12. 「アーバムにて③」
「〝天空の巨人〟·····、我々人類が生まれるその遥か以前から、この大空を揺蕩っていたとされる神代の建造物····」
昼過ぎ───、誰もいなくなった食堂の席に座り、ゼペットは口を開いた。
「その正体は謎に包まれている。古代の兵器なのか、或いは馬車の様な移動手段の類なのか····これまで多くの研究者達が、その謎を解こうと奮闘してきた····」
「〝天空の巨人〟は、この大陸の空を二十年の月日をかけて一周している。歴史を表す年号すらない昔から、寸分の狂いもなくだ。」
母の言葉が思い出される。
〝二十年に一度、この村を通る〟
奥の奥、装飾のついた大きな扉····。
この一ヶ月、気が狂う程にまで見た幻影を、見落とした所がないか疑うように、再び凝視しながら、アヴィスは口を動かす。
「どうすれば·····あの中に入れる?」
「ふーむ····」
どこか狂った──、何か一つの物に取り憑かれた人間特有の、狂気を含む笑顔を見せて、ゼペットと名乗った老人は、灰色のあごひげに手をやる。
「そこだ····。当然だが、内部に侵入した者の前例はない。」
口で笑みの形を作ったゼペットが、二人の顔を見る。そして少し間を置いて、自慢げに語りだした。
「私は長年の研究で、〝天空の巨人〟の移動経路を完全に記録した。」
そして···、と続けたゼペットは、ボロボロだが、まだかなりしっかりとしている皮のカバンから地図を取り出した。
「天空の巨人の内部に入る方法を見つけた」
アヴィス達に顔を近づけ、囁いたゼペットは、顔を元の位置に戻して、コップの水を飲み干す。
「この世で知っているのは私だけだ。他の者が気付かぬ内に、〝天空の巨人〟の内部に侵入するつもりだった。」
「だが、エリックを連れてきたのが運の尽き····。あのバカは!つまらん食い意地を張って体調を崩して、旅から脱落しおった!」
「協力者が必要なわけか····」
「そうじゃ···。それも、丈夫で強いのが。」
「乗った。」
ゼペットの皺の寄った手を叩いて、アヴィスは迷わず言った。
どちらにせよ、〝天空の巨人〟に詳しい人間が必要だ。
win-winの関係が築けそうだ。
このじいさん····ホンモノみたいだし。
「いいよな、アベル」
「いいよ」
額の薄氷色の宝石に、食堂のランプの光を映して、アベルは同意した。




