40 妹と家族、正月の遊び
正月らしい遊び
「ただいま帰りました」
「ただいまー」「ただいま」
僕ら兄妹三人が、散歩を終えて帰宅する。すぐに手洗いうがいをして、コタツへ直行。ちょっと風が吹いていた事もあって、寒い寒い。
「上がってませんでしたねぇ」
雪奈がコタツの上のミカンに手を伸ばしつつ、そんな感想を言う。ちなみに、コタツの上にミカンの入ったザルを飾りたい、と言い出したのも雪奈だった。我が家のキッチンの隅っこには、箱で買ってきたミカンが置いてあったりする。悪くならないうちに食べきらないといけない。
「上がってなかったって??何が??」
「そりゃもちろん、お父さん。『 凧 』に決まってるじゃないですか」
あー、と声を上げる父さん。
雪奈が『正月の空気を吸って来たい』と言って散歩に出かけようとしたので、せっかくだからと兄妹三人で散歩してきたのだけれど。どこを見ても子供の姿は無く、正月から仕事をしている人の車や、同じく散歩中のお年寄り、ジョギングする人の姿くらいしか見かける事は無かった。周囲に障害物の少ない河原まで歩いてきたのだけれど、『凧あげをしている子供の姿が無い』と、雪奈がつぶやいていた。もっとも、曇り空で風が吹いていた、という天気のせいもあるとは思うのだけれど。
「昔は猫も杓子も、冬場になれば凧あげをしていたものですが。最近は、とんと見かけません。どこかの凧あげイベントくらいしか、見かけなくなったのでしょうか。正月くらいは、と思ったのですが。やはり凧あげをしている人はいませんでした」
「へぇー。そうなんだ」
雪奈が皮をむいたミカンを、シェアして食べている春奈が適当な相槌を打つ。
昔って、どのくらいの昔なのだろうか。というか、見てきたかのような物言いを相変わらずしているのだけれど、もう慣れっこになってしまっている我が家では特に不思議な感覚でも無くなっている気がする。
「そんなに凧あげが流行ってたの??」
「いえ、流行ったのは『ゲリラカイト』という洋凧です」
春奈の質問に、また雪奈の昔知識解説的な何かが始まったようだ。
「当時の子供の何割かは『ゲリラカイト』というのが商品名か、凧の種類だと思っていたみたいなんですが、どうもアメリカの『ゲリラ社』という会社が製造販売していた洋凧の事みたいです。デルタ翼カイト……とかいう種類の凧だとか。とにかく和凧と違って良く上がり、しかも下手くそが地面に落下させても簡単には壊れない耐久性が素晴らしく、オモチャを雑に扱う子供の玩具としては最適なシロモノでした。もっとも輸入品だったので当時の子供にとっては、それなりの値段だったみたいですが」
「へぇー。昔はそんなのがあったんだ」
「いえ、それが今でも売ってるらしいんですよ。よく似た商品も、国内玩具メーカーから販売されていたりします」
「そうなの?!じゃあ、雪ちゃん買ってみる??」
「いえ、やめておきます」
即座に購入を否定する雪奈だった。
「ゲリラカイトに限らず、凧あげって結構大変なんですよ。風が弱いと、風の強い上空に上げるまでが大変ですから風が強い時の方が上げるの楽なんですけど、風が強いと寒いですし、上げたら上げたで変なところで落ちると回収が大変ですし。よその敷地に入っちゃうと大変なのはもちろんですが、途中の糸の回収がもう大変で大変で。調子に乗って高空まで上げちゃうと、巻き取りさえ大変になりましてね。一度、雑貨屋で売られている太巻きのタコ糸を連結して200メートルくらい糸を出した事が……ある人の話では、凧と糸に手を引っ張られて、もうそりゃスゴイ力がかかるんですよ。上げるまでは楽しいんですが、凧の挙動を維持したり、巻き取って回収するのは苦痛そのものでした……という話です。どこかで見た画像では、最近は釣り竿を使って凧あげする事もあるみたいですけど。アレってやっぱり巻き取りが大変だから、ですよねぇ」
季節の風物詩として見物だけできればいいです、と言う雪奈。そして雪奈の物言いがすでに、凧あげがあまりメジャーな遊びではなくなっている理由の一つな気がする。
「凧あげは風向きと風の強さが安定していないと困りますから、ある程度の上空まで飛ばさないと安定しないんですよ。ああいうのに興味を持つのは年齢が低めの子供が多いと思うんですが、子供の力では一気に上空まで上げるのは大変でしょうね。低空だとけっこう風が乱れますし。あと最近だと、あんまり開けた場所が無いですから。海岸の方とかでないと適した遊びではなくなっているのかも知れません」
「なるほどねー。ウチの近所じゃ難しいって事だね」
「河原の方なら何とかなると思うけど、高圧線とかもあるからね」
仕方ないよね、と。口をそろえて言う春奈と僕だった。
「そういう事です。羽根つきがわりのバドミントンセットも無いですし、いまどき福笑いで笑える人も少ないでしょう。コマ回しをするにしてもコマそのものがありませんし、双六をやるならテレビゲームの全国鉄道ゲームをやった方がいいです。というワケで」
雪奈はそう言って、父さんを連れて部屋を出ていくと、戻ってきた時には習字用具のカバンみたいな、手提げつきのカバンらしきものを持ってきていた。
「正月ですし、コレをやりましょう!!コタツの天板を、ひっくり返しますよ!!」
雪奈が手持ちのカバンらしきものを、コタツの上に置く。ガシャッ、と。何やら重い音と振動。何かが詰まっているような音だった。
「雪奈、これ何??」
「『 麻雀牌 』です。お父さんの棚の飾りの一つですね。ほとんど使われていないと思います。正月といったら、家族麻雀でしょう!!」
麻雀って、大人のギャンブルのアレだよね。
「我が家は五人家族ですし、メンツとしては充分です。ああもちろん、お金を賭けたりはしないという事で、平和的に遊びましょう。でもまぁ、個包装のチョコとかケーキとか、イカリングの燻製とか、正月のオヤツをチップにすると盛り上がると思います」
いいですよね、と父さんを見る雪奈。父さんは頷きながら、コタツの天板をひっくり返す。ツルツルの面が下になり、緑色の布張りの面が上に向いて。父さんは少し楽しそうにカバンを開けて中身を取り出す。見ればケースの一つ一つにビニール袋がついたままだ。もしかして買っただけでそのままの、新品なのだろうか。
「マンガン以下の点数計算は素人には面倒くさすぎるので、ここは家族麻雀という事で一翻千点の単純計算でどうでしょう。親の上がりは直撃千五百点、ツモ上がり五百オール。二翻から四翻までは話し合いで決めておきましょう。面倒くさかったらマンガン以上を狙えばいいだけの事です。あとチョンボの罰則は基本的に無しで」
「まあ、家族麻雀だしな。それでいいんじゃないか」
見守る僕らを置いて、必要なものをどんどんコタツの上に出していく父さんと雪奈。ごく当然の流れとして、僕は雪奈に問いかけた。
「雪奈、麻雀のルール分かるの??」
「ゲームでだいたい覚えました」
そうなんだ。ウチに麻雀ゲームって無かったと思うんだけどな。どこでプレイしたのやら。
「まあプログラムに穴のある麻雀ゲームとは違って、5枚目の牌がツモれるような事はありませんし、ごく普通に遊びましょう」
「そういうゲームがあるの??プログラムの欠陥??」
春奈が父さんと雪奈が並べていく麻雀牌の様子を見ながら質問している。麻雀牌を並べる様子が珍しいみたいだ。僕も同様の気分だけど。
「昔はねー、あったんですよ。すでに4枚、同じ牌が切れているのに……あ、ちなみに麻雀では同じ牌は4個しかないのですが……なぜか5枚目の牌を相手が切ってきたり、自分でツモったりして上がる事ができたりするゲームがあったりしたんですよ。ネットで調べたところ、ごく最近でも麻雀のルールを理解していない人が作ったとしか思えないような異次元麻雀ゲームが販売されていたようです。ネタ動画を見て爆笑しました」
そもそもネット動画で麻雀ゲームの動画を検索しようとする小学校低学年は少数派だと思うんだけど。それとも僕の認識が足りないのだろうか。
「ま、それこそ大昔のゲームセンターのゲームでは、『対戦相手のコンピューターが、こちらの手牌……手の内を、完全に理解している』ようなゲームが存在するのはザラでしたが」
「ええっ?!そうなの?!」
「『 難易度設定 』を、そういうところで調整してるんですよ。こっちが滅多な事で上がれない、三倍満くらいの役をテンパイすると、牌を切る速度が異様に遅くなるのです。たぶん、残り牌の中から安牌になる牌を検索して抜き取ってくるルーチンに時間がかかっていると思われました。役満をテンパイした時なんか、1枚切るのに1分くらいかかったりするんですよ。ま、強引に自分の手牌を操作して上がらないだけマシでしたが。もっとも、そのゲームでは『絶対に振り込んで来ない』だけでツモ上がりは可能だったので、低確率で上がる事はできましたよ。こっちのツモ牌を同時に操作するタイプは最悪です」
「ゲームはインチキなんだなって事は、何となくわかった」
すでに専門用語がバンバン出てきているのでよく分からない。春奈は興味を引かれたのか、そこら辺の牌??をひっくり返して絵柄を見たり、ルールブックらしきものを見ている。
「あ!!雪ちゃん、これ予備のヤツが混ざってるよ!!絵が描いてない!!」
「お姉ちゃん、それ4枚までは普通に使うヤツです。『 白 』と呼ばれる、模様の無い牌です。5枚目は本当に予備の牌だと思いますが」
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その後。我が家で初めての家族麻雀大会は、あーだこーだと言いながら、それなりに楽しくゲーム進行していった。
「……雪ちゃん、赤いので揃えてるでしょ!!どこまで進んだの?!」
「……何のことやら、さっぱり分かりませんね」
とか何とか掛け合いをしながら。ルールをよく分かっていない僕と春奈は母さんをアドバイザーにつけて色々と相談しながらゲームを進行していた。それなりに点を取ったり取られたり、慣れてくると色々と考える事ができるようになったので楽しかったのだけど……
「……お母さん、お兄ちゃんの手はどうだった??」
「ちょっと春奈!!スパイ行為はダメだよ!!」
などと、春奈が時々ズルをしようとするのは、いただけなかった。
「お姉ちゃん、そのうち『通し』とかやりそうですよね」
「麻雀マンガとかは読ませちゃいけないタイプだなぁ」
などと、父さんと雪奈が会話していたりするし。専門用語はよく分からないけれど。
「――よぉし!!『 地和!! 』正月らしい上がりです!!」
「えー?!なにそれ?!もしかして雪ちゃん上がりなの?!」
「それ、一覧表の一番上のリストに乗ってるヤツじゃん……何点??」
「父さんが一万六千点、大樹と春奈は八千点の支払いだ」
結局、その日の家族麻雀で一番調子が良かったのは雪奈だった。雪奈は『ビギナーズラックです』とか言っていたけれど、どう考えてもビギナーな訳が無いと思う。僕は僕で、高い点数の役を、もう少しのところで上がる事ができなかったので、ちょっと悔しく思ったりした。今度の機会にはトップを取れるように健闘したいと思う。
そんな感じで、家で遊びながら正月ライフを過ごす僕たち。
今度、ゲームショップで中古の麻雀ゲームを購入するのもいいかも知れない。そんな思いを抱く、今日の僕だった。
正月と言えば家族麻雀ですよね!!ね!!
もちろん、ご家庭ごとに多少の違いはあると思いますけど。
ああいうのが好きになるかどうかって、やたらと子供のお年玉を巻き上げようとする親戚のおじさんが居るかどうか、みたいな点にかかっていると思うのですが。
正月なので、軽く更新できるところを更新しておきました。今後ともよろしく。




