6. 《熱界の魔術師》
「····。まだ悩んでるの?」
今日も今日とて、魔術師なるか問題を議題に、食事の席で母親とぶつかり合い、拗ねてベットに横たわったアヴィスに、母が呆れて声をかける。
「分かった、じゃぁ」
そっぽを向いたアヴィスを、ベットから引きずり出して床に転がし、母は大声で叫んだ。
「アヴィス!!魔術師になりなさいっ!!」
◇◇◇
「魔術·····即ち、空間中に漂うエーテルを操り、現象に介入し、それらを加工する技術。」
〝導道の魔術師〟フリッツは、そう言って地面に落ちた小石を拾う····。二、三度手の中で転がしたその小石を宙に浮かせて、フリッツは続けた。
「例え魔術師でなくとも、魔術に関する知識すら無かったとしても、誰でもこの程度はできる。恐らく君もやった事があるだろう。」
確かに、小石を浮かせたり水の球体を投げつけるのは、子供の頃は誰しもやる遊びだ。
かく言うアヴィスも、水の球体の中に物を入れて浮かせる遊びが、子供達の中で一番得意だった。
「なぜ小石が空中に浮くか····。簡単に説明すると、我々が体内に保有するエーテルの意思に、空間中のエーテルが従うからだ。」
「従う·····」
「体内のエーテルが、皮膚の外側····空間のエーテルに司令を下す。空間中に漂う無数のエーテルは、それに共鳴して、術者の思い描く動きを取る。
体内のエーテルは、血のようなもので、身体中を循環し続けている。外に出ることはあまり無く、人間の保有する体内エーテルの量は生涯変わらない。」
小石を落とし、手でキャッチして、フリッツは続ける。
「よって、体内に保有するエーテルの量には個人でのバラツキがでる。これを〝魔力値〟と言う。〝魔力〟が高ければ高いほど、高威力で大規模な魔法を展開できる。」
所々に専門用語が出ていて、完全に理解した訳では無いが、大体分かったことを伝えるために、アヴィスはコクリと頷いた。
「魔術師と一般人の最も大きな違いは、〝魔石〟にある。····魔術師は、体内に〝魔石〟を埋め込む事で、自らの体内エーテルの活性化を図る。」
フリッツはそう言って、アヴィスの手から真っ赤な魔石を取り上げて、それをアヴィスの額にかざす。
「通常、エーテルは体の奥を流れている。一説には骨の芯とも言われているが。人体の中で、エーテルの流れ道が最も体外に近いのが額だ。だから我々魔術師は、額に魔石を埋め込む」
「額に埋め込まれた魔石は、魔術師の体内で渦巻くエーテルの力を増幅して体外に放出する。つまり、より強力な魔法が放てる。」
「埋め込まれた魔石は、血管と繋がる。文字通り体の一部になる。その事を理解したか?」
フリッツの言葉に頷く。それに頷きを返してフリッツは、黒いローブの内から一本のナイフを取り出す。
「少し痛いが、我慢しろよ」
拳を握って目をつぶったアヴィスの額に、深く切込みを入れる。手早く肉を掻き分けて、その小さな隙間に魔石を入れ込んだ──、
「終わったぞ」
恐る恐る目を開いたアヴィスに、手鏡を渡す。
くすんだ金髪の隙間で、太陽の光を受けた魔石が赤く輝くのを、自分の薄赤の双眸で見詰めた時、アヴィスは魔術師になった。
風を受けた金髪が靡く。手鏡を下ろして、アヴィスは西日を反射させる水路の光に目を細めた。




