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ユートピア・アラート 〜超能力少年と不可思議少女の世界革命〜  作者: 赤嶺ジュン
ユートピア・アラート8 エゴイズム・フェスティバル(後編)
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エピローグ


エピローグ



 聖天祭前日の夜。


 突然、何の断りもなく姿を現したルーク・エイカーに、私は戸惑いを隠すことができなかった。彼の行動には、いつも合理性が存在した。だが、いくら考えても、私は彼がしたことに、意味を見出すことができなかった。


「……ルーク。貴様、どうしてここにいる?」


 アパートの私の部屋の前に立っていた白い服の男は、銀縁の眼鏡を持ち上げて私を見据える。


「どうして? 僕がここにいるのは、そんなに不思議なことかな?」


「直接の接触は避けるべきだと、貴様自身が言っていただろう。忘れたのか?」


 私は戸惑いを隠せないまま、ルーク・エイカーへと近づいていく。


 白い詐欺師は両手をポケットに突っ込んで、唇の端を持ち上げた。


「ククク」


「ん?」


「ハハハ。アッハッハッハ!」


「……貴様。まさか」


「そのまさかだよ。いやー、うまくいくもんだな。コスプレショップって偉大だわ」


「御影奏多か」


 ルーク・エイカーの姿をした御影奏多の姿を、よくよく観察している。確かに声姿はまったく同じだが、立ち方や服の感じがまるで違う。


 我ながら、チープなトリックに引っ掛かったものだった。御影奏多が他者の姿に変われるようになったという情報は、既に持っていたというのに。


「駄目じゃねえか。超越者が裏切り者のルーク・エイカーに対して、そんな親し気にしちゃ」


「別に親しく思っているわけではないが」


「そう見えることが問題なんだよ。直接の接触は避けるべきだと口にした時点で、てめえの負けだ。お前とあの詐欺師は裏で繋がっていた。そうだろう?」


「ひとまず、その声と姿をやめてくれ。どうにも違和感がある」


「ああ。それじゃあ、先に部屋に入っていてくれ」


 彼の提案に頷きを返し、私はアパートの部屋の中に入る。廊下と応接間の電気をつけ、台所でコップを二つ用意し、蒸留水を注ぎ込む。


 数分後、元の姿に戻った御影奏多が私の前に姿を現した。手足がルーク・エイカーより短いため、上着の袖は下にたれ、ズボンの裾を引きずってしまっていた。


「これだから戻るのは嫌だったんだよ」


「需要はあると思うが?」


「何の話だ……」


 机を挟んだ反対の椅子に腰を掛けて、彼は顔をしかめる。


 私が水の入ったコップを指し示すと、彼はコップを見て、私を見て、コップを見て、こちらの正気を疑うような目を向けてきた。


「安心しろ。狭く安い家だが、浄水器は最上級のものを使っている。健康第一だ」


「あー、はいはい。そうだよな。お前はそういう奴だよな」


 彼は嘆息して、水を口に含んだ。


 どうも私は、また何かを間違えてしまったようだった。


「確認するぞ。お前は治安維持隊に対する公理評議会側のスパイで間違いないな?」


「半分正解だ」


「というと?」


「私は彼の協力者ではあるが、あくまで情報提供者にすぎない」


「いや、そういうのをスパイと……」


「違う。私は治安維持隊を害する気は毛頭ない」


「……」


「七年前のアウタージェイル掃討作戦の後に、彼は私に言った。治安維持隊には、敵対組織が必要だと。仮想敵のいなくなった組織に、未来はないと」


「だから、公理評議会に……ルーク・エイカーに協力した」


「情報管理局の権力は急速に失われ、治安維持隊一強の状態になることは火を見るより明らかだった。実際、ヨコハマ騒乱で管理局は治安維持隊に降った。ケース・ニーラント局長が円卓に迎い入れられ、ヴィクトリアの支配体制は盤石となった」


「だがその裏で、ルーク・エイカー率いる評議会が力を付けていった」


「私だけではなく、多くの協力者がいたのだろう。一つ、私からも聞いていいだろうか?」


「どうしてお前が評議会と通じていることに気が付いたのか、だろ?」


 御影の問いかけに、私は頷きを返した。


「そりゃ決まっているだろ。俺が四月一日に、生き残ったからだ」


「……」


「あの日に起きたことは、全て詐欺師のシナリオ通りだった。だとしたら、俺とお前の邂逅も、偶然であるはずがない。地下を移動していた俺が顔を出したところに、丁度お前がいたっていうのは、いくらなんでもできすぎだ」


「私が有能だから、で片づけられるかもしれないぞ?」


「なら、どうして俺を殺さなかった。クソアマがいたからは無しだぞ。最初の一撃は俺の肩を貫いたが、最初から殺す気ならあんなことをする必要はねえ。心臓を一刺し。それで終わりだ。お前ほどの奴が狙いを外すわけがねえしな」


「貴様を捕らえるように命令されていたのかもしれない」


「ああ、そうかもな。だけど疑うには十分だった。そして結果はこれだ。俺のトラップに引っ掛かって、お前はボロを出した」


「なるほどな」


 私はテーブルのコップを持ち上げ、水を飲む。


 やはりこれが紅茶やコーヒーである意味は基本ないなと、まったく関係ないことを考えながら、私は続けて口を開いた。


「それで? 貴様は何がしたい?」


「……」


「確かに私は治安維持隊を裏切っていた。私としては裏切っていたつもりはないが、ヴィクトリアならともかく、ジゼル・カスタニエはそうは思わないだろう。貴様は私を脅迫できる、というわけだ」


「お前が脅迫なんて恐れるタマか?」


「まあ、恐ろしくは無いな。どうしたものかと困りはするが」


「ホント、面白みの欠片もねえ男だよな、お前」


「そうか? よく、面白い人間だと言われるが」


「そういうとこだからな? お前、本当にそういうところだからな?」


「無駄話はここまでとしよう。裏切りの事実をネタに、貴様は私に何を求める?」


 私の問いかけに対し、御影は首を横に振った。


「別に何も」


「……何?」


「少なくとも、今はまだ、な」


「……」


「予感がするんだよ。もうすぐ、俺の知る何かが変わる。それが何かはわからねえ。だけどきっと、その何かのために、俺はまた世界を敵に回すことになる」


「随分と、根拠薄弱な未来予想だな」


「まったくだよ。だが、もしそうなったら、俺は怖くて足を踏み出せないかもしれない。世界を敵に回すなんて、荷が重すぎると思うかもしれない」


「それが、普通の人間の反応だろうな」


「だから。お前に、俺を助けて欲しい」


 そう言って、彼は私のことをまっすぐに見つめた。


「……弱いな。交渉材料が弱すぎる」


「だろうな」


「天秤が釣り合わない。世界が滅べば、治安維持隊もなくなる。裏切りがあったという事実に、意味がなくなる」


「わかってる」


「それなのに、なぜ?」


「最初から交渉するつもりなんてねえ。治安維持隊を裏切っているかどうかも、脅迫の材料にするためというよりは、単なる確認作業だ。ただ俺は、お前に伝えたかった。俺の望みを」


「望み、か」


「話はそれだけだ」


 彼は椅子から立ち上がり、玄関の方向へと歩いていく。


 扉が開けられ、夜の冷気が侵入してきたところで、私は彼の後ろ姿へと言葉を発した。


「貴様の知っている通り、私は隣に立つ者の感情を最優先する。貴様が心から世界を敵に回すことを望むなら、私に助けを請え。だがそこに偽りがあると判断すれば、その場で貴様を殺す。治安維持隊の兵器としてな。私はそれができる人間だ」


「……ああ。知ってる」


「ならばいい。一度だけだ。私とルークの関係を看破したことに敬意を表し、一度だけ機会をやろう。それが無為に消えるか否かは、貴様次第だ――」



  ※  ※  ※  ※  ※



 回想が終わり、私の意識は暗闇から浮かび上がる。


 目を開け、体を起こす。私は複製された公理議事堂の庭に寝かされていたようだった。


 門のある方向へと顔を向ける。御影奏多がこちらを見つめているのと、目が合った。


「頼むレイフ。助けてくれ」


 その決意に満ち満ちた言葉に、私は微笑を浮かべた。


「もちろんだ」




……Let's Start!!


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