彼氏がいるって聞かされた、あの日から。

……ずっと、変わっていない。

「おい、行くぞ」

クンゼに呼ばれ、俺たちは学校を出た。

道を歩きながら、適当に学校の話をしていたが――

不意に、クンゼが口を開いた。

「なあ、樹……」

どこか探るような声だった。

「なんだよ」

「最近さ、お前と綾恵……前みたいに一緒にいないよな」

少し間を置いて、続ける。

「なんで、あんなに距離置いてるんだ?」

……やっぱり、気づいてるか。

たぶん、あいつだけじゃない。

クラスの連中も、もう分かってるはずだ。

この距離は――もう隠せない。

……どうする。

本当のこと、言うか?

何も分からないって。

ある日突然、離れていったって。

……それで、傷ついてるって。

――いや。

ダメだ。

そんなの、見せたくない。

同情されるような自分には、なりたくない。

「正直、俺にも分からない」

そう答えた。

「綾恵にも、綾恵なりの理由があるんだろ。

別に、喧嘩してるわけじゃないし」

クンゼは、黙って俺を見ていた。

言葉の奥を、探るみたいに。

「……本当に?」

一瞬――

ここで迷ったら、全部崩れる気がした。

「……ああ。本当だ」

視線を逸らす。

そのまま、また歩き出した。

けど――

会話が終わった気は、しなかった。

ただ……

避けただけだ。

そのまま、俺たちは歩き続けた。

店が見えてきた頃――

また、あいつが目に入った。

さっき、休み時間に見かけたあの男子。

……今度は、別の女子と一緒だった。

抱き合っている。

何でもないことみたいに。

それが当たり前みたいに。

「なあ、クンゼ……」

小さく声をかける。

「ん? どうした」

俺は、さりげなくそっちを指さした。

「あいつ……さっき、違う子と一緒にいなかったか?

休み時間、手繋いでたの見たんだけど」

クンゼは視線を向けて、すぐに頷いた。

「ああ……あれは別だな」

驚いた様子はなかった。

……それが、逆に引っかかった。

「でも、ああいうのって珍しくないぞ」

クンゼは、淡々と言った。

「ここでも……他の場所でも」

「……普通、なのか?」

「ああ」

迷いなく答える。

「真剣な関係を求めてないやつもいる」

少しだけ間を置いてから、続けた。

「一緒にいられればいい、とか。

遊びでもいい、とか。

……一人じゃなければ、それでいいってやつ」

責めるような口調じゃなかった。

ただ、事実を並べているだけだった。

「で、うまくいかなくなったら――」

「……すぐ、次に行く」

「全員がそうってわけじゃないけどな」

「でも、珍しくはない」

「……そのほうが、楽だからな」

「深く入り込まなくて済むし」

「終わっても、そこまで傷つかない」

俺は、少しの間、前を見たまま黙っていた。

それから――

「それで……満たされるのか?」

クンゼは、すぐには答えなかった。

「……人によるな」

ようやく、そう言った。

「それでいいってやつもいる」

少しだけ視線を落とす。

「深入りしなければ……成り立つ関係もある」

嬉しそうには聞こえなかった。

……ただ、現実を受け入れてる声だった。

「でも――」

「無理なやつもいる」

「どれだけ割り切ろうとしても……結局、空っぽになる」

胸の奥が、わずかにざわついた。

「……なんでだ?」

クンゼは、迷わず答えた。

「本当は、もっと求めてるからだろ」

一拍置く。

「簡単に代わりがきかないものを」

俺は、一瞬だけ視線を落とした。

それから――

「……お前は?」

クンゼは、小さく笑った。

……感情のない笑いだった。

「俺は無理だな」

「好きになったら……どうでもいいふりなんてできない」

……それは、すぐに信じられた。

「だから、ちゃんとした関係のほうがいい」

「面倒でも」

「傷つくとしても」

数秒の沈黙。

そして、ぽつりと――

「結局さ……」

「何人といたかより――」

「誰と一緒にいられなかったかのほうが、残るんだよ」

……何も言えなかった。

ただ、その言葉だけが――残った。

店に着いて、買い物を済ませた。

見た目は、いつも通りだった。

……でも。

クンゼの言葉が、頭から離れなかった。

何度も、何度も繰り返される。

……まるで、残響みたいに。

向き合いたくない何かを、触られたような感覚だった。

別れて、俺は家に戻った。

ドアの前に立つ。

……まだ、消えない。

あの感覚が。

中に入って、いつも通りのことをする。

腹が減っていた。

幸い、母親が出かける前にご飯を用意してくれていた。

あとは、何か適当に合わせればいい。

台所に立つ。

手を動かしている間だけは――少しだけ、気が紛れた。

時間が過ぎていく。

そして、ようやく出来上がった。

皿の上を見る。

大したものじゃない。

……それでも、自分で作ったものだった。

食べようとした、そのとき。

——ドアを叩く音がした。

手が止まる。

コンロから離れて、窓のほうへ向かう。

誰だ――

そう思って、外を覗いた。

そして――

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