34 太陽神の巫女
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僕の家、『山村家』は、ごく普通の家庭だ。そのため、基本的には平和そのもの。特別に変な事件とかは発生しないし、変な事件の持ち込みも無い。だからたいていの『新しいネタ』の持ち込みは、雪奈から始まる事が多いのだ。
「お父さん、織姫さまの封印を、といてください」
「うーん。お父さん、いつから天帝になったのかなー」
これが今回の件のスタートだった。
雪奈が父さんに変な事を言い出したのも、ごく普通の夕食の時の会話だ。食事が一区切りついて、雪奈がおかわりの二杯目をもらった後だったと思う。
織姫の封印、というのは以前に雪奈が『七夕の竹』で作った発火キットの物置きへの封印、の事だと思うけど。言葉通りに受け取ってしまうと父さんが織姫の処遇を決めた天帝みたいに聞こえるよ。
「それに、封印を決めたのは、お母さんだろう?」
そうだった。天帝は母さんだった。
「お母さん、おねがいします」
「何か、焚き火の用事でもあるの?」
そうだよね。織姫発火キットは、その名の通り発火用具だ。基本的に、いまどきの小学2年生に『火をつける合法的な理由』というのは存在しないと思う。
「あります。もちろん、火元責任者として、お父さんも同伴いたします」
「それは今、聞いたような気がするけどね。どんな理由なんだい?」
どうやら父さんは初耳だったようだ。友達と焼き芋でも作るのだろうか。
「【 悪霊払い 】です」
「えっ」
「えっ」
「「ええっ?!」」
思わず驚きの声を出してしまう僕達。今、なんて言ったの??悪霊?!
「まあ、結果として、呪いがえし、という事になるかもしれませんが」
やはり、なにやら物騒な事を言っているような気がする。
雪奈のクラスで何が流行っているんだ。黒魔術とかの危ない『おまじない』だろうか。先生に注意してもらわないとダメなやつかな……と思って、詳しい話を聞いてみると。当たらずとも遠からず、あまりよろしくない話だった。
「じつは、クラスの一部に『不幸の手紙』が流れ込んでいるのです」
「「不幸の手紙?!いまどき?!」」
「……って、何それ」
「どこかで聞いたような……どこだっけ」
父さん母さんは知っているみたいだけど、僕と春奈は記憶に無い。昔流行った何かだろうか??
「不幸の手紙、というのは、世代をとわず、定期的に流行ったりする事がある、一種の『チェーンメール』です」
雪奈は、『不幸の手紙』を知らない僕と春奈のために、説明を始めた。
「多少の違いはありますが、だいたいの文面は、このようなものです」
【 これは不幸の手紙です。この手紙と同じ文面の手紙を、※※人の人に出してください。※※日以内に手紙を出さなければ、あなたに不幸がおとずれます。この手紙を出さなかった※※県の※※さんは、交通事故で死にました。これは嘘ではありません。不幸になりたくなければ、手紙を出してください。なお、この手紙を捨てても不幸になります 】
「――という感じです」
「「ええええええ」」
なんて嫌な手紙だ!!いったい誰の仕業だよ!!
「いまどき電子メールではなくホンモノの手紙を使うなど、アナログなイタズラをするヤツもいたものです。まあ、この『不幸の手紙』は、ツッコミどころ満載なのですが。この手の『悪いおまじない』は、『お焚き上げ』するのが定番なので。学校近くの河川敷で、まとめて燃やしてしまおうかと」
「……話は分かった。でも、どうして雪奈が『火つけ』する事になったんだい?」
「先生ではなく、ワタシのところへと、相談が持ちこまれたのです」
「ええ……」
先生が何気に悲しい。確かに雪奈はクラスのまとめ役、みたいな感じらしいけど。
「なるほどね……しかし、一応は先生にも話をしておいた方が良くないかな?まだ先生には話が行ってないんだろう?」
「そうですね……大村先生にも、メンツというものがありますからね。クラスの問題を知らなかった、という事はいけません。すぐに話を通しておきましょう」
ふーむ。と考え込みながら、おかずとご飯をもぐもぐ食べる雪奈。
「……お母さん、やっぱり織姫さまの封印は、そのままでけっこうです」
「そうなの?」
「そのかわり、と言ってはなんですが。お父さん、すこしばかりお金を出していただけないでしょうか。いえ、たいした金額ではありません。パーティーグッズを買うくらいの金額です。あと、お父さんのキャンプ用品をひとつ、貸してください」
「雪奈のクラスの問題を解決するのに使うんだから、お父さんは喜んで協力するよ。何が欲しいんだい?」
「ありがとうございます。だれもが知っているであろう、織姫さまの力を借りることで、悪いおまじないをやっつける、というストーリーでしたが。ここはひとつ、大いなる神の力を借りる事にいたしましょう。徹底的にやってやります」
大いなる神の力、ときた。何をするつもりなんだ、雪奈。
「八百万の神の力もて、ザコの呪いを始末してやります」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
月曜日。話は想像以上に大きくなっていた。
『このクラスに、【 不幸の手紙 】をもらった人はいませんか?もしもいたなら、この箱に、もらったてがみを、そのまま入れてください。つぎの日曜日に、この悪いおまじないを、完膚なきまでに、成敗してやります!!見学を希望する方は、後日連絡する時間に、集合してください。正義の勝つ瞬間を、見せてあげましょう!!』
などと。そう言って。
担任の大村先生を同伴した、【不幸の手紙ダストボックス】なる小箱を大量に持った雪奈が、僕のクラスにもやって来た。そしてこの箱を全校の各クラスに配って回っていった。
「あれ、お前の妹だろ。なに始めたんだよ」
「不幸の手紙?なんだそれ」
「……あのさ……僕のとこにも、手紙、来たんだけど」
「わたしのとこにも……やっつけるって、本当??」
なんかやたらと、質問攻めにあった。とりあえず『雪奈は色々と物知りだから大丈夫』と言っておいたけど。どうなるんだろうか。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「お集まりいただき、まことにありがとうございます」
集まった小学生と、同伴の親御さんを前にして。雪奈は踏み台の上に立って挨拶をしていた。小学生の数は意外に多い。同伴の親御さんを含めれば、100人は超えているかもしれない。中には雪奈の友達の二人の姿もあった。
ちなみに、今現在、雪奈が着ているのは『激安』を売りにする大手ディスカウントストアの面白グッズ売り場で売っている、安物のインチキ巫女衣装だった。適当にスソ上げをした状態で強引に着込んでいる。なお、昨日の夜の試着の時も、今現在も、父さんや春奈が写真を撮りまくっている。
「さて、みなさん。『不幸の手紙』の由来、というものを、ごぞんじですか??」
雪奈の言葉に、返事を返す子供はいなかった。
「もともと、『不幸の手紙』なんてもの、存在しなかったのです」
ざわざわ、と。子供のざわめき。『えー』という言葉に混ざり、『当たり前じゃん』みたいな言葉も聞こえた。こらそこ、混ぜっ返すなよ。雪奈がしゃべってるんだから!!
「はいそこ!!いい事を言いました!!」
ずばっ!!と、雪奈が指さす。たぶん『当たり前』という声のした方だ。
「そうです。『当たり前』なのです。こんなもの、有史以前から存在したものでは、ありません。何かのひょうしに、『だれか』が、『てきとう』に、『作ったもの』なのですよ!!れいせいに考えれば、おそれる理由など、どこにもありません!!」
雪奈の言葉に、ざわめきが収まる。
「一説によれば、この『不幸の手紙』というものには、元ネタがあるらしいのです」
雪奈の言葉を、だまって聞く僕達。
「もとは、『幸福の手紙』というものだったという話です。やれやれ、ですね」
再び、ざわざわという、ざわめきの声が広がる。
「――もとの『幸福の手紙』も、文面はおなじようなモノです。【 これは幸福の手紙です。これと同じ文面の手紙を、※※人に出すと、あなたは幸福になれます 】という、わりとシンプルで、しかも、脅迫的な内容など無いシロモノだったそうです。ちなみにこれが流行ったのはアメリカとかの外国です。ま、これを裏読みすれば『手紙を出さないと、幸福を逃す事になりますよー』という事にもなりますので、もしかすると、郵便会社の売り上げ戦略の一つ、だったのかもしれません」
ざわざわ。えー、マジでー。と、ざわめきが続く。
「それが、日本にこの『幸福の手紙』が輸入されてしばらくすると、いつの間にやら【幸福】が【不幸】にすり替えられて、いやらしい、タチの悪いチェーンメールになってしまったのですよ。ちなみに近代、ケータイメールでも、似たようなイタズラメールが流行った事もあります。本質的に、ただのイタズラなのですよ」
ざわざわ。そうなんだー。と。少し安心した空気が流れる。
「ちなみに、ですね」
雪奈が少し大きな声を出して、また雪奈に注目が集まる。
「【 棒の手紙 】というのも、ありますよ?」
『『『棒の手紙?!』』』
はい?それって何?棒?棒がどうなるの??
「この『不幸の手紙』ですが、日本で流行りはじめたころ、便せんは『たて書き』がふつうだったのですが、世代が変わるにつれて、しだいに『よこ書き』の便せんが増えてきました。もちろん、『ハガキのお手紙』なんか、線が引かれてないので、タテヨコをどうするかは、書き手の自由です。そのため、こういう【 事故 】が起きました」
と、雪奈は用意しておいた……テレビのバラエティーでよく見るような、フリップみたいな厚手の紙を取り出し、頭の上に掲げた。それには、こう書かれている。
【 不 + 幸 = 不幸 → 木幸 → 木奉 → 棒 】
『『『あああ――――!!』』』
そういう事かあ、と納得の声が上がる。低学年の子は、よく分かってないみたいだけど。
「ここまで来たら、ギャグですよね」
あははは、と笑い声があちこちで上がる。最初にあった、どこか暗い雰囲気は消えていた。
「ばかばかしい事に、この『棒の手紙』を、ごていねいに回す人たちもいたのです」
あはははは!!とまたも笑い声。
「そして、これこそが『不幸』の、本質です」
雪奈の言葉に、笑い声が止まる。
「そもそも、この『不幸の』手紙、というものには、何の力もありません。ただのイタズラですし、棒の手紙にいたっては、ただのギャグです。しかし、こんなイヤな気分になるものをもらったら、それだけで不幸ですよね。人の悪意が回される、自分が助かるためなら、ほかの誰かが不幸になってもいい、そんな『悪意が回される』ことが、このチェーンメールの『不幸』の、本質です」
静かに雪奈の言葉を聞く、僕達だった。
「そして、こういう『悪いおまじない』は、時にほんとうに力を持つこともあります」
ざわざわ。また少し暗い雰囲気に。どういう事なんだ雪奈。
「とはいっても、ほんとうに棒がやってくる、とか。そういう事ではなく。『何か物事がうまくいかなくなっても、これは【不幸の手紙のせいだ】』とか、何でも都合よく何かのせいにして、逃げて、考えそのものがネガティブになってしまう、そんな【ココロへの悪影響】が、じっさいの『不幸の手紙の効果』なのです。次はきっとうまくいく!!と明るく前向きに考えていれば、何か失敗しても、またがんばれます。ですが、何やってもムダだ……と考えてしまえば、努力すらしません。これではその次、何もうまくいかないでしょう。この『不幸のてがみ』はですね、『ココロにはたらきかける、呪いのようなもの』なのです。こんな悪いおまじないに影響を受けるなんて、それだけで人生を損しますよ。こんなもの、催眠術の一種、なのですよ」
静かに雪奈の言葉を聞く僕達。
おそらく、ここにいる子供たちの中には、不幸の手紙を受け取ってどうしよう、と悩んでいる最中の子供だけでなく、手紙を誰かに出してしまった子供もいるだろう。きっと、それぞれの子たちが、自分のした事、手紙がどういうものなのかを、考えているんだろうと思う。
「とはいえ、『やっぱり、怖いおまじないは怖い』と、思う子もいますよね!!」
雪奈。自分のいい言葉を、混ぜっ返してどうするんだよ。
「そんなわけで、ここはひとつ、【 さらに強力なおまじない 】で、【 反撃 】する事にいたします!!おおもとのイタズラやろうに、ぜんぶ叩きかえしてやりますよ!!お父さん、例のものを、おねがいします」
雪奈、父さんが荷物箱から取り出した道具を手に取って、皆に見えるように、高く掲げる。
「【 おおぎなむじめがねー(大きな虫メガネ)!! 】」
げふんげふん。雪奈が咳きこむ。
「雪奈。無理して声をつぶさなくても」
「なにを言ってるんですか、お父さん。『青タヌキロボのひみつどうぐ』といったら、この声じゃないですか。耳につくカン高い声など、邪道です」
また雪奈が妙なこだわりを見せている。
雪奈の友達の洋子ちゃんのおじいちゃんは『うんうん』と、うなずいているけれど。何なんだろう。たぶんテレビでやってる『未来から来た青いタヌキロボ』が、未来道具で無双するアニメのアレなんだろうけど、微妙によく分からない。
「みなさん、【 オリンピックの聖火 】というものを、ごぞんじですか」
いきなり不幸の手紙から、話が飛んじゃったよ雪奈。
聞いてる人も『いきなり何言い出したんだ』という感じで首をかしげているけれど、お構いなしに雪奈は続ける。
「オリンピックというのは、スポーツの祭典。ギリシャ発祥の催しものです。そして当時のギリシャは、日本と同じく、多神教。【 聖火 】というのは、その名のとおり、【 神様からのもらい火 】なのです。凹面鏡で、太陽の光を集めて着火します。太陽神アポロンのもらい火ですね」
ほほー。と、少しだけ感心する声が上がった。
「では、ワタシはこの虫メガネで、太陽神からもらい火をいただきます」
そんなんでいいのかな、と少しだけ思ったけれど。
雪奈は父さんとちょっとだけゴタゴタしながら虫メガネで着火剤をまぶした割りばし松明に火をつけると、その炎を頭上に掲げた。
「神様からの、もらい火です。つまり【 聖なる炎 】です!!」
「「「………………」」」
「……なんでリアクションうすいんですか!!マッチでつけたわけでもなく、ライターでつけたわけでもない、正真正銘の、太陽神からのもらい火ですよ!!ここはみんなで『 おお―― 』とか言ってくれてもいいじゃないですか!!」
「「「ぉぉ――」」」
おざなりなリアクションを返す、僕達。
うがー、と手を振り上げ、可愛く吠える雪奈。
春奈がすかさず写真を撮る。
「もちろんここは日本です!!アポロンのもらい火じゃありませんよ!!ですが、この日本も多神教の国です!!『日本の太陽神』といったら、ヤオヨロズの神の頂点、アマテラスオオミカミではないですか!!日本の神のトップ、ごりやく何でもござれの万能神様ですよ!!ありがたみを感じるべきでしょう!!」
「あ、それで巫女服だったんだ」
やっと納得がいったよ。
「アマテラスオオミカミの伊勢神宮、といえば、日本でいちばん豪勢な神社なのに……」
「そうなの?」「いせじんぐう、きいた事ある」
近くの子達が、雪奈の言葉にリアクションを返していた。
「高さだけでいえば、昔は出雲大社の方が遥かにスゴかったみたいです。伝説によれば、雲の上に建物があったとか、なかったとか。まあ、樹齢千年以上の建材が、いくらでも採れた時代の神殿らしいんですけどね。今は普通の高さみたいですよ」
「へぇー」「へぇー」「物知りだなあ」
何か近くの子と、普通に話してる。さっきのちょっと残念な様子で、雪奈と聴衆の距離感が急激に縮まった感じがするなあ。
「ねえねえ、聞いていい?」
近くの男の子が、雪奈に声をかけた。
「なんですか?」
「『やおよろず』って、何??」
「すごいたくさん、という意味あいですが……難しい言いまわしで、『800万』という数字のことです。日本の神様は、こまかい誤差を無視すれば、だいたい800万ほどいらっしゃると考えてください」
「800万人も?!」
「神様は人ではないので、数えるときは『 柱 』ですけどね。まあ、そういうことです」
「800まん」「ピンとこないね」「すごく多い??」
子供たちが、それぞれに感想を口にする。ふむん。と、雪奈は鼻息ひとつ。割りばし松明を父さんに渡す。
「仮に、1学期が終わったとします。終業式です」
「あ、うん」
「数を、1秒間に、2つ数えるとします。いち、にい、さん、よん、このくらいです」
「うん、うん」
「終業式が終わってすぐ、数を数え始めて、夜も寝ないで、夏休みじゅう、ずぅ――――っと数を数えていて、夏休みが終わって、始業式が始まっても、まだ数え終わりません。800万とは、そのくらいの数です」
「「「「えええええ――――っっ!!!!」」」」
「だいたい48日くらい、かかるはずですよ」
「「すっごい!!」」「「そんなにいるの!!」」
「はい。そして、その大勢の神様のトップに君臨するのが、アマテラスオオミカミという神様です。この聖なる炎は、その神様からもらったものです」
「「「「すげええええええ」」」」
父さんの持つ割りばし松明の聖火に、子供たちの視線が集まる。雪奈が「神様のもらい火です」と宣言した時とは全然違う、とってもいい感じの盛り上がりだった。
「そろそろ、こっちに火をうつしましょう」
雪奈が踏み台の後ろの缶を叩く。
雪奈が半円状の蓋を開けると、父さんが注意しつつ中の薪(と炭)に火を移し……少しすると、『ゴォ――――ッ』と勢い良い音を立てて、缶から伸びている煙突から炎が噴き出した。
「すっげー!!」「すごい燃えてる!!」「ゴーっていってる!!」
子供たちの反応は上々だった。みんな、こういうの好きだよね。
「簡易式ですが、ロケットストーブですからね。燃料は、灰になるまで燃えます」
そう言いながら、雪奈は『不幸の手紙ダストボックス』がぎゅうぎゅう詰めにされた、透明ゴミ袋を引き寄せてきた。
「こいつめ!!こいつめ!!」
袋から取り出した『不幸の手紙ダストボックス』を、力いっぱい踏みつぶしていく雪奈。
「「ああっ!!」」
見ている子供たちから、声が上がる。
「心配無用です。なにしろ、このワタシは『聖なる炎』を手にした『神の巫女』ですからね。たとえ何かしらの力があろうとも、不幸の手紙ごとき、ザコの影響など、まるで受けません」
「「「 ザコ 」」」
ニヤリと笑い、不幸の手紙を踏みにじる雪奈。
「そうですとも。ザコです。そしてこいつらは、これから日本でもっとも力のある神様の、聖なる炎で焼かれて滅びるのです。神話の時代から存在する神様にくらべれば、わりと最近に生まれたバカなチェーンメールの呪いなど、ザコもザコ。まさに、ゴミどうぜんという事ですよ!!くたばれ!!害虫め!!」
何か最後に変なのが混ざってきた気がする。
「あ、ちなみにですね。こういう『悪いおまじない』は、反撃を受けてやっつけられると、最初にイタズラを仕掛けた、おバカさんのところへ全部返っていくのです。人を呪えば穴二つ、というやつです。やらない方がいいですよ」
そう言いながらも、雪奈はゴミを踏みにじり続けていた。
何か雪奈の農作業的な恨みをついでにぶつけられた『ゴミ』は、くしゃくしゃに固められた上で、缶の中へとどんどん放り込まれていく。ごうごうと音を立てて燃える炎が、心配事のタネを焼却処分するのに、それほどの時間はかからなかった。
※※※※※※※※※※※※
「これにて、一件落着!!」
すぱーん。と音を立てて、日の丸扇子を広げる雪奈。
これも面白グッズ売り場で購入したのだろうか。それとも100均かな。
子供たちから「わーい」と歓声が上がって、雪奈の周りに群がっていく。ねーねー、その服どこで買ったのー?その扇子は?空手やってるって本当?みたいな質問攻めだ。
「この度は、お世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ」
「今後は学校の方でも対応していきます」
「それにしても、しっかりした娘さんですね」
「2年生なんでしょ?塾はどこに?」
「それとも通信学習ですか。よければ紹介を」
「家庭では、どんな教育を?何を話してるんですか?」
父さんは父さんで、先生や父兄の人たちに囲まれていた。わりと大変そうだった。
ともかく。僕らの学校の水面下で広がりつつあった問題は、雪奈の活躍??で、一件落着という事になったみたいだった。まあ、めでたしめでたし、かな。
※※※※※※※※※※※※
数日後、某所の家庭。夜。
「もしもし、※※?ちょっといい?」
『おー、※※か。なんだよ、電話なんて』
「ちゃんと口で言っておこうと思って」
『なんだよ。なんかあったの?』
「おれ、もうお前の手伝いやめるよ。わりに合わない」
『はぁ?!なんだよそれ!!』
「お前のイタズラ、けっこうおおさわぎになったんだよ」
『へー。そりゃよかった』
「ぜんぜん良くねーよ!!さいごに、どうなったか教えてやるよ。……キンパツの巫女が学校中の手紙を集めて、派手にやっつけてたよ。ザコなんて話にならないってさ」
『なあ?!ザコ?!』
「あと、信じるかどうかは勝手だけど、気をつけた方がいいかもよ」
『……どういう、意味だよ』
「悪いおまじないをやっつけると、最初にしかけたヤツのところへ返るんだってさ」
『……な!!おどかすなよ!!』
「バイバイ」
『ちょっとまてよ!!』
電話を切る。そしてそのまま父親を呼んで、番号拒否設定をしてもらった。
※※くんがその後どうなったのか、知るものは誰もいない。
いつか適当な時期に投入してやろうと用意しておいた話です。
不幸の手紙……不幸の電子メール……テレビ番組が始めたという触れ込みのチェーンメール……皆さんは、見た事がありますか………………??
筆者は見かけた瞬間にブチ切れましたが。電子メールに関しては発信者をブラックリストに登録した上で通報した事もあります。無性に犯人捜しをしたくなりますよね!!
チェーンメールなんてロクなもんじゃありません。願掛けなら近所の神社にでも毎日お参りに行けばよろしい!!……と、どこかの金髪さんも言うと思います。今後も当作品は、ゆるーい日常系でやっていきたいと思っております。のんびりお付き合いくださいませ。




