いつから(ウワサ4)
皆がジェットコースターに乗るために列に並んでいる頃、来栖と美作は一呼吸置いていた。
「……悪い、付き合わせて。大分良くなってきた」
「別にいいよ、これくらい。じゃあ、追うのもなんだし、別のところに行く?」
「え……?」
美作の提案は一瞬で来栖に緊張をもたらした。
固まった来栖の手を引いて美作が向かったのは、ミラーハウスであった。
「ここか……?」
「うん。実は最初から気になってたんだよね」
と答える美作の言葉を来栖は聞いていなかった。こんな場所に男女で、かつ二人で来るなんて勘違いされそうだと、戦々恐々していたのだ。挙動不審になり、他人の視線を気にしていた。
そんな来栖の様子を横目で見て、くすりと微笑した。声を掛けて先に中へ入っていく。
「きゃっ!?」
美作が悲鳴を挙げる。その直前には何かにぶつかった音が聞こえた。
来栖が駆け寄って声を掛けると、美作は涙声で鏡におでこぶつけたと嘆く。
駆け寄ってきた来栖の腕を掴むと先に進むように言う。
「お、おう。い、行くぞ」
「……うん」
急に距離が近くなったことに声が上ずってしまう来栖。美作はそれに気が付いた様子もなく背中に引っ付く。
中はかなり明るかった。何人もの来栖と俯いた美作がこちらを見ている。来栖が恐る恐るといった感じで足を進ませていく。
俯いている美作が気になってしゃべりかけると
「大丈夫か?」
「……大丈夫。ぶつけたところ少し腫れちゃったから、振り向かないで欲しいな」
見られたくないほど腫れているのか? と思った来栖は返事をして、早く出るために少し早足になった。
しばらく歩くと道が開けた。出口である。思わず振り返った来栖の目に入ってきた美作に少し違和感があった。
いつも通りの綺麗な黒髪に、対比の真っ白なワンピース。切れ長の瞳に、左目の下の泣き黒子。鼻梁の整った顔立ち。
「なんか……違う……?」
「気のせいだよ」
被せるように否定する美作。しかし来栖は目敏く気づいてしまう。
「目元の黒子って左……だっけ?」
「……だから、振り返らないでって言ったのに」
そう呟いた美作の後ろに鏡の中からこちらに向かって口を開く美作がいた。鏡面を叩きながら何かを言っているようだったが、何も聞こえない。
「後もう少しで……」
残念そうに呟いた偽の美作が出口に向かって来栖を押す。あまりの力に抵抗できずに外までふっ飛ばされてしまった。
慌てて立ち上がり、出口に戻ると扉は固く閉ざされていた。叩いても動く気配どころか、石の壁を殴っているかのような無力さを感じた。
ここからじゃどうしようも出来ないと考えた来栖はもう一度入口へと向かう。
走っていくと入口の所に人が立っているのが見える。それは、市ヶ谷北斗であった。




