72 異世界モノの視覚叙述トリックと真犯人
俺達は騙されていたんだ!! な、なにぃ――っ!!
「なんでここまで『異世界モノ』とかが流行ったんですかねぇ。やっぱりインターネットのせいでしょうか」
という感想を口にする雪奈。手元にはタブレット、そしてテレビのリモコンで録画した番組を確認している。よく見ればタブレットでは『来季からの新作アニメ』という検索ワードで何やら調べているところだった。
「面白いアニメが当たったからじゃないの?? 」
「まあそういう理由もあるんでしょうけど」
春奈の意見に僕も同意。何かしらの面白いマンガとか小説とかの原作のアニメとかドラマが流行ると、それに乗っかった商品とか似たようなマンガとかが増える気がするし。
「昔はここまでじゃ無かったと思うんですよ。むしろ海外小説の定番でした」
「そうなの?? 」
昔っていつぐらいの事だろう。あと、昔からあるジャンルだったのかなぁ。なんかちょっと前に調べたら、わりと最近になって流行り出したっぽいんだけど。
「昔は欧米で安い小説の冊子なんかを『ペーパーバック』とか言いましてね」
「うん」
「全ページ袋とじ状のページを、『ペーパーナイフ』っていう、手紙の封なんかを開封するための鉄板みたいなナイフ?? で切り開きながら読んでたらしいんですよ。さすがに日本で欧米の娯楽小説が輸入されて一般で販売されてた頃にはペーパーバックなんか存在しなかったと思うので、そもそも『ペーパーナイフって何?? 』っていう感覚だったと思うんですけど」
「うんうん。あたしも知らない」
うん。雪奈が欧米人だった可能性は消えたかな。ちょっと不思議な感じもするんだけど全く違和感を感じないような気もする。それに僕もペーパーナイフっていう概念をはじめて知った。そんなのあったんだ……
「でも外国のSF小説やファンタジー小説やらが翻訳されて入ってきた頃には、すでにそういう『異世界転移モノ』とか『タイムスリップ系』とかは存在してたんですよ。近ごろ流行りの『コンピューターゲーム的なシステムが存在する謎世界』というのは無かったと思いますが、それ以外の要素はその頃からあったんですよねぇ」
「それっていつ頃なの?? 」
「うーん…… 30年以上前くらいには…… そういう小説を読んだ…… という人の話を聞いた事があるような無いような…… その人の話では、お兄さんの蔵書の中にそういうのがあった、らしいです」
30年以上前か。うーん…… 色々と考えてしまうなぁ。その小説を読んだ人そのものの人物背景とか、そういうのを。あと、お兄さんの本っていう事はもう少し前の本という可能性もあるのかな??
「それってどういう話だったの?? 」
「お姉ちゃんが好きそうな話でしたよ」
春奈が好きそうな異世界系か。現代知識で無双する!! とかいうヤツだろうか。
「どんな話?? 」
「現代…… と言っても当時のものですが、アメリカだかイギリスだかの歴史オタク風味がある機械系技術者がアーサー王時代のイングランドにタイムスリップして、現代人の知識と科学技術で技術無双する話です。ご意見番としてマーリンが出てきたと思うんですけど、魔法は使って無かったような…… 」
ありゃ。だいたい当たっちゃったよ。
「へぇ――!! で、どんな感じ?! 」
「当たり前なのですがタイムスリップしてきた現代人なんて不審者以外の何者でもないので『怪しいやつめ!! 』と捕まってしまい監禁された上で処刑されそうになるのですが、処刑されそうになるところを三国志演義の諸葛孔明みたいなペテンで切り抜け、科学という魔法で攻め寄る敵をビビらせて追い払ったり何やかやで尊敬されたりしてヒャッホイする話です」
物凄くおおざっぱすぎてよく分からないけれど、異世界無双系のマンガを当てはめて想像してみると何となく分かったような気になった。とにかく現代の科学技術で科学知識の無い中世ヨーロッパの人を驚かせて尊敬される、みたいな話だと思う。主人公は技術者みたいだし色々と機械なんかも作れそうだ。科学知識や機械の知識で尊敬されたんだろうな。実際、アーサー王の時代っていうのがどのくらい前の時代か僕は知らないけど、かなり前の時代だろうし。賢者っていうポジションでいいんじゃないだろうか。
「それで貴族になってお金持ちになってハッピーエンド!! 的な?? 」
「最近の日本の異世界無双モノだったらそうなんでしょうけど、当時の『自分の身に着けた価値観が絶対正義だと思っている傲慢な現代人』が、そんな結末を迎えるワケないじゃないですか」
なんか雪奈が問題発言をしているような気がする。
「アーサー王時代は略奪あり奴隷売買ありの封建主義な王朝で成り立ってる世界ですが…… 自分の価値観が絶対だと思っている現代人が現地の野蛮人を教育してやろうと現代的なヒューマニズムやら民主主義やらをブッ込もうとしてですね、当然ながら権力者に暗殺される流れになります」
「「えぇ―――― 」」
そこ当然なんだぁ……
「主人公からして見れば『正義の行い』のつもりだったんでしょうが…… 現地の権力者からすれば社会体制を転覆しようとするテロリストに他ならないので、権力者から命を狙われて当然です。郷に入っては郷に従え、という言葉を知らない無知な人間は主人公の方だったというワケですね。奴隷労働ありきで絶対王政の封建社会へ、民主共和制だのヒューマニズムだの奴隷解放だのをブッ込もうとか、ある意味で現地の野蛮人以下だったというか。ワタシが王様でもそんなヤツ捕まえて処刑しますよ」
民主主義がテロになる世界なんだね。中世って。
「で、主人公は死んじゃってバッドエンド?? 」
「確か死に戻りで現代に戻って来る…… という感じだったと思いますが、細部や結末はよく覚えていません。夢オチみたいな感じって事でいいんじゃないでしょうか?? 現代人はやっぱり現代世界が一番、という事じゃないですかね」
夢オチかー。そういう事なんだろうか。
「というか『民主共和制』なんてモノは一般市民の教育水準が相応に高くないと、マトモに働かないんですよ。いっぺん共和制にしてみたけれど、衆愚政治で国政がガバガバになったあげく君主制に戻った事がある国だって前例としてあるんですし、一般市民で文字を読めない人間がほとんど、みたいな大昔のヨーロッパなんぞで民主共和制なんぞ成立させるのは無理なのです。…… と、そんな感じで『調子に乗った傲慢な主人公がバカな事をやらかして破滅する』という展開とか『現代人の感覚を異世界に持ち込んでバカをやらかす』とかいう話を含めて、最近流行りの異世界モノのネタは一通り出てくるような小説でしたね。『異世界や過去の世界で科学技術無双』なんて、相当な昔からありますよ」
「えー?? そんな昔からあるの?? 」
「それ30年以上も前に海外の作家が考えて書いてるんだよね…… 」
そう考えると、ぜんぜん新しいジャンルでもない気がするなぁ。リメイクとかリバイバルとかそういう言い方をするジャンルじゃないのかな。
「そもそも『異世界転移』だったら海外の三文小説でも定番のネタで、当時の流行りで火星とか金星とか平行世界の地球とか何万光年先の惑星とかに転移して、現地の王族のお家騒動に巻き込まれて切った張ったの大暴れ、最後は美女とよろしくやって王様になる、みたいな話なら掃いて捨てるほどあったハズです。異次元世界に『救世主として召喚される』みたいなのもありましたし、転移した先が低重力の惑星で主人公が剛力無双の超人と化す、みたいな話もありましたね」
「なんか聞いた事あるようなパターンばっかりなんだけど」
「今現在、流行ってる異世界モノとほぼ変わらないんじゃないの」
かなり前に海外で流行ったネタが、今の日本で再燃した、みたいな事だろうか。
「見る人が見れば、『古臭いネタ』かも知れませんね。ネタの焼き直しというか…… まあネタの焼き直しはいいんですけど、自分が使う題材くらいは調べてから使って欲しいですね。ときどき正気を疑うような設定が出てきてナンセンスギャグなのかと思ったりする話を見かける事がありますし。特に現代技術を使うところは特に…… 技術無双系のくだりで『そんな技術は我々の世界には無いぞ』と読者ツッコミを入れる話もありますから…… フフッ」
「あ、こないだの話はギャグとして面白かったんだよね!! キノコでサバイバル!! 」
「ふひゃへへへ!! やめて下さいお姉ちゃん!! 笑っちゃうじゃないですかフフッ」
「ぶっちゃけサバイバルの食料はキノコで充分!! 」
「うひゃひゃひゃひゃ!! 」
「10kgのキノコ!! 見渡す限りのキノコのジャングル!! 」
「ぷひゃひゃひゃひゃ!! 」
「あーもうキノコは食べ飽きたぁ!! でもあと5キロ食べないとカラダがもたないしガマンして食べないと…… 」
「ひゃっひはははははっひっひっひっ…… 」
その後しばらくの間『毎日キノコ!! 今日もキノコ!! 』と言って雪奈を笑わせる春奈と、ソファからずり落ちても笑い続ける雪奈の楽しそうな声がリビングを満たしていた――
※※※※※※※※※※※※
そしてある日の夕食後のこと。
「はい!! みなさんご注目―― !! 」
と、雪奈がニコニコ笑いながらタブレットを手にして声を上げる。
「異世界マンガの面白ネタ!! 有名どころの一発ネタです!! 」
「おおー」「マイブームなんだなぁ」
「一発ギャグかな?? 」「どんなネタかしらね」
僕らが見守る中、雪奈はどこからか切り取ってきた画像をスライドさせながら、さながら紙芝居のように語り出した。
「主人公さんは、なんやかやあって自分がプレイしていたゲームをコピペしたかのような世界に転生してしまいます。もちろん自分がビルドしたキャラと同じ能力を持ってです。世界屈指の魔法使いで片手で街を灰燼に帰するほどの超人です。接近戦でも並の戦士なら指先一つでノックアウトできるほどの剛力無双です」
「「うわぁ―― 」」「無敵スタートか」「それが最近の流行りなの?? 」
とりあえず最強無敵で何でも出来そうなキャラみたいだった。
「これはそんな主人公さんの活躍を描いた小説の、『コミック版』の一発ネタです」
「「あ、原作ありのマンガなんだ」」「「ほうほう」」
雪奈の語りは続いていく。
「とある小さな町で仲良くなった女の子が、つるべ式の井戸で水汲みをしています。小学校低学年みたいな小さな女の子なので、水汲み桶を引き上げるのも大変そうです。そこで主人公さんは考えました!! 『もっと手軽に、使いやすいようにしよう!! 』と」
「技術無双だ!! 」「あー」
「なるほど。手押しポンプか」「ちょっと。ネタバレはダメでしょ?! 」
雪奈は父さんのネタバレ発言的な言葉にも怒らず、ニコニコしながら語り続ける。女の子が水汲みをしている様子の画像をまじえて説明しながら、次の場面へと移る。
「そして!! 『完成です!! 』と主人公さんが作り上げたのがコチラ!! 」
「「えぇ―― っ!! 」」「「ほぉあ―― ?! 」」
水車だ。
なぜかさっきまで水汲み桶が吊るされていた井戸に、『水車』が取り付けられている。なんなのコレ。というか、コレでどうやって井戸から水を汲むの?? 水面ずっと下の方だと思うんだけど、水車のいちばん下の部分、井戸の石垣?? に少し隠れているくらいだし。この水車で直接水をすくう事ができるんなら、水面って手が届くんじゃない?? だったら桶を使って手ですくえば早いんじゃないかな。重くない程度にちょっとずつすくっても、そんな手間じゃないはずだし。というか井戸の直径、さっきの画よりも大きくなってない?? 井戸そのものを改造したの??
「ワケがわかんないよ?! 」
春奈が口にした一言は、僕らの気持ちそのものだった。
「ごもっともです。そしてこのコマを見た読者から、さまざまなツッコミが寄せられて、中には直接的な『お前●●じゃねえのか』みたいな悪口も届いたようです」
「うーん」「なんというか」「ちょっとなぁ」「そうねぇ…… 」
ですよね。なんというか『ごもっとも』というか。これは無いなぁ、と思う。
「まあ、コレでも充分に笑えるんですけどね。しかしこのコマに描かれた内容をバカにするだけでは小中学生レベルというモノでしょう。なにせ、この後の展開では『ごく普通に女の子が水車を回して水汲みをしており、主人公さんは町の皆さんに絶賛されている』のです!! 」
「「「「そんなバカな!! 」」」」
そんなバカな!! そんな事あるワケが無い!!
「そこが問題なのですよフフッ!! 」
「どういう事なんだ雪奈」
得意げな顔で笑う雪奈に、父さんが問いかける。どういう事なんだよ雪奈。
「つまり、『理科や算数の文章問題』あるいは『物理学の証明問題』と同じ事です。読者がどうこう文句を垂れようと、このマンガにおいては【 これが現実 】なのですよ!! 自分の脳内思考と都合に合わないからといって事実を否定していても仕方ありません!! それは天動説を信じたいばかりに地動説を唱える人間を宗教裁判にかけるようなモノ!! つまり【 この現象を大前提とし、どのような理屈ならば説明ができるのか?? 】という事を考え証明できる説を立ち上げるのが、科学的なアプローチというモノなのです!! 」
「ああっ?! 」「えぇ―― 」
「なるほど…… 」「条件を満たす解を求めよ、という事ね」
僕は思わず『そんなバカな』とか思ってしまったけど、そういう考え方もあるのか、とも思った。もしも結果として『水はちゃんと汲めた』のだとしたら、僕が何かを見落としているか、何かを錯覚して思い込んでいる、という事なのかも知れない。
そして僕らは、『どんな思い込みの可能性があるのか』そして『どのような解決方法が存在するのか』という事を話し合う事となった。
「そもそもコレが水車かどうかも怪しいモノです」
「コレ水車じゃないの?! 」
「このマンガのどこにも『コレで水を汲み上げた』などと描いてありません。ただ水車らしきモノを回すと、水が水車のマスからこぼれ落ちてきた、という現象が描かれているだけなのです」
「その水どこから来たの?! 」
「やはり水面が浅いのか」「でもそれだとさっきの井戸と違うわ」
「じつは魔法の道具なのかも」「回すと水が出てくるの?? 」
「だったら井戸の上につける必要なくない?? 」
「回すと下にある水を吸い上げてくる魔法の道具かも?? 」
「井戸の直径も違ってるし、やっぱり井戸を改造したんだよ」
「だとすると、水脈からしてどうにかしてるぞコレ。池だぞ」
「池だとすると、水車の意味は?? 」
「労力を減らすためですかねー。極限まで楽をしたい、みたいな」
「手押しポンプよりもヒドイなそれ!! 」「仕事よね?? 」
「主人公さんは蛇口を回して水が出るのが当然だと思ってる現代人です」
「もう上水道でも作ったらいいんじゃないかな」
などなど。
結果、『井戸の形状が変わっているから、おそらくは井戸そのものと地下水脈を改造して水を汲みやすくした。水車はオマケ』という結論に到った。もちろん井戸の改造をする部分の描写はマンガには描かれていないのだけど、工作課程はかなり飛ばしているから、そういう事も充分に考えられる。という事で落ち着いた。きっとこの町の周辺の井戸で同じような水位変動が起きているだろうから、水汲みはすごく楽になっているはずだ。
いちおうの結論が出た後、雪奈はまた続ける。
「…… しかしこのコマがネットで大いにネタにされバカにされたせいかどうかは分かりませんが、単行本になる前にこのコマは修正され、このようになります。じゃーん!! 」
「「………… え?? 」」「「………… あれ?? 」」
タブレットに表示されている画像には。
井戸になにやら歯車がいくつもついた仕掛け…… ベルトコンベアーを縦にしたようなカラクリがついていて…… これをハンドルで回すと、コンベアー中央に取り付けられたマスで井戸から水が汲めるようになっている…… ようだった。さっきと違って水車ではない以上、井戸の水面は最初の状態と変化していないのかも知れない。
「…… ちょっと待ったぁ!! 」
春奈が手を挙げる。
「なんでしょうか、お姉ちゃん」
「コレおかしい!! このハンドル回しても、このベルトコンベア回らないよ!! 上下の歯車が逆回転するしベルトコンベアのギザギザと全部噛み合ってるから、ベルトが一方向に回らないもん!! 無理に回そうとすれば壊れるよ!! 」
「まあそこが笑いどころです」
「だよね!! 」
「でも水が汲めるんですよ、お姉ちゃん」
「そんなバカな!! 」
そんなバカな。
僕も、きっと父さんも母さんも、春奈と同じ気持ちだったと思う。そんなバカな事があるものか。ある意味、さっきの水車よりもヒドイ話だと思う。
「では『どこにトリックがあるのか、どんな心理トラップが仕掛けられているのか』という事を考えつつ、どんなカラクリかを考えていきましょう。今度は魔法による解決策は無しで」
「「「「うわぁ―――― 」」」」
これ何のマンガなのかな。主人公さんが軽く技術無双してヒャッホー、という軽いノリの異世界モノじゃなかったんだろうか。ワケわかんないよ……
「ワタシが思うに、この歯車のようなモノが叙述トリックなんじゃないですかね」
「でもゴトゴト音がしてるよ」
「魔法で素材が物理変化していないとすれば、材料はぜんぶ木です。こんな鋲を打っただけの連結した木片がベルトコンベアとして機能するはずが無いです」
「じゃあなんの音?? 」
「おそらくカバーの内側の『本当の機構』が動く音ではないかと」
「じゃあこの外側の歯車は何だ?? 」「カバーなの?? 」
「必要なのは『内側のマスが動いて循環する事』ですからね。外から見えているのがその真のカラクリを隠すためのフェイクだったとしても不思議ではないかと」
「まあ普通に考えれば、歯車は軸を動かすためのモノだしな…… 」
「本体はチェーンブロックみたいになってるって事かしら?? 」
「自転車のチェーンみたいって事?? 」
「だとすると歯車の歯は見えてたらおかしいよね」
「変速機のようなモノが内蔵されていれば、子供の力でも動かせる可能性があります」
などなど。
結論として、『外側の歯車状のモノは動くわけがない構造をしているので、動かないのが当然。だとすれば動いているのは別のモノだ』という方向で論理的整合性を取る、という事で落ち着いた。実際、マスが1メートルあたりいくつ連結されているかは分からないけれど、容量と井戸の深さによっては改造前の汲み桶よりも容量が増えてしまい、歯車の機械的な負荷とハンドルの棒の長さからして、歯車が回転したら死ぬほど重くて子供には回転させる事は不可能になってしまい、『仕事を楽にする』という当初の目標から外れてしまう。その不具合を解消するためには『目に見えている情報は読者をミスリードさせるための罠』と判断するのが妥当だという事になった。
「こういう事を考えるのも楽しいでしょう?? 」
「そうだね」「理科の授業みたいだった」
「物理学の歩み、みたいな感じだな」「観測、仮説、証明ね」
真実がどこにあるのかは分からなくとも、ただケチをつけるよりも面白いかも。そうか、異世界ネタのマンガってこういう楽しみ方もあるんだなぁ。
「そしてこのネタは最終局面を迎えます」
「「えぇ―― 」」「「まだあるの?! 」」
改定前・改定後の2段オチで終わったんじゃなかったの?! 3段目って何だろう。
「このマンガ、原作は素人同人作家のWEB投稿小説なのですが」
「犯人はソイツだ!! 」
雪奈の言葉に、素早く反応する春奈。
「原作小説はまだWEB版が投稿されっ放しになっていて、問題の箇所が出てくるページがコチラです。ずいーっと下の方にいくと…… はい、この部分ですね」
「「「「 ……………… 」」」」
僕らは雪奈が表示した文章を、ゆっくりと読み進める。そして首をかしげながら読み進め、また戻って読み返し、頭の中で状況を整理する。
「…… えーっと、雪ちゃん」
「なんでしょうか、お姉ちゃん」
「コレってマンガのツッコミが入った後に修正したの?? 」
「履歴が正しいとすれば、『最後に改訂したのは【 マンガになる数年前 】』です」
「 ………… え、えぇ―― ?? 」
「そして読んでいただいたので理解されたと思いますが、この小説内では【 ギアボックス 】なるモノがハンドルに取り付けられている事になっています。説明不足でよく分かりませんが、おそらくは変速機に該当するモノかと思われます。そして、ベルトコンベアを動かしているのは【 歯車一組だけ 】ですよ」
「 …… と、いう事は…… 」
雪奈は、ひと呼吸おいて言い放つ。
「犯人はマンガ家と雑誌編集です!! 原作をロクに読まずに適当な作画をした結果、作品に対する風評被害を招きました!! おそらく当時ネタに乗っかった人には『これだから同人小説作家はバカだな』とか言った人も多いでしょう!! しかもツッコミを受けてから小説を読んだのかマンガを読んだ作者からクレームが入ったのかは知りませんが、またも小説の文章をロクに読まず、おそらくは原作者と打ち合わせもせずにやっつけ仕事をしてこの有様!! そして見事な2段オチの伝説的な一発ギャグが完成したのです!! 」
「こいつ許せない!! 」「出版社ひどいなぁ」
「原作者はかなりナメられてるな」「強く出られないのかしら」
雪奈は『まあ計算されつくした炎上商法の可能性もありますが』などと言っていたけれど、僕はヒドイ話だなぁ、と思った。原作を漫画化するんなら、もっとちゃんとやるべきだと思う。
キノコみたいな話もあれば、こんな話もある。ネットで何かの情報を見た時は、ちゃんと自分で調べてから覚えたり考えを述べたりしないといけないな、と。そう思う僕なのだった。
ちょっと待て!! 今、自分が抱いた感想は本当に正しいのか?!
俺達は、何か重要な事を見落としている気がする…………っ!!
なお当作品はフィクションです。何かを批判したりする意図は微塵もございません。でも編集部の校正作業はもっとしっかりやった方がいいと思うし、担当編集は最低限マンガにする回をちゃんと読まなきゃダメだしネームと完成原稿のチェックはしないとダメだと思うの。同人作家をナメるのは分からんでもないけど、最終的にバカにされるのは会社の方なんだよな……
搾取される同人作家に希望の光があらん事を。
当作品は、ゆるーい睡眠導入剤的な役割を果たしたいと思っております。今後もゆるくお付き合いくださいませ。




