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なんにでも変身できるスライムみたいな化け物と僕はラブラブなハーレム生活を送れるかもしれない。  作者: 最条真
一章

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02 異星体への興味


「俺ってさぁ、宇宙人なんだよね」

 グラスの水を自身の口に傾けながら、宇都宮はそんなことを言った。何を馬鹿なことを、とあの現場を目撃していなかったら笑ったかもしれない。たぶん、本当だ。僕は生唾を飲んだ。

「宇宙人ってさ、どういうタイプの宇宙人?」

「どういうタイプって?」

「色々いるだろ、宇宙人にも。ほら、地球を侵略するタイプだったり、人間と共生を図るタイプだったりさ」

「それなら、俺たちは後者だな」

 宇都宮は笑う。それがあまりにも可愛くて、正直困った。金髪、微乳、ゆるふわ系の美少女がそこにいるのだ。宇都宮が性転換をしたら、こんな感じになるんだろうか。にしては可愛すぎるのだが。

「お前ってさ、……女なの?」

 グラスに入った氷をグラグラと揺らしながら、僕は尋ねる。

 んー、と宇都宮は顎に手を当て、考えるようにサイゼの天井を見た。「どっちでもある、かもな。明確に男だとか女だとか、思った事ねーや」

 宇都宮はくすくすと笑った。口に手を当てて笑う姿は、やっぱり可憐な少女そのものに見えた。いや、こいつは人を殺したばっかりの化け物なんだけど。

「君って女の俺の方が好き?」

 唐突に尋ねてきた。僕は少し困ったが、素直に返答をすることにした。

「好き嫌いはないけどさ……美少女と一緒にいて、いやな気持ちにはならないわ」

「あー。じゃあ、この姿の方がいいのか。分かった分かった」

 宇都宮はいつものように朗らかに笑う。宇都宮の面影があるのに、やっぱり美少女だから、僕の心臓は困っている。美少女に対する免疫は、ないのだ。童貞だもの。

「なぁ月野。君って巨乳と貧乳どっちが好き?」

 またまた唐突だ。そもそもこの話にテーマなんてないのかもしれない。好奇心の赴くままに、宇都宮は尋ねてきた。下世話な男子トークのテンションで言っていいのか疑問だが……ここはあえて素直に。

「大は小を兼ねるって言うだろ」

「つまり?」

「やっぱり大きいのは好きだ。人並みにはな……」

 言いながら、僕は脳内で冷徹な統計データを反芻する。某下着メーカーの最新調査によれば、現代日本人女性のボリュームゾーンはCカップ(約26%)とDカップ(約25%)に二分されており、かつて主流だったAカップは今や5%程度。数値上は豊かな時代だ。

  だが、僕のような夢想家、おっぱいソムリエしてみれば、また足りない。CやDでは足りないのだ。FとかGとかHとか、フィクションみたいな胸を揉みたい。そんなことを赤裸々に語った。

「ほーん」

 宇都宮は何か心得たように頷き、胸に手を当てた。

 それからだった、宇都宮のおっぱいが巨大化していくのは。

「……あ?」

 どんどんどんどん、おっぱいが大きくなっていく。

 目算でCだったおっぱいは変遷していく。

 内部からどんどんと、膨らんでいった。

 

 C→D→E→F→G……と。

 

 まるで夢を見ているのかと思った。

 ところが驚くことにこれは現実で、僕が夢見るような爆乳美少女が、目の前に誕生したのであった。

「嘘だろ……」

 僕はそのおっぱいに、心の底から震撼する。男の夢だ。夢のようなおっぱいがそこにある。なんだこれは……。

「あ、やべ。ブラのホックがちぎれた」

 ブラのホックがちぎれるなんて一体全体どういう事態だ。そうツッコミつつも、次にまた驚異的な出来事が起きた。宇都宮のうなじから発生したような翡翠色の《何か》が服の下に潜っていったのだ。

「うし、補強完了」

 満足げに微笑む宇都宮。いや、お前の体はいったい絶対どうなってるんだよ。化け物なのはなんとなくわかるけどさ。

「そうだ月野、おっぱい揉むか?」

 突拍子のない提案だった。

 

 おっぱい揉むか?

 

 そんな提案が日常生活で行われる確率って何パーセントだ。少なくとも、ゼロに等しい事態であることは理解できる。しかし、今、現実的に、僕の前には奇跡があった。

「ま、じ、で……?」

 僕は確認をした。

「いいぜ」

 宇都宮は笑って、その豊満な胸を強調するに前に押しやった。

 たぷん、そんな音が出そうなほどの重量が机の上に乗った。

「こいよ」

 と宇都宮が挑発的に笑うので、僕は恐る恐る手を伸ばして、それに触れた。柔らかい。いや、柔らかいなんて言葉じゃ、足りない。この弾力は何だ。揉めば、力強く跳ね返し、更に力強く揉めば、指が胸に沈みこむ。揉み揉みと、とにかく男の夢であるそれを堪能する。

 なんだこれは。

 気づけば、僕の瞳は潤んでいた。感動していたのだ。

 おっぱいという神秘に。宇都宮という女神に。

「……ありがとう」

 存分に堪能してから、僕はそんな言葉を漏らす。

 宇都宮は、ははは、と快活に笑った。

「これくらいでいいなら、いくらでも揉ませてやるって」

「マジで?」

「おう、マジマジ。俺の胸を揉んで楽しいかどうかは知らんが」

「楽しくはないぞ。ただ、感激する」

「なんじゃそれは」

 宇都宮は楽しそうに笑った。それにしても、声のせいで認知がバグりそうになる。今の宇津野の声は、女性そのものだ。それもめちゃくちゃ可愛い感じの。普段の男性的な声帯はどこに行ったのかと言うくらい、女の子の声だった。

「なぁ、その声とか姿とかって、どうやって変えてんの?」

 好奇心からの質問。

「ん? 別に難しいことはないぜ。ちょっと《変形》させるだけだし」

「ちょっと変形ってなんだよ」

「俺の種族的な特性の話だよ。宇宙人にも色々いるんだぜ。宇宙人つーか、正式名称は《異星体》な。俺たちは地球以外の星から来たの」

「地球以外の星って?」

あー、それ聞いちゃう? 地球の天文学で言うところの、グリーゼ581gとか、ケプラー186fとか……そのあたりが近いかな。まぁ、俺たちの言葉での呼び方は別にあるんだけどさ」

 宇都宮は水を一口飲み、少しだけ遠くを見るような目をした。

「あとは、ティーガーデン星b。あそこは環境が過酷すぎて、俺たちじゃないと三秒で蒸発するぜ。俺たちは《変身》して何にでも適応できるんだよ。そういう生物なの」

「どういう生物だよ」

 と言うか、今出てきた星の名前がよくわからない。グリーゼとかケプラーとか、なんだよ。クソ、天文学がからっきしだ。

「どういう生物かって言うと……君らの言葉で言うと、スライムが一番近いんじゃないかな。俺の《本当の姿》はそういう形をしてる」

 そんな話をしているうちに、僕たちの頼んだドリアがテーブルにやって来た。ありがとうございます、と宇都宮は頭を下げる。店員は、僕と宇津野を見てほほえましい顔をした。ごゆっくり、と言葉を残してそのまま去っていく。もしかして、カップルか何かに勘違いされたんだろうか。いや、確かにおっぱいは揉んだが。揉まざるを得なかったが、違う。僕と宇都宮はそういう関係じゃない。

 僕は昨日までお前を嫌悪をしていて……だからこそ、今の関係性の定義に難儀しているわけだけど。 

 宇都宮は人間じゃない。その事実を受け入れると、今までの敗北は正当なもののような気がして、胸がスッとするような気持ちになった。 いや、てか、今思い出したけど。

「なぁ、宇都宮。路地裏にアレを放置したまま、サイゼでドリア食ってる場合じゃないだろ」

 宇都宮は呑気にドリアを口に運んで舌鼓を打っていたが、実はそんな場合ではなかった。僕も不思議な高揚感に支配されていたというのもあるが、迂闊だった。あの路地裏には死体があるはずだ。

「んぁ? あー、大丈夫大丈夫。たぶん今頃は《掃除》されてるよ」

「あ? 掃除?」

 宇都宮はまるで、天使のように笑いながら言った。

 

「月野。路地裏では死なない方がいいぜ。あそこは、化け物共がカラスみたいに獲物を狙ってる。人間は栄養価が高いからな。俺たちみたいな《異星体》に、何から何まで捕食されるんだよ」


 淡々と言った。まるで生徒に授業を説く教師のような言いぶりで、豊満な胸を強調するように腕を組みながら、言った。

 事もなげだった。人間の死を、何とも思っていない様子だった。

 宇都宮はミラノ風ドリアからターメリックライスを一口掬った。

「これ、マジでうまいよな。月野もそう思わないか?」

 確認されて、僕もミラノを一掬い。

 安定に上手い。頷き返すと、

「だよな!」

 と、嬉しそうに宇都宮は笑った。 

 笑う姿は可憐な少女そのもの。だが、こいつは殺人を何とも思ってない。それが、少し、怖かった。何故《少し》で済んでいるのだろう? 自分で自分を疑問に思う。それは、きっと、宇都宮だからだ。 宇都宮なら別に、そういうことをしていてもおかしくない、と思った。それだけじゃ理由にならないか。だが、理屈抜きで、僕は目の前の少女が理解不能な怪物だとは思えなかったのである。

「そういや、お前、たぶん……殺されそうになってたよな?」

 僕はあの現場に落ちていた銃と薬莢、硝煙のことを思い出す。

 アレは明確に、宇都宮に向かって放たれたものだった。正当防衛にしては過剰すぎる。

 だが、宇都宮が刃を振るう理由はあったんじゃないか。 

「あー、あれね。正式名称は何だっけな。……確か、《星狩り》? だっけ。ごめん、俺もそんなに詳しくないんだけど、俺たちみたいな《異星体》を狙う、ハンターみたいなやつだよ」

「そういうやつらって、強いんじゃないのか?」

 あの現場を思い出す。宇都宮には傷一つなかった。ただ男が倒れ伏しているだけ。一方的な虐殺にしか、見えなかった。 

 尋ねると、宇都宮は怪しげな笑みを浮かべた。

 

「俺ってそこそこ強いんだよねー。《異星体》の強さを決める基準みたいなのがあって、大体★の数で強さが決められてるんだ。俺は、『★★★(三ツ星)』。一つ★が増えるごとに、大体二倍の強さだと思っていいよ。ちなみに一ツ星の強さは、自衛隊十人くらいの強さなんじゃないかな、たぶん」

「自衛隊十人くらいの強さ、ね……」

 僕は改めて、目の前でミラノ風ドリアを咀嚼する美少女(中身は不定形のスライム?)を見つめた。

 自衛隊員。それは、鍛え上げられた肉体と強靭な精神、そして戦闘に関する高度な専門知識を叩き込まれた、いわば戦闘のプロフェッショナルだ。一人が有する力は、単なる筋力や射撃術の集積ではない。どんな事態にも揺らがぬ精神、そしてあらゆる環境で生き残るための生存術。これらが有機的に絡み合い、銃火器という文明の利器を己の四肢同然に操る領域にまで練り上げられた――戦闘特化の人種たち。

 そんな彼らが十人束になって、ようやく『一ツ星』の足元に及ぶのだ。三ツ星に渡り合うのに必要な自衛隊の数は、単純計算で四十人。

 

 四十人の自衛隊。それは、例えばテレビのニュースでしか見ないような、以下のような《最悪》が現実になった時の数だ。

 

①例えば、都市部への武装工作員の浸入:一国の威信をかけて、重要施設を占拠しようとするテロリストを鎮圧するための最小単位。

②例えば、大規模災害における人命救助: 崩落した巨大なマンション。その瓦礫の下に埋まった数百人の命を、昼夜を問わず掘り起こし続ける。

③クーデターの阻止:もし仮に、首相官邸や皇居に賊が迫ったとき、最後の防波堤として通路に並ぶ銃口の数。


 つまり目の前の少女は純粋な暴力の権化であるということ。

「あー、でも正確には分かんない。一ツ星の奴らって、どんくらい強いのかな。だけど俺があいつらの四倍は強いことは間違い無いはずだぜ」

 まぁ、とにかく、目の前の宇都宮はめちゃくちゃ強いということだ。「ちなみに、星ってどこまであるんだ? 最高でどんくらい強い奴がいる?」

 好奇心から聞いてみた。

 宇都宮は考えるように、顎に手を当てた。

「……俺が会ったことがあるのは『★★★★(四ツ星)』までかな。『★★★★★(五ツ星)』は都市伝説だ。会ったことない。五ツ星が最高だ。どうにも奴ら(五ツ星)は格が違うらしい。その気になれば国一つ滅ぼせるんだってよ」

「……そんな化け物、実在するのかよ」

「俺を見た後で何言ってんだよ」

 宇都宮は快活に笑った。

「あ、でも★の数だけが強さの指標じゃないぜ。実際は《種族特性》とかいろいろ絡んでくるし。俺はそこら辺の三ツ星より強いと思うぜ」

「確かに、なんか変形したり触手出したりしてたな……」

「まぁね」

 宇都宮は楽しげに笑った。

 こいつ、さっきから笑ってばっかりだな。

 ふと、疑問に思った。

「なぁ、宇都宮。僕と話してて楽しいか? 質問攻めだと思うんだが」

「楽しいよ」

 宇都宮は即答した。それから、真剣な表情になって続ける。

「なぁ、俺。人間に自分の正体を明かしたの、初めてなんだぜ。なのに、君ってやつは怖がってないじゃないか。むしろ、楽しそうに見える。それが、すげぇ嬉しいんだぜ」

「そりゃどうも」

 にしても……楽しい?

 僕が?

 それとなく口元に手で触れる。

 確かに、無意識のうちに口角は上がっている。

 

 いや、だって、……楽しむなって方が無理があるだろ。

 元をたどれば中学時代の銃撃戦。誰だって、スリリングでエキサイティングな、特別な何かを心の底では求めてる。

 僕にとってそれは、《宇都宮そのものだ》。

 そう思った。そう定義した。こいつのことが、この世界のことが気になって気になってしょうがない。僕は昔からそうだった、非日常な何かに巻き込まれたいと心の底から思っていた。虚無は、嫌いだ。

 本当は、満ち足りた人生を送りたい。

 だから、僕は、こいつに魅了されているのだと思う。

「宇都宮。僕は今、確かに楽しいよ」

 そう言うと、宇都宮は、本当に嬉しそうに。ようやく友達を見つけたような切実な表情で、笑みを浮かべた。

 

「なぁ、月野。これから俺の家に来いよ」


 宇都宮は告げた。もっと面白いものを見せてやる、と。

 僕は当然のように頷いた。宇都宮有と言う化け物に、魅了されていた。この先の展開なんて知らなかった。

 

 この時の僕は、宇都宮の手によって本物の銃を手に握り、中学時代の焼き直し、本気の殺し合いを経験することになるとは、思わなかったんだ。

 


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