11. 「アーバムにて②」
「起こしてくれりゃ良かったのに····」
朝食の終了時間が迫る中、人もまばらになった食堂で、一人シチューとパンを掻き込みながら、アベルはムスッとした顔でアヴィスに毒ずいた。
「よく寝てたから····起こすのも悪いかなって」
「····」
爆速で木の椀のシチューを腹に流し込み、仕上げにコップの冷水をひと息に飲み干して、アベルはため息をついた。
「そうだアヴィス、これ」
「ん?あぁ」
アベルから、愛剣〝ウィングス〟を受け取る。
「宿屋だからって油断すんな、武器は常に持っとけ····盗難防止にもな」
「そうだな」
旅路での噂だが·····最近、貴族の名家の雲行きが怪しいそうだ。
具体的には、世界四魔剣のうちの一つ《轟の剣》を保有するとされている〝トニトルス家〟が、各地に秘密裏に使者を送って何事か企んでいるらしい。
あまり俺達には関係が無さそうだが、貴族の····特に強い力を持つ、名家の影響力は計り知れない。
『龍が歩けば地面が揺れる』····間接的に治安が悪くなったり、何か問題が起きないとは限らない。
「で、どうする?巨人に挑むんだ····まずは雪山登山用の装備を───」
「お前さんら」
「「ん?」」
斜め後ろのテーブルに、声の主はいた。
「今、〝天空の巨人〟といったな?」
「····。あぁ」
「君ら、詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか?」
◇◇◇
「松明の掛けられた石の壁に、立派な装飾の施された木の扉·····か」
旅の道中、夢の中で幾度となく見た景色。
アベルに何度も説明していたお陰か、その記憶の細部までを、語って聞かせることが出来る。
「もしや、その装飾····こんな感ではなかったか····?」
老人はそう言って、片付けられた食堂の木のテーブルの上に、拳程の大きさの木の彫刻を置いた。
ガシャガシャとした───、そう形容するのが最も近いだろうか···。
よほど古いのか、像の表面は柔らかくささくれている。所々には、かつて黄色く塗装されていたと推測できる黄色のシミが付いている。
「····」
テーブルに立てられた木の像は、不気味で····どこかユーモアのある顔をした小人だった。
その独特の質感と、施されている装飾技術は、アヴィスが嫌という程───渇望して止まない物を〝閉じ込めて〟ある、木の重厚な扉の物と酷似していた····。
いや、完全に一致していた。
「あんたは·····?」
「おぉ、申し遅れた。私の名前はゼペット···、〝ゼペット・フォン・アスベルタス〟だ。」
老人は、老いを見せない軽々とした動作で椅子から立ち上がり、続けた。
「〝天空の巨人〟研究の第一人者にして、己の半生四十年を〝天空の巨人〟に捧げた変人よ」
「···そんなあんたが、なんで俺達に?」
「道中で連れが倒れてしまってな、君達には、巨人の内部に侵入する手伝いをしてもらいたい。無論タダでとは言わん。」




