第14話 沈黙
公式発表は、静かだった。
鐘も鳴らされず、広場に人も集められない。
王都は、そういう形で“失敗”を処理する。
告示文は、淡々と掲示された。
《告知》
宗務局の内部監査に伴い、
聖女候補セシリア・アーヴェルは、
当面の間、職務から外れる。
理由は、書かれていない。
だが、それで十分だった。
王都で「理由を書かない処分」は、
ほぼ失脚を意味する。
「……終わった、のか」
騎士が、ぽつりと呟いた。
「いいえ」
私は、首を振る。
「“役を降ろされた”だけです」
セシリアは、間違えない存在だった。
少なくとも、そう“演じられていた”。
だが、責任を問われた瞬間、
その物語は音もなく崩れた。
◆
同じ頃、王城。
エドワードは、窓際に立っていた。
書状を一通、手にしている。
「……皮肉だな」
呟きは、誰に向けたものでもない。
リリアーヌ・ヴァルフォード。
有能すぎた女。
秩序にとって、扱いづらすぎた女。
だから、切った。
だが今、
彼女は辺境で結果を出し、
王都の“想定”を壊し続けている。
「……戻すべきか」
否定できない。
彼女は、必要だ。
だが同時に――。
「戻せば、王都が変わる」
それは、覚悟がいる選択だった。
エドワードは、机に向かい、
新しい書状を取る。
文面は、短い。
《要請》
リリアーヌ・ヴァルフォードに対し、
王都帰還を要請する。
待遇および立場については、
改めて協議の場を設ける。
それは、命令ではない。
“要請”だ。
王太子が、頭を下げる形。
◆
ローヴェ村に、その書状が届いたのは三日後だった。
私は、封を切り、内容を読み、
しばらく黙っていた。
「……王都、戻れって?」
村長が、信じられないという顔で言う。
「ええ」
私は、書状を畳んだ。
「“要請”です」
騎士が、苦笑する。
「……ずいぶん、立場が変わったな」
「変わったのは、立場ではありません」
私は、広場を見る。
訓練された動線。
結界杭。
互いに役割を理解して動く人々。
「“前提”です」
王都は、私を管理できる存在だと思っていた。
だが今は違う。
私は、“機能している現場”を持っている。
「……どうする」
村長が、静かに聞いた。
私は、すぐには答えなかった。
ここは、私が選んだ場所だ。
逃げ場ではない。
拠点だ。
「……行きます」
やがて、私は言った。
村長が、目を見開く。
「戻る、のか」
「いいえ」
私は、首を振った。
「“見せに行く”んです」
何を?
「この村が、
王都の想定より、
ずっと“正しく”機能していることを」
王都は、中心だ。
だが、中心だけでは世界は回らない。
「条件があります」
私は、書状を持ち上げた。
「私が戻るなら、
この村の防衛体制は、
“正式モデル”として扱うこと」
騎士が、息を呑む。
「……要求、というやつか」
「提案です」
私は、はっきり言った。
「王都が変わるか。
変われないか」
村長は、しばらく黙ってから、
深く頷いた。
「……行ってこい」
その声は、送り出す声だった。
「だが、忘れるな」
「はい」
「ここは、
お前の“帰る場所”だ」
私は、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。
◆
出発の日。
荷物は、少ない。
手帳と、最低限の衣類。
私は、最後に村を振り返った。
英雄ではない。
追放者でもない。
ただ、
現場を知る者として。
(王都よ)
(あなたは、
まだ“正しさ”を
一つしか知らない)
馬車が動き出す。
この先で、
王都と、私の物語は――
もう一度、交差する。




