〜壱〜
教室の中で外の桜の花弁が舞うのを、一人で眺めていた。桜の木下には、髪の長い女子生徒が一人で散りゆく花弁を捕まえて楽しそうに笑っていた。
高校二年生の春
僕は重い足取りで、教室から出て誰もいなくなった放課後の廊下を歩いていた。
麗かな風が吹き入れる廊下には、数々の生徒名が書かれた紙が貼られている。僕はその前で目を閉じ、深呼吸をする。
ホトトギスの鳴き声を聴きながら、とある言葉を思い出した。
『春は別れの季節である』
この時期になるとよく耳にする言葉である。
これまでの環境への別れを惜しみ、今迄がどれ程良い日々であったかを改めて感じ悲哀に浸る季節である事を語っている、と僕は解釈している。
それと関連して、もう一つの言葉を思い出す。
『春は出会いの季節である』
この言葉には新たな環境での、新しい関係に喜びを感じる季節である事を語っている、と僕は解釈している。
これらのように、春を題材とした諺や名言は多い。それほどこの季節が、何らかの影響を多くのものに与えている事が窺える。
僕にとって、春に関する言葉の数々は納得のいくものではない。
と、いうよりも。
新しい環境が記されたこの紙の内容により、僕はこれらの納得出来るか否かを判断する事が出来るのだ。
嬉々とした雰囲気が過ぎ去った後の廊下で、僕は一人で新クラスのメンバーを見て…絶望した。




