39 年末年始の山村家
謹賀新年!!
今年の最終日、という日の夕飯時。我が家では国営放送で放送されている、紅白歌合戦の冒頭部分を流し見ていた。
「この番組を見ると、『大晦日なんだな』という気がしますね」
「確かにね」「年に1回だけだもんね」
年越しそばを食べながら、完全にくつろいでいる僕達。我が家では二年参りとかいうイベントをやる予定も無いし、年が明けての初詣まで、のんびり過ごす事になっている。正直、紅白歌合戦もすでに飽きてきたし……ラスト部分だけ確認する事にして、夕食が終わったら兄妹でゲームでもすればいいんじゃないか、とは思うのだけれど。
「チャンネル変えてもいいですか」
「いいよー。いいよね??」「いいよ」
「お父さんもいいよ」「お母さんもいいわよ」
皆の許可をもらって、雪奈がチャンネルを変え始める。そして変え終わったチャンネルでは、よく知らない昔の歌手が歌を歌っている映像が流れていた。なぜ昔の映像なのかが分かるかというと、画面の両端が切れている事と、画像がネットの低解像度動画みたいに荒いという点によってだ。たいていこういう映像の場合、昔のテレビの録画映像を流している事が多い。よく見れば、左上の方に『1985年』とか表示されている。歌手の名前も書かれているけれど、僕が全然知らない人だ。もっとも、僕はそれほど芸能人に詳しいわけではないけれど。
「つい見ちゃうんですよねー。こういうの」
「雪ちゃん、昔のヤツがけっこう好きだもんね」
雪奈は小さく鼻歌を歌いながらテレビ画面を見ている。
「この人、この歌の時、こういう髪型でしたっけ……まあ、女性アイドルですし、ときどき髪型も変えますからね……ぜんぶを覚えているワケでもないですし」
などと言いながらも見ている。相変わらず、ところどころ変な事を言っている気がする。聞き流せるレベルではあると思うんだけど。
「キャー!!〇〇〇ちゃーん!!」
雪奈が歓声を上げていた。
「雪ちゃん、この人お気に入りなの??」
「この年代だと、そうですね。相方よりも、こちらの可愛い系の方が。もちろんユニットとしても推しです」
「そうなんだ。どこかで聞いた事のある曲だなあ」
「高校野球の応援曲の定番ですよ。本当は左腕女性投手と伝説的大打者の左打者との対決を描いた歌な上、歌詞の中での『 自分 』は『 投手 』なので、左腕投手を応援する歌のハズなのですが、現行のルール??では『 鳴り物つきの派手な応援は攻撃側のみが行う 』という不文律??があります。そのため、どういうワケだか左打者の応援曲として使われているのですが」
「さすが雪ちゃん!!物知りだなぁ」
「それほどでもありません」
「ところで歌詞の中に出てくる『サウスポー』って何だろ??」
「野球においては『左腕投手』の事です。昔は左腕投手の左手が『南を向くから』だと言われていたんですけどねえ。どうも最近は否定されているらしいですよ。野球が普及する以前から、どういうワケだか『左利きのスポーツ選手とか』を、そう呼んでいたみたいで。よく分からないようです……ですので、左打者の応援曲として使われていても問題ないと言えば問題ないのでしょうが……どうにも納得いきません。左打者をいまさらサウスポーと呼べと言われても……」
そもそもサウスポーという単語が日本で普及したのは彼女達のおかげです、などと。ぶつぶつ文句を言いつつも、お椀を流しに持って行く雪奈だった。
そして雪奈が飽きるまで『年忘れ懐かしの歌謡曲(みたいな名前の番組)』を見た後で、家族みんなでゲームをやったり、歌合戦のラストだけ見たりしながら夜更かしして、大晦日の夜は過ぎて行った。
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そして、年が明けて。
「明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」
「おめでとう。今年もよろしく」
雪奈が父さんに挨拶していた。滑舌が良くない頃から、ずっとこの通り。ていねいな口調で年始の挨拶をしている。もちろん家族だけでなく、ご近所の皆さんに対しても同様だ。おかげで『山村さんちは子供の教育が行き届いている』という評価のようなものが自然と出来上がっているらしい。もちろん僕も春奈も挨拶はキチンとするようにしている。
「はい、お年玉」
「ありがとうございます」
雪奈が頭を下げてポチ袋を受け取っていた。子供にとって年始の挨拶は大事なものだ。もちろん冬休みが終わる前には、お爺ちゃん家にも挨拶に行く事になっている。
「雪ちゃん、お年玉で何を買う??」
「交際費として取っておきますよ」
「「交際費?!」」
春奈の問いかけに対する答えに、ビックリする父さん達。僕は『こうさいひ??何それ??』という感想しか浮かばなかったのだけれど。
「雪ちゃん、『こうさいひ』って何??」
「『交際費』というのは、『お付き合い』にかかる費用の事です。ほら、『男女交際』とか言うでしょう??」
「デート資金って事?!」
「ちがいます。『仕事などの』『お付き合い費用』の事ですよ。得意先の人を接待したりする時に必要なお金で、会社が必要経費として計上するヤツですよ。子供だって交際費は発生するのです」
なにそれ。僕も子供なんだけど。すぐに思いつかないんだけどな。
「えぇー??どんなのがあるの??」
「主に流行りのゲームに、クラスの大部分が乗っかる時ですね。兄妹でシェアする事ができるゲームや、家族みんなでプレイする事ができるゲームの場合はともかく、女子だけで流行っているゲームが発生したり、男女問わずに流行るガチャ系ゲームの場合なんか、そりゃもう大変ですよ。バケモン(バケットモンスターの略)シリーズのゲームはともかくとして、もう妖怪メダルゲームみたいなのは勘弁して欲しいのです。とりあえずカードバトル系は男子がメインらしいので、とりあえず助かっていますが」
確かにアレは大変だった。僕も経験がある。トレードしたり、発売日にダッシュして買いに行ったり、レアなカードを求めてリユースショップを探し回ったり。見つかっても高額すぎて手が出なかった事もあるし。
「ポテチのオマケのトレカとか、フィギュア消しゴム系ガチャとか、ウエハースチョコのシールが大流行した時なんかもうそれは大変で大変で……レアなアイテムが30年くらいたってマニアの間で高額取引される事もありますけど、できるだけ冷静にいきたいものです。大人になっても、オークションで散財する事がないようにしたいと、本当に思います」
本当に。
と、雪奈が床を見つめながら少しばかり重くつぶやいたのが心に残った。何だろう。何か昔の記憶に『やらかした思い出』とかがあるのだろうか。
「そーいう話があるの??誰かの失敗談、みたいな」
「絶版になったレコードやビデオやレーザーディスクなんかを大枚はたいて購入した直後に、CDやDVDやブルーレイで『復刻愛蔵版』なんかが発売されたりするヤツですよ。オークションで3万くらいで落札したCDが、2年後くらいに千円で大量出品されていて愕然としたり、とか。最近では、ソシャゲのガチャのレアキャラが1年後に新規参入無料配布されたりとか、そういうのじゃないですかね。まぁその人も、どういうワケだか1個5千円で買い取り確定していたクレーンゲームのフィギュアを、オークションでの価値を知らずにか甘々設定していたゲームセンターで大量にゲットして出品して、荒稼ぎしていた事もありましたけど。千円で3個から4個取るくらいのペースで、流行りが終わるまでに5万くらい稼ぎました」
「そういう話、たまに聞くなぁ……」「……そうねぇ」
父さん達も少しだけ覚えがあるみたいだった。成功した方か、それとも失敗した方なのか。どっちなんだろう。
「ところで雪ちゃん、レーザーディスク、って何??」
「レコードの親戚です。レーザー読み取りのレコードですね」
「CDの、お父さんみたいなもの??」
「いえ、CDの一族ではありません。住んでいる地域は近いですが、言語体系が違います」
へぇー、と。何となく感心する僕達。もちろんレーザーディスク、というのがどんなシロモノなのかよく分からないけれど。
「そう言えば、『 お年玉 』って、どうして『 玉 』なのかなー」
春奈が自分のポチ袋の中身を確認しながら、そんな事を言っている。それは僕も少しだけ疑問に思った事があったけど、あまり気にした事も無かった。500円玉とか100円玉とか、そういうのかなー、と思ったくらいで。
「お姉ちゃん、それは『 魂 』の事です」
「「そうなの?!」」
春奈と僕はそろって声を上げていた。
「昔は、鏡餅を割って、それを家長が家族に分配していたのです。それが『おとしだま』という話です」
「「鏡餅なの?!」」
あれかな。鏡餅が丸いから玉、なのかな。お餅は縁起物みたいだし、昔は御馳走だった、という話も聞いた事あるし。そういう事なのかな。
「門松や、玄関先の正月飾りなんかが『 年神様を招き入れるための目印 』だという事は御存知かと思いますが」
「「あー、うん」」
適当に返事を返す僕ら。
「その年の『 年神様が宿る 』のが、鏡餅です」
「「ほえー」」
「そして年神様が鏡餅に宿した魂エネルギーを、お餅を通して体に取り入れる、というのが『 鏡割りのお餅をいただく 』という行為です。つまり、お年玉の『 玉 』というのは、その年を生きていく命、『 今年分の魂 』という意味合いのモノですよ。『 御年魂 』と言うのが古い言い方……だという話を、どこかで聞きましたが」
「「今年の分の命?!」」
「近代では金銭が生命線と言っても過言ではありませんし、ある意味で深い意味を忍ばせているような気もしますが。まぁそんなワケで、今年の小学生ライフを生き抜く生命線の一部として、大事に使っていきたいと思います。もちろん鏡餅もいただきますよ」
「うん。あたしも鏡餅たべる」「僕もちゃんと食べる」
鏡餅を食べないと寿命が減っちゃう気分になってきたよ。あと、お年玉も大事に使おう。よく考えて使おうと思う。今年の命の一部だもんね。
「お父さん、ありがとうございます」
「ありがとう、お父さん」「ありがとう、父さん」
「あー、うん。大事に使うようにね」
あらためて父さんに頭を下げる僕らだった。
その後、とりあえずゴロゴロしたい父さん母さんと、テレビを独占してゲームをしたい僕らとに分かれて食後の時間を過ごす事にして、僕らの正月ライフは本格的に始まった。
とはいえ、当たり前の、ごく普通の、のんびりとした正月ライフだ。お年玉を一気に消費して購入したい買い物なんかも無いし、家族でゆっくり、パーティゲームでもしながら過ごそうと思う。
今年も平和に過ごせますように。
リビングの壁際の棚に飾られている鏡餅を見ながら、そんな事を考えつつ。ゲームのキャラクター選択をする僕なのだった。
今年もよろしくお願い致します。
ゆるーくお付き合いのほどを。平和と健康が一番です。




