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第10話:ピアスの行方


 さぁ盗まれたエーギルのピアスを探すぞ!と俺が意気込んだその時、エーギルが静かに手を挙げて制した。


  

「待って、何かが近づいてる」

 がさり、と遠くの木がひときわ大きく揺れたかと思うと、何本かの木が大きな音を立てて倒れた。

 俺とエーギルは身構えた。

 

 クロには五感の他に、熱やマナでものを捉える器官がある。向こうに何かが動いている気配はあるが、そいつは熱を持っていない。果たして向こうにいるのは何者なのか──気になって思わず前のめりになる。


 木の揺れが近づいてきた。あと数メートルほどか。


 そこから現れたのは、苔むした巨大なゴーレムだった。灰白色の石体に刻まれた謎の紋様がうっすらと青白く発光している。頭部には二つの穴が開けられており、そこがひときわ強い光を放っている。あれが目なのだろう。

 

「ほお、これはもしやゴーレムという奴か!だからが熱がなかったんだな」

 

 俺は竜生初のゴーレムに少しテンションが上がり、小走りで近づいた。ゴーレムの大きさは俺より一回り小さいくらいだ。俺は小山一つくらいの大きさだから、こいつは結構大きい方なのだろう。


「クロ、近いたら危ないよ!」

「心配するな、この程度俺の敵じゃないぞ」

 

 見たところこいつはそこまで強くなさそうだし、俺の鱗はとても硬いので防御力にも自信がある。

 落石のような拳の雨をかわしつつ接近して、クンクンと匂いを嗅いでみる。匂いはただの石と変わらない。観察しても特に興味を惹かれるものはなかった。分かるのはとにかく古そうだということぐらいだ。

 

「古くてちょっと大きいだけのゴーレムか?」

「ただのゴーレムじゃないよ、これはエンシェントゴーレムだ」

「どう違う?」


「神代から存在する不朽の石兵だよ。ゴーレムは自然発生した奴と人工の奴がいる。エンシェントゴーレムは後者で、何かをを守るために作られた奴なんだ。おそらくあれが来た方向にダンジョンがあるのかも」

  

 「ダンジョン!?なら秒で倒して行くぞ!!」

 

 ダンジョンと聞いて、上がったテンションを抑えきれなかった。


 「あっクロちょっと…!」


 尻尾で薙ぎ倒してもいいが、ドラゴンブレスで焼き尽くす方が気持ちいい。

 俺の昂ったテンションそのままに放たれた最大火力のドラゴンブレスで、エンシェントゴーレムは秒で跡形もなく焼滅した。

 あとに残ったのは黒焦げのクレーターだけだ。



「貴重な素材が……」エーギルは絶句した。

 

 俺はそんなエーギルの様子を見て正気に戻った。

 「す、すまん……ついいつものクセでうっかり」


 申し訳なさそうに頭を下げるクロ。力加減があまり得意ではなく、よくさっきのゴーレムのように燃やしてしまうのだという。

 大きく獰猛な牙が並ぶクロの口からキュゥ〜ンというか細い鳴き声が漏れた。子ドラゴンが親に甘える時に出す鳴き声に似ている、とエーギルは思った。

  「クロがあまりこの世界のことを知らない理由がとてもよく分かったよ……」

 

 ──そうして、俺にヴァーレンベルク大樹海滞在中のドラゴンブレス禁止令が下された。エンシェントゴーレムからとれる素材はとても貴重なものだそうだ。


 一通りエーギルの説教を受けた後、まだ少し元気がないエーギルを乗せてエンシェントゴーレムの足跡を辿っていった。

 

 不思議なことに、あの子狼達の匂いがする方向は、ゴーレムが来たのと同じ方向だった。もしかすると、子狼達はダンジョンから来たのだろうか?


 慎重にエンシェントゴーレムの足跡を辿っていくと、その先には太い木根に埋もれた大きな洞窟──いや祠があった。よく見ると入口のふちにうっすらとレリーフの跡があり、内部の床は真っ平で、明らかに人工物だ。

  

 その祠の入り口はドラゴンの俺でも入れそうなほど大きい。祠の入口は崩れかけており、木の根がカーテンのようにぶら下がっている。もしかすると元々は扉があったのかもしれない。 

 こんなジャングルの奥深くに人工物があるなんて……。


 突然エーギルが俺の背から飛び降りて、入口の近くでしゃがみ込んだ。

 どうしたのかと尋ねると、あの子狼に盗まれたピアスがエーギルの手のひらにあった。

 入口の真ん中にこれが置いてあったのだという。


 銀の金具に雫形の青い宝石、それは間違いなくエーギルのピアスだ。 


 いかにもこの中へ入ってください、というような感じだ。俺たちはあの子たちに招かれているのか?


「中は結構暗……くないな。この石材が光っているのか」

 祠内部の壁にあのゴーレムと同じ石材が使われており、淡く光を放っていて足元が見えるぐらいの明るさだ。青白い光でほんのりと照らされた空間はとても幻想的だった。青い光のため一見すると氷の世界のようだが、不思議と寒々しい印象はなく、逆に温かく感じる。


「こんな石があるなんて……」エーギルが興味深そうに壁を調べている。

 石畳の上に落ちていた石材のかけらを拾ってみると、床や壁のようには光っていなかった。この石は電気のように何かを通すと発光する性質なのだろう。

 

 祠の中はとても静かで、不自然なくらいに生き物の気配がない。

 薄暗い通路と階段が交互にずっと続くばかりだった。 

「こんなに魔物が出ないのは初めてだ。魔物避けの魔術でもかけられているのかな……?だとしたら間違いなく伝説級の魔術師だ」

 

 道中いくつか分かれ道があったが、エーギルが精霊たちの案内にしたがって行く方向を選んだ。

 延々と階段を降りていく。結構階段を降りた気がするぞ。そろそろ歩くのがだるくなってきたので、寝転がりたいが、ドラゴンの俺が寝転がれるような広いスペースはなかった。 

 

「ちなみに反対の方に行ったらどうなっていたんだ?罠とかか?」

「罠はないけど、床が脆くなっていたり、とても深い穴があるみたいだ」

 

「ここは一体何なんだ?魔物も罠もないなんて、俺が思っていたダンジョンとは違うぞ」

 俺がそう言ったところで、奥の方から冷たく湿った風が吹き込んできた。

 

 これは水の匂いだ。明らかに空気が変わってきたのをエーギルも感じ取ったらしく、思わず二人で顔を合わせた。


 歩きながらエーギルが口を開く。

「俺が思うに、恐らくここはダンジョンじゃなく───」


 殺風景な景色にすっかり飽きていた俺たちは、知らず知らずのうちに早足から駆け足になっていた。

 曲がり角を通ると、徐々に明るくなってきた。陽の光だ。

 薄暗い祠の中にすっかり慣れてしまった目が強い光に眩み、再び瞼を開けると、驚きの光景が広がっていた。


「恐らく通路だったんだ、ここへの……」


 ───祠を抜けると、そこには大きな水没都市が広がっていた。


 水紋一つない鏡面のような水に浮かぶ白亜の廃墟。

 ほとんどの建物は木の浸食や風化で崩れていたが、相当な規模の都市だ。

 かつては美しい都市だったのだろう。水中に沈んだ瓦礫でさえもまばゆいほど白い。

 都市の中央にある大きな建物のアーチ屋根の上に、巨樹がこの都市を守るように堂々と根を張っていた。その巨樹は遠い対岸側にいる俺たちから見ても、見上げるほど大きい。

 その姿はさながら最後の一人になるまで守り続けてきた、荘厳な守護者といった趣だ。


「これは……凄いね……」

「ああ……俺より大きなものは初めて見る気がする」

 

 周囲を見回すと、都市をぐるりと囲むように白い塀が上まで続いていて、吹き抜けのようになっていた。

 この塀といい、瓦礫に混じる彫刻や装飾、建築様式からして、相当な技術と文化を持っていたことは明らかだ。

 

 俺が景色に見惚れていると、エーギルがプレゼントの開封を待ちきれない子供のような顔で俺の脚を揺すりながら言った。

 「クロ、とりあえず中に入って冒険しようよ!!」

 「お、おう……」

 

 俺たちが立っている場所と、都市の入り口と思われる橋まで結構離れている。泳いで渡れるような距離ではない。

 昔はここに橋や船着場があったんだろうな。濁りなく透き通った水中に、かつての姿を思わせる瓦礫や船の残骸が沈んでいた。

 

 ──面倒だな、飛ぶか。

 

 エーギルを乗せようと翼を広げると、すぐ隣にいたはずの彼がいないことに気づいた。

「……エーギル?」

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