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暴君陛下は人の心が読める~本音しか言わない元ヤン令嬢を溺愛中~  作者: S@Y@


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第七十一話 地下に待つもの


 眩い光が二人を包み込んだ。


 次の瞬間。


 カイゼルの手から、レイナの手が離れた。


「レイナ!!」


「カイゼル!!」


 声だけが響く。


 レイナの身体は、光の中へ引きずり込まれていった。


 カイゼルはすぐに手を伸ばす。


 しかし。


 指先は何も掴めなかった。


 光が消える。


 そこに残ったのは。


 崩れた床と、深い穴だけだった。


「……レイナ?」


 返事はない。


 カイゼルは穴の中を覗き込んだ。


 暗闇が広がっている。


「レイナ!!」


 叫び声が地下へ落ちていく。


 だが。


 返ってきたのは、かすかな反響だけだった。


「陛下!」


 後方からアルベルトが駆けてくる。


 その顔には、明らかな焦りが浮かんでいた。


「レイナ様は!?」


「地下へ落とされた」


「……っ!」


 アルベルトが穴を覗く。


「救出部隊を――」


「必要ない」


 カイゼルは立ち上がった。


「余が行く」


「しかし、地下の構造が分かりません。罠の可能性も――」


「分かっている」


 カイゼルの声は低かった。


「それでも行く」


 カイゼルは穴へ手をかざす。


 冷気が一気に広がった。


 地下へ続く壁が凍りつき、崩れた瓦礫が次々と固まっていく。


 そして。


 氷で作られた階段が、穴の中へ伸びていった。


「アルベルト。地上を任せる」


「陛下、お一人で行かれるおつもりですか?」


「レイナを連れ戻す」


「ですが――」


「余の命令だ」


 アルベルトは一瞬だけ黙った。


 カイゼルの目を見れば。


 止められないことは分かる。


「……承知しました」


 カイゼルは氷の階段を下りていく。


 その姿が暗闇へ消えた。


 ◇ ◇ ◇


 レイナは、冷たい床の上に倒れていた。


「……痛っ……」


 ゆっくり身体を起こす。


 頭が重い。


 視界もぼんやりしている。


「ここ……どこ?」


 周囲を見回す。


 そこは地下の広い部屋だった。


 壁には古い燭台。


 床には、先ほど自分を引きずり込んだ魔法陣が残っている。


 そして。


 目の前には、頑丈な鉄の扉。


「……また閉じ込める気?」


 レイナは立ち上がろうとした。


 だが。


「っ……!」


 足に力が入らない。


 膝をつく。


「……まだ、結界の影響が……」


 身体が思うように動かない。


 その時。


 扉の向こうから、ゆっくりと足音が近づいてきた。


 カツ。


 カツ。


 カツ。


 レイナは壁に背を預け、身構える。


 扉が開いた。


 現れたのは。


「……お父様」


 アルフォード公爵だった。


「目を覚ましたか」


「ここから出して」


「それはできない」


「なら、カイゼルを呼んで」


 公爵の表情が歪む。


「皇帝陛下はここには来ない」


「来るよ」


「地下の場所も分からぬのに?」


「絶対に来る」


 レイナは公爵を睨みつけた。


「カイゼルは、アタシを見捨てない」


「……随分と信頼しているようだな」


「当たり前でしょ」


 公爵は鼻で笑った。


「その信頼が、いつまで続くか見ものだ」


「何をするつもり?」


「何もしない」


 公爵は部屋の中へ入ってくる。


「お前には、ここで暮らしてもらうだけだ」


「暮らす?」


「屋敷の地下には、使用人が足りていない。食事の準備、洗濯、掃除。やることはいくらでもある」


「……」


「皇宮で甘やかされていた分、これからは以前のように働け」


 レイナの手が震えた。


「……本当に、それだけ?」


「それだけだ」


 公爵は淡々と答えた。


「お前を殺すつもりも、傷つけるつもりもない。働いてさえいればな」


「ふざけないで」


「現実を見ろ」


 公爵は扉の方へ戻る。


「皇帝陛下が助けに来るまで、せいぜい夢でも見ていろ」


「待って!」


 レイナが叫ぶ。


 公爵が振り返った。


「アタシは、絶対にアンタたちの言いなりにはならない」


 公爵は冷たく笑った。


「その強情が、いつまで続くか楽しみだ」


 扉が閉まる。


 鍵が掛かる音が、地下室に響いた。


 レイナは拳を握りしめる。


「……絶対に、負けない」


 その時。


 遠くから。


 かすかな音が聞こえた。


 カツン。


 何かが、石の階段を下りてくる音。


 レイナは顔を上げた。


「……カイゼル?」


 足音は。


 少しずつ。


 確実に近づいてきていた。

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