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僕は何にでも変身できるスライムとラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
三章

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44『僕の彼女を紹介します』



 


 


 有によって送迎された僕は、無事、五体満足で我が家へと帰ってきていた。正真正銘のマイホーム、母親と愛しきマイシスターが住む一軒家だ。

 僕が家に帰る頻度は割と少ない。週に二、三回帰るかどうかだ。

 今年の春から単身赴任中の父親は不在であり、我が家の男女比率は2:1――だから気まずいとかそういう訳ではない、僕はただ可愛い彼女たちにかまけているだけ――なのだけど。


「――お兄ちゃん思春期だからさぁ~、家族がちょっとだるくなったのかなって~って思わないわけでもないんだけれども」


 我が妹は、不満げに頬を膨らませて腕を組み、反抗期の息子を相手にする母親かのような態度でやれやれと言わんばかりに頭を振って見せた。

 もはや多様性に配慮した現代社会では少数派である黒髪。黒髪のポニーテールの可愛い妹は、もこもこのパジャマに身を包み僕を尋問していた。


 リビングのソファーである。開口一番に「座れ」と催涙スプレーを片手に持った妹に脅された僕は、成す術なく連行された。机の上には催涙スプレーがキラリと光っている。弁明をしなければ、僕はその餌食だ。


「おいおいマイシスター、僕は家族愛に満ちた人間だぜ? そんな、家族を蔑ろにしているつもりは――」

「だとしても家に帰ってくる頻度が不良少年のそれじゃねぇかよぉ、あぁん?」


 ガラの悪い声を出す妹は、ヤンキー漫画の登場人物ばりにメンチを切ってきた。

 形の良い黒色の瞳が、すっと糸のように細められる。その眼光は鋭い。口元に意地悪な笑みを浮かべた妹は、これ見よがしに催涙スプレーを指先でツンツンと転がし始めた。


「だ、誰が不良少年だ。僕は家族をこよなく愛する善良な小市民――」

「あたしの質問は一つだぜお兄ちゃん。どこの女とよろしくやってんのか。それさえ吐いてくれれば、この催涙スプレーの餌食にならずに済むんだがなぁ?」

「クッ――どこの女とよろしくやってるか、だって?」

「おうとも」

「そんなの――」


 ――どれを言えばいいんだ!?

 

 有かミヤか結姫乃か真白か――まずい、よろしくやっている女の心当たりが多すぎる。誠実なことを言えないからこの話題はのらりくらりと避けてきたと言うのに――かくなる上は――!


 スッ――。僕は無言で財布から千円札を取り出した。

 こくり。妹は頷き、無言で千円札を受け取った。


 それから、札を二つ折りにしたかと思うと、迷いなく僕の頬をぺしんと張り飛ばした。

「いっ」


 ペラペラな紙による、小気味の良い乾いた音がリビングに響く。物理的なダメージは皆無だが、精神的なダメージは計り知れない。


「あたしも安く見られたもんだなぁ」


 妹は回収した千円札をパタパタと扇子のように揺らしながら、愉悦に満ちた声で告げた。賄賂はきっちり懐に収めつつ、制裁を加えることも忘れない。悪徳代官よりもタチが悪かった。


「千円如きであたしがこの特ダネを逃すとでも? あたしを黙らせたいならこの十倍は――」


 僕は無言で財布から一万円札を取り出した。


「……お前マジか」


 妹は黙り、無言で一万円札を見つめた。


「……。……や、流石にそれはNGだって。ネタの領域超えてるし。しまえそれ」


 買収は失敗した。僕は頼りない渋沢の顔を『この野郎』と言わんばかり睨んで、財布の中にしまった。そして、妹は半ば呆れたような目線をこちらによこした。


「や、お兄ちゃんさ、そんなにいやなの? あたしはほら、お兄ちゃんにできた初彼女について根掘り葉掘り聞きたいだけなんだぜ? そんなにあくどいことはするつもりなんだぜ? だというのにその頑なな態度は――」


 妹がハッと顔色を変え、哀れみを含んだひどく湿っぽい視線を僕に向けてきた。



「……まさか、お兄ちゃん。彼女ができたって、見栄を張るための――――嘘?」



 スプレーを握る手が力なく下ろされる。

 妹の脳内で点と点が最悪の形で繋がってしまったらしい。


『彼女の話題を異常なまでに避ける』

『一万円という破格の口止め料を払ってまで隠蔽しようとする』――その行動原理から導き出される答えは一つ。


「ご、ごめん。あたし、傷口抉っちゃった、よね……。無理して強がらなくていいから。ほ、ほら、千円、返すから……ね?」


 妹は申し訳なさそうな態度で、おずおずと千円札を差し出してきた。


「これで何か良いものでも食べて……?」

「哀れむな! いるから! お兄ちゃん彼女いるから!」

「大丈夫だよお兄ちゃん。お兄ちゃんが見栄っ張りなのはあたしもわかってるから。今更引き返せないんだよね……? 大丈夫、なずちゃんはしっかり分かってまっせ……?」


 妹は慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべているが、その足はじりじりと確実に後ずさっていた。僕が必死に「本当だ!」と身を乗り出せば出すほど、彼女の目には『虚勢を張る痛い兄』として映るらしい。

 

 勘違いされたままは癪だ……!


「――写真! 写真を見せれば信じるか!?」

「や、やめなよ……。ネットの拾い画像とか、AIで作った女の子の絵とか見せられても、あたしどうリアクションしていいか分かんないし……」

「そこまでやばい奴だと思われてんのか僕は!」


 完全に本物の不審者を見るような、若干の恐怖すら混じったドン引きの視線。胸の前にギュッと両手を引き寄せ、露骨に物理的な距離を保とうとする妹の態度はさすがに来るものがある。どこまでが演技が分からねぇ!


「待てよ、お兄ちゃんに彼女がいないんだとしたら頻繁に家を空ける訳は……? まさかお兄ちゃん、悪い先輩たちとのつながりが――」

「分かったから! 証拠見せるから!」


 これ以上誤解を広げるのもごめんだ。僕は大人しく証拠を見せることにした。スマートフォンを取り出す。……とは言え、誰の写真を見せるのが正解だ? 真白はそもそも彼女ではないし除外として――有・ミヤ・結姫乃の内から誰の画像を見せるべきか。

 まさか全員彼女ですなんてことは言えない。


『馬鹿な妄想に取りつかれてるんだね……』


 と哀れみの目線を向けられるのは目に見えている。ひとまず一人……! それで、誰が安牌か……この中での安牌? いやそんなん決まってんだろ。という事で僕は、先週撮ったばかりの――結姫乃とのツーショットの写真を見せた。


「……生成AIもここまで進歩したかぁ…………」

「目を逸らすなって。彼女だから」

「……いやいやいやいや、……笑わせんなって愚兄よ。どうやったらこんな姫様みたいな人と付き合えるんだってばよ。なずなちゃん分かってっから。今どきのAIはすごいんだってことをよォ――!」


 割と意を決して写真を見せたってのに……こいつ、信じる気配がねぇ!!


「たまには人を信じる気持ちを持ってみたらどうだ!?」

「お兄ちゃんのことは信じてるよ。だからこそ現代のテクノロジーに頭をやられちまってるのが不憫でならないのさ! お兄ちゃんを正気に戻すまであたしは疑うことをやめねぇ!! どうしても信じてもらいたいなら現物持ってこいや――!!」




 ――と、言う訳で。翌週・土曜日。



「――先月から初くんとお付き合いさせていただいています。白雪結姫乃です」


 使い込まれたダイニングテーブルと、無骨な木製の椅子。

 我が家の見慣れた家具に彼女が背筋を伸ばして腰掛けると、そこだけが切り取られた名画のように錯覚する。美しい水色の髪と瞳を持つ美少女――白雪結姫乃を召喚した。


「うっっっっそぉ…………」


 驚愕を露にする妹と、平然とした様子で受け入れた母。 

『家族に紹介する』という名目で連れてきた結姫乃の格好は気合が違う。上質な生地で仕立てられた深い紺色のワンピース。上品なネックレスに――僕が誕生日プレゼントとして贈った月の髪飾り。本気で彼女として紹介される気満々の彼女は、笑ってしまうくらいに可愛かった。


「ま、マジでお兄ちゃんの彼女さんなんですか……?」

「ええ」

「……ん、んな馬鹿な……。お兄ちゃん! レンタル彼女だなっ!?」

「正真正銘僕の彼女だよ」


 ここぞとばかりに胸を張って宣言し、隣に座る結姫乃の肩に手を置いた。彼女は少しだけ恥ずかしそうに頬を染めながらも、僕の言葉に合わせるように深く、誇らしげに頷いてみせ――


「ええ。――私は初くんの『彼女』よ」

 

 自信満々と言う風に、堂々と胸を張った。妹は「ぐぬぬ……っ」と漫画の悪役のような唸り声を上げ、テーブルの上にがっくりと突っ伏した。


「ぐっ、ぐぬぬぬっ……! あ、あたしのお兄ちゃんが……――ひぎぃ!?」


 何か喚き散らそうとした愛しきマイシスターだったが――頭上から降ってきた手刀によって機能停止させられる。隣に座る我が家の生態系ピラミッドの頂点に立つ存在によって『ちょっと黙ってろやボケが』とお灸を据えられたのである。


「初めまして、結姫乃さん。――いつもウチの息子がお世話になってます」


 母である。我が家で敵に回したらいけないランキング堂々一位の脅威の母と結姫乃が相対し――小一時間後に意気投合した。



「結姫乃ちゃん。ウチのカレーの作り方を教えてあげるわ」

「恐縮です」



 僕は傍らで見ているだけだった。何がきっかけか――と言われると、自惚れでもなく僕の話題がきっかけだったように思う。結姫乃が僕の好きな部分と直してほしい部分を次々に羅列していき、母さんはずっとうんうんと頷いていた。(僕はとても恥ずかしかった)

 とはいえあの打ち解け具合は何なんだろうか……?

 二人が昼食にカレーを作るというので、僕は負傷した妹を背負って、邪魔にならないように二階に避難することにした。

 負ぶっている最中、なずなが呟く。


「うぅ……お兄ちゃん、マジのマジで彼女なの……?」

「おう。マジのマジだよ」


 本当はあと二人? いるけれども……今言ったら事態がややこしすぎる。


「はぁー。はぁー……! あ~~~事前に相談しろよばか」

「なんで妹に相談する必要があるんだよ」

「あ~? そりゃあれよ、兄に相応しい彼女かどうか見極めないと……」

「むしろそこは……僕が結姫乃に相応しいかどうか……心配なんだけどな」

「なんだよそれ。……ばか。大丈夫だって。お兄ちゃんは――」

「お兄ちゃんは?」


 先を促すように問いかけると、妹はぷいっとそっぽを向いた。


「なんでもなーい。ほら、キリキリ運べ。はよっ!」

「分かりましたよお嬢様」


 そうして運ぶ。

 背中の妹の体重は、昔に比べれば随分と重く感じられた。

 一段上るごとに、古い木造の階段がぎしりと小さく軋む音を立てる。悔しそうに僕の首へ回された細い腕の感触に、僕は呆れたような、愛おしいような。


 そうして二階へと歩みを進める僕の耳に、階下から母さんと結姫乃の楽しげな笑い声が届いた。







「……あの子って、馬鹿でしょう?」

「ええ。……私は、彼の、馬鹿なところが……好きになりました。……彼は、常に自分自身の誇りのために戦っています。その姿は、見る人によっては滑稽に見えるでしょうが、私からすれば、ひどく輝いて見えるんです」

「そうよね、あの子は父親似だもの。……ねぇ、結姫乃ちゃん。ウチのバカ息子のことをよろしくね」

「承りました」


 深々と頭を下げる様子に、母親は笑って、「あなたを娘と呼べる日を楽しみにしているわ」と、言った。



 
















 

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